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第31話 『その魔物、ウルフ その1』 (▼ルシエルpart) 





 ――――――アテナとローザが行ってしまった。



 アテナは、まさかのこの国のお姫様だった。綺麗な顔と身なりから、もしかしたら何処かの貴族や領主、大商人なんかのお嬢様なのかなーー位には、思っていたが――――お姫様だったなんて。流石にそれには、正直飛び上がる程にびっくりした。


 オレは、一応皆の間では、クールなハイエルフで通っているので、イメージを崩してしまわないよう頑張って平静を装ってみせたが、今思い返してみればかなり驚いている感じになってしまったかもしれない。そう、あえて例えるなら…………とある森に、驚いてびっくりすると凄まじく細くなる梟がいるのだが、そんな感じになってしまっていたかもしれない。



「それにしても、アテナとローザ……大丈夫かなー。なんなら助けにいってもいいんだけど」



 別れ際、アテナは言った。一度王宮に戻って、国王陛下と直に話を付けてくると。必ずだから、5日後にニガッタ村でまた再会しようと。



「約束したからな。オレは、そういう約束は必ず守るエルフだ。だから、もう進路はニガッタ村へ向いている。…………でも…………やはり一人旅は寂しいな。アテナやローザと出会う前…………エルフの里を出発した辺りは、全く一人でも平気だったんだけどな」



 仲間と呼べる者に出会ってしまったから…………独りにもどると、余計に寂しさを感じる。


 ――――まあ、パーティーを解散した訳ではないしな。一時的な別行動と思えば別に大丈夫だ。うん、大丈夫。自分に言い聞かせた。


 そう言えば、ラスラ湖でアテナとローザと解れた後の話。オレは、ミャオとエスカルテの街へ行った。街には、2日ほど滞在したが、その間ミャオが家に泊めてくれたのでありがたい事に宿代はかからなかった。


 それから、買い物などを済ませミャオに別れを言って街をあとにし、今はもうニガッタ村へ向かっている。ミャオにも随分と世話になった…………


 空を見上げる。



「いい天気だな」



 道なりに歩く。この調子だと、ニガッタ村へは明日到着できそうだ。1日早く、到着する分には全く問題ないし、何処かでテントでも張って予定通り明後日、村に入ってもいい。


 ちらりと、背負っているテントへ目をやる。アテナからもらったものだ。


 そんな事を考えながら、歩いていると道から少し外れた所で、冒険者達が魔物相手に戦闘を繰り広げているのに遭遇した。



「ん? あれは……」



 冒険者は、3人。対する魔物はウルフでその数――――20匹はいる。しかもその中にひときわ大型のウルフがいる。あれは、群れのボスだぞ。



「なんだ、一人怪我しているな。助けに入るか!!」



 ウルフ目がけて走る。まずいっ! 怪我をしている女プリースト目がけて無数のウルフが束になって襲い掛かった。仲間が盾になるが、敵の数が多すぎる。守り切れない。射程。少し遠いが弓を構え連続で矢を放った。



 ギャンギャンギャンッ



 3匹とも命中。ウルフ達がやっと、オレの存在に気づいたようだが――――遅いっ!!


 群れに突っ込みながら矢を続けて放ち、更に4匹倒す。目の前の岩に登って大ジャンプ。両手に矢を握りしめて、ボスウルフの背中に飛び掛かるように思い切り矢を突き刺した。悲鳴。



 グオオオオオン



 ボスウルフは、逆上してオレが着地した所を前足で叩き潰そうと攻撃してきた。っが、もうそこにはいない。ボスウルフの両サイドへ高速移動しながら矢を連射。急所に当てなくてもいい。速さ――――連射重視で何本も打ち込む。ハリネズミさながらの光景。ボスウルフは、たまらずのけぞった。



「もらった!」



 しゃがんで両手を地に付ける。風の魔法詠唱。



「《突風精霊魔法(ウインドショット)》!!」



 地に強風をぶつけ、その反動で宙に舞い上がった。その先には、ボスウルフの顔。首元にナイフを突き立て引き裂いた。



 ギャオオオン



 鮮血。ドスーーンという、音と振動と共にボスウルフが崩れ落ちた。そして、それを目の当たりにした他のウルフ達は、四散して逃げ出した。――――1匹の子供のウルフを除いて。



 ウウウウウウウウウ…………



「束になっても、お前たちのボスでもオレには、かなわなかったんだぞ。身の程をわきまえろ!!」



 そう言って、子供ウルフの足元に矢を放ち突き立てた。子ウルフは、逃げ出した。



「大丈夫か?」


「ありがとうございます。助かりました」



 怪我を負っていた女プリースト。良かった。どうやら、無事だったようだ。自分で回復魔法をかけて、傷を癒している。



「すまない、助力感謝する。ギルドでウルフ討伐依頼を受注してやってきたんだが、苦戦してしまった。まさか、あの数に加えてボスウルフがいたのは、想定外だったよ。――――俺は、冒険者でこのパーティーのリーダー、アレアスだ」



 ――握手をする。



「助けてくれてありがとう。本当に助かったわ。私は、ミリス。このパーティーのヒーラーなの」


「ダルカン、戦士だ。恩に着る」


「オレは、ルシエル。見ての通り、エルフの冒険者だ。たまたま通りがかったんだが、助けになれてよかった。……それで、ちょっと聞きたいんだが……」



 ニガッタ村まで、あとどの位か聞こうとしたつもりだったが、アレアスが遮った。



「すまん! 悪いが、報酬の山分けはできない。助力には感謝しているが、報酬は通常、依頼受注者が受け取る事になっている」



 うん? どういうことだ?



「ちょっと、アレアス!! なんてことを言うの⁉ 助けてもらったのよ」


「ミリス、高い授業料を払ったろ? もう忘れたか? こういう事は、ちゃんとしなきゃダメなんだ!!」



 あれ? なんか、勘違いしているな。



「それでも、彼女には報酬を受け取る権利があると思うわ。ボスウルフだって彼女が倒したんだし、救ってもくれた」


「いや……ちょっと……あの、何があったのか知らんが……別にオレは、報酬とかそういう事を聞きたいんじゃなくて。…………道を聞きたいんだけど?」



 3人とも、驚いた表情で固まった。



「だから、別にオレは報酬が欲しくて助けたんじゃない。言ったろ? たまたま通りかかって助けが必要だと思った。それだけだよ」



 アレアスは、少し恥じたように俯くと言った。



「すまん! 勘違いした。助けて貰っておいて、恥知らずな事を言った。…………以前、組んでいた仲間とちょっとあってな。それからこの3人でパーティーを組んでいて、報酬はきちんと山分けするって決めてるんだ。それに、皆それぞれ訳アリでな。金がいる。…………それにしても、すまなかった。他に何か、物資とかそういうのであれば、分けてやれるが……」



 ふむ。なるほど、色々あったのか。だが、オレは、単純に道を尋ねたいだけなんだが。



「別に食糧も水もあるし、大丈夫だよ。今進んでいる道で、目的地に付けるかどうかを知りたい。ニガッタ村に向かっているんだけど、この道であってるか?」



 アレアス達は、顔を見合わせて答えた。



「ああ、あっている。俺達はニガッタ村のギルドで依頼を受けたので、そこからここへ来た。何処かで、野宿してゆったり歩いていっても、明日の昼頃には付くだろう」


「そうか! 良かった! よし! それじゃ、オレはもう行くよ」


「ありがとう、気をつけてな。俺達は、もうしばらくこの辺をウロウロ調査して回って、ウルフが残っていれば討伐している。少しでも、稼ぎたいんだ。だから、また会うかもしれないな」


「その時は、遠慮なく声をかけてくれ……じゃあ」



 去ろうとした時、ミリスが駆け寄って来て呼び止められた。



「待って!! ルシエル! 待って!!」


「おい、ミリス!」



 アレアスがミリスの腕を掴んで止める。



「アレアス、やめて。離してちょうだい」


「ん? なに?」


「良かったら私達のパーティーに入らない? あなた程のアーチャーなら、大歓迎なんだけど」



 ミリスは、オレを自分のパーティーに誘ってくれた。今まで、オレをパーティーに誘ってくれた者は、アテナ以外は誰もいなかったので、とても嬉しかった。ミリスとも気が合いそうだ。だから、悪くないとも思った。でも…………



「誘ってくれてありがとう!」


「じゃあ!」


「でも、ごめん。その今向かっているニガッタ村で、仲間が待っているんだ」


「そ……そうなんだ。…………それなら、残念だけどいくら誘っても無理ね」


「また、会う事もあるよ」


「そうね……」



 ミリス達と別れ、再び歩き出した。

 









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」で男勝りな性格。特別な弓を所持しており、ナイフと共によく使いこなす。ラスラ湖でのキャンプの際に、アテナが王都へ連れ戻される事態になり、後ほどニガッタ村で合流しようと告げられた。その後は一度エスカルテの街へミャオと戻り、ミャオの自宅でご厄介になった。そして、単身ニガッタ村へ向かう。


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。再び一緒に冒険する為、仲間のルシエルとニガッタ村で合流しようと向かっている。彼女がルキアを新しく仲間に加え、ハルと知り合ったりしている事をもちろん、ルシエルは知らない。


〇ローザ・ディフェイン 種別:ヒューム

クラインベルト王国、王国騎士団の団長。エスカルテの街で治安維持の任務についていた時にアテナやルシエルと出会い親交を深める。それは、王族や冒険者、騎士といったそれぞれの壁を越えて親友になる程だった。王の計らいで、新たにローザ率いる騎士団を『青い薔薇の騎士団』と改め国王直轄の騎士団になった。新たな任務を受けて遂行中。ローザ「私もアテナと一緒に、冒険したい!!」


〇ミャオ・シルバーバイン 種別:獣人

猫の獣人で、アテナの友人。エスカルテの街でお店を経営している。ラスラ湖でアテナ達とキャンプをする。その際にアテナが王女だと明かされる。キャンプは中断し、アテナは王宮へ連れ戻れローザも王都へ戻らなければならなくなった為、ルシエルを連れてエスカルテの街へ帰った。その後、家へルシエルを泊めてあげ、アテナと合流する為旅立つルシエルを見送った。因みにミャオとハルは出会っていないが、もし出会う事があればミャオの可愛い耳もハルに狙われる対象となる。


〇ミリス 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【プリースト】。リオリヨンの街で活動していたが、ウルフ討伐の噂を聞きつけニガッタ村へウルフ討伐にやってきた冒険者。アレアス、ダルカンとパーティーを組んでいるが、ルシエルを気に入り仲間にならないかと誘った。回復魔法が得意だが、実は補助魔法などバッファー的な役割も得意。


〇アレアス 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【ソードマン】。リオリヨンの街で活動していたが、ウルフ討伐の噂を聞きつけニガッタ村へウルフ討伐にやってきた冒険者。ミリス、アレアスとパーティーを組んでいて、一応リーダー。チームでは盾役もこなす。


〇ダルカン 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【ウォーリアー】。リオリヨンの街で活動していたが、ウルフ討伐の噂を聞きつけニガッタ村へウルフ討伐にやってきた冒険者。ミリス、アレアスとパーティーを組んでいる。斧が得意なパワー型。


〇びっくりすると恐ろしく細くなる梟 種別:動物?

そういう梟が何処かの森にいるらしい。驚くと、スンってめっちゃ細くなるらしいよ。単なるそういう種類の梟なのか、魔物なのかは不明。


〇ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。森や草原、荒地、雪山と至る所に出没する魔物。集団で行動し、集団で獲物へ襲い掛かる。群れの規模が大きいと、稀にその中にボスクラスのものがいる場合がある。今回は、そのボスが登場。


〇子ウルフ 種別:魔物

狼の魔物、ウルフの子供。脅威度は極めて低い。他のウルフと共に行動を共にしているようだが、その力の低さから仲間から相手にされていない。ルシエルは、その子ウルフを見て自分の過去を思い出す。そう、エルフの里にいた頃の事を……


〇ボスウルフ 種別:魔物

狼の魔物、ウルフのボス。身体も人間よりも大きく強大。更にウルフは群れで行動する習性を持っていて、ボスウルフも例外ではなく、子分を従えている事が多い。よって討伐には、複数人でパーティーを組んで挑むのが鉄則とされている。Aランク以上の冒険者であれば、単身討伐でも問題ないとされている。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国内にある村。ルシエルのパーティーメンバー、アテナと合流する待ち合わせの場所。ライスが特産品。村だけど、どうやら冒険者ギルドもあり依頼を受注できるようだ。


〇ミャオの店 種別:ロケーション

エスカルテの街にある、ミャオが経営するお店。色々なものが売っている。3階建てで、1階がお店になっており2階と3階はミャオの住まいとなっている。因みにご飯食べたりくつろいだりは2階で、寝室は3階。街には別に、商品の在庫など置いてある倉庫もある。倉庫は賃貸だけど、店はミャオの持ち物。


〇ラスラ湖 種別:ロケーション

クラインベルト王国で3本の指に入る程の、美しい湖。ここで、アテナ達とキャンプをしていたら、王国の騎士団がやってきてアテナとローザを連れ去った。


突風精霊魔法ウインドショット

風の下位精霊魔法。衝撃波の如き風を、手の平から瞬発的に放つ魔法。本来は対象物や攻撃対象を吹き飛ばす魔法なのだが、ルシエルはそれを地面に向かって放ち宙へ飛んだりとユニークな使い方をする。ルシエルは、いくつか使える精霊魔法の中でも特に風魔法を得意としている。


〇ヒーラー

パーティーを組んでいる冒険者の中で、特に回復を担当とする者の総称。





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