表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

309/1358

第309話 『マリンの笑いのツボ その1』 (▼マリンpart)




 ボクら一行は、ノクタームエルドの大洞窟をひたすらに進み、ロックブレイクという場所を目指していた。ロックブレイクは、この大洞窟世界にあるという冒険者達の休憩拠点だという。


 ロッキーズポイントの酒場の店主の話では、その場所には冒険者ギルドの関係者がいるらしい。ラコライとい名の男で、彼と話をすればそこで冒険者ギルドの依頼も受注できるらしい。


 とりあえずはそこに行って、そのラコライという男を訪ねれば、リアのお姉さんであるルキアの居場所が解るかもしれないと思った。



「おいー! ちょっと待て。全員止まれー」



 先頭を歩いていたサミュエルが急に立ち止まった。その後ろに続いていたレインとヴァスドとボクは、何事かと思って足を止めた。


 サミュエルは足を止めた所で急にしゃがんみこんだ。そして、地面を観察するとカンテラを四方に向けて辺りを見回す。レインがサミュエルの肩をポンと叩いた。



「どうしたのさ? 何か気になるものでも見つけたのかい?」


「そうさな……おそらくこの辺りにジャイアントアントがおる。それも群れだ」



 ジャイアントアント? おそらく名前から推測するに、大きな蟻の魔物なのだろう。


 でもボクはそんな事よりも、ジャイアントアントという魔物の名前に、アントという言葉が2回続く方が面白おかしく思えた。――ジャイアントアント。



「プフーーーーー!」



 驚いた表情で、サミュエルとレイン、それにヴァスドがこちらを振り返った。



「な、なにさ? マリン、どうかしたの?」


「いや、別に何でもないさ。プフーーーーー!」


「そ、それだ? なんだそれは?」



 レインに続いて、サミュエルが首を傾げて聞いてくる。でもボクは、別に何も可笑しな事はしていない。


 可笑しい事があるとすれば、ジャイアントアントという名前。アントと言う言葉を、惜しげもなく見事に繰り返しているところが実に愉快だ。いや、言葉と言うか魔物の名前か。



「え? 何が?」


「いや、その何がって……そのプフーーーーっていうのは、なんなんだ?」


「え? それは笑っているだけなのだが……それが何かおかしいかい?」


「え? 笑ってたんだ、それ?」



 更に驚いた表情をレインがすると、サミュエルは口をポカンとあけた。


 人間生きていれば怒ったり笑ったり、悲しんだりするだろう。実に自然な事なのに、なぜか皆はボクが笑っていると不思議な顔をしていた。


 その変な空気を断ち切るかのようにヴァスドが言った。



「聞こえるか……確かに向こうの方で、何か物音がする。魔物独特の気配も感じるし、サミュエルが言ったように、ジャイアントアントはいるようだ。……どうする? 避けて進むか、倒して進むか?」



 ボクはそういうのを判断するのは、あまり得意ではない。だいたい成り行きに身を任せる生き方だ。


 だから、今このパーティー一行で最もリーダーらしく貫禄も兼ね備えているサミュエルの顔を覗いて、どうするか伺った。



「ワシ? ワシが決めていいのか?」


「ボクよりもノクタームエルドの事は、サミュエルの方が詳しいだろ? だからロックブレイクまで案内してくれるというのなら、それまで詳しい者に従うつもりなんだけどな」


「ふーーむ、そうか。それは責任重大だな。じゃあ、まだ魔物には気づかれていないみたいだし、回り道になるが……」


「洞窟の奥から、魔物の蠢くメロディが聞こえるね。いいね」



 唐突に後ろからした声に思わず全員、大声をあげてしまいそうになった。振り返るとそこには、ボクの嫌いな白衣の女、メロがいた。ボクは、彼女を見てはっきりと言ってやった。



「あっちへ行ってくれないか。因みにあっちというのは、何処か遠く……ボクの目が届かない所という意味だよ」


「いやんいやん!! つれないんだものなー、マリンはー! 自分は、マリンにもっと力になってあげようとして、こうしてついてきたのにな」


「白々しいね、君。なんの研究をしているのか知らないし興味もないけれど、あまり命を玩具にはしない方がいいよ。ゾンビーストっていうおかしな物も作ったのも別にボク的には、関わり合いにならなければ興味もないけれど、それをあろう事か放置をして……皆迷惑しているんだよ」



 メロがゾンビーストを作ったと聞いて、サミュエルやレイン、ヴァスドの顔が険しくなった。そして、メロを睨む。



「違うよ違うよ。確かに自分が生み出したのかもしれない。でもそれを言えば、もはや伝説だけど古の大魔法とわれる蘇生魔法だって命を玩具にしているんじゃないか? 自分は純粋に、一度終わった命に再び命を吹き込むという奇跡の研究したいと思ってだねー。そうする事で、失われた命に再び生きるチャンスがうまれる。そう思うだろ? うーーん、何て言えば理解してもらえる? 上手く言えないなー」


「そんなの別に、言わなくていいよ。ボクは、言ったように君にも君の研究にも興味はないからね」


「そんなー、つれないなあー」

 


 くだらないやり取りを続けていると、サミュエルが手を挙げた。そして小声で言った。



「いかん。気づかれた。蟻たちがこちらへ近づいてくるぞ! どうする? 腹をくくるか?」


「いいだろう、それならボクがやろう」



 身を低くしてやり過ごそうとしていたが、ボクは立ち上がった。そして、ジリジリと何かこちらに近づいてくる音の方へと一人歩き出す。レインの慌てる声。



「おい! こら、マリン! ジャイアントアントは、この国じゃ割とポピュラーな魔物だけど数がいれば危険だよ。戦うのはいいけど、ちゃんと仲間とフォーメーション組んで戦った方がいいってば」



 レインの言っている事は解っていた。でも、その脅威度に関しても、理解はしている。


 群れで動いていて、大きくても人ほどの大きさの蟻の魔物だと聞いているので、ある程度の予想もつく。戦闘になっても、ボクに危険はないと判断できる。


 ジャイアントアントのいる方へ近づいていくと、接近してくる魔物の動いている音が大きくなった。


 皆を残して、ボクだけその方へ歩いていき、魔物の気配がする近くまで行き着くとカンテラで周囲を照らした。


 すると、暗闇の中から何十匹もの大型犬ほどの大きさの蟻が、ボクのすぐ目の前に姿を現した。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇マリン・レイノルズ 種別:ヒューム

Ⅽランク冒険者でクラスは、ウィザード。水属性の魔法のスペシャリスト。テトラの代わりに妹リアが生きていて元気でやっていると、姉のルキアに伝える為にルキアが現在いるノクタームエルドへと向かう。旅の途中、騎士王国オラリオンの剣士エミリア・クライムネルや、謎の白衣の女メロディ・アルジェントなどに出会う。ロッキーズポイントで現れたゾンビーストを倒すが、その時に一緒に戦った冒険者がロックブレイクまで道案内してくれる事になった。


〇レイン 種別:ヒューム

たまたまロッキーズポイントに立ち寄っていた冒険者。クラスは、アーチャー。少し姉さん肌の感じがする冒険者。気が強いイメージを持たれる事が多いが、喋ってみると割と話しやすくて社交的。好きな食べ物は、海老のフリットとエールを一緒に味わう事。以前、港町でそれを食べた時に、病み付きになってしまったそうだ。ロッキーズポイントで知り合ったマリンがロックブレイクへ行くというので道案内を買って出る。


〇ヴァスド 種別:ヒューム

たまたまロッキーズポイントに立ち寄っていた冒険者。クラスは、モンク。一人称は、モンクらしく「拙僧」。遥々東方にある武術の盛んな国からクラインベルト王国へやってきた。己の修行のために冒険者になった。得意技は、一度に空へ放ったいくつもの石を拳や蹴りで地に落とす事無く砕ける事。たまに失敗する。レインと同じく、ロッキーズポイントで知り合ったマリンがロックブレイクへ行くというので道案内を買って出た。



〇サミュエル・ロイソン 種別:ドワーフ

たまたまロッキーズポイントに立ち寄っていた冒険者。クラスは、ウォーリアー。ノクタームエルドの出身で、ノクタームエルドを中心に活動しているドワーフ。ロッキーズポイントの酒や料理は、かなり美味しいのでそれ目当てでたまたま立ち寄って飲んでいた。ギブンに負けない程、絵にかいたような典型的なドワーフ。THE・ドワーフ。レインやヴァスド同様に、ロッキーズポイントで知り合ったマリンがロックブレイクへ行くというので道案内を買って出た。


〇メロディ・アルジェント 種別:ヒューム

愛称は、メロ。テトラと別れルキアのもとに向かうマリンが旅の途中に出会った白衣の女。怪しすぎて、マリンはどうもこの女を信用していない。ロッキーズポントに立ち寄る少し前からずっと、マリンをストーキングしている。


〇ジャイアントアント 種別:魔物

大きな蟻の魔物。集団でいる生息している事が多く、冒険者や旅人を見つけると襲って来る。蟻というだけあって、力も強い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ