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第305話 『トリケット村へ向けて』




 ボーゲンは、キャンプに戻るなり着ている服を洗いに小川へ行った。


 ボーゲンがこんな時に自分の服を洗いに行ったのには、訳があった。私が胃の中の物をボーゲンに吐きかけてしまったからだった。


 ボーゲンは、「ゴブリンの巣の臭いがついてもう何がなんだか解んねーよ」と言ってくれたけど……気が重い。


 私はすぐにボーゲンの後を追いかけて一緒に小川に行くと、ボーゲンが洗おうとしていた服を無理やり奪いとって私のハンカチと一緒に洗った。



「ハックショイ!! 洗ってくれるのはいいけどよ、その間服が無いんじゃ風邪引きそーだぜ」


「本当にすいませんでした。私、ボーゲンの服をちゃんと洗ってお返ししますので、それまで焚火にでも当たって待っていてください」



 キャンプでは、もうアレアスとダルカンが例の鹿を慣れた手つきで解体し終えていて、焚火を熾しライスを炊いて食事の準備をしていた。


 もともとはアレアスもダルカンも、一人で冒険者をやっていた頃も短くないらしく、鹿の解体や火をおこしたりと、そういう事にも手馴れているのだという。


 だから、先に皆がいるキャンプへ戻ってほしい……そう伝えたつもりだったが、ボーゲンは下着一枚の状態で寒そうに身を縮こませながら私の方をじっと見ていた。



「な、なんでしょうか?」


「い、いやー別に。あれだなと思って」


「あれ?」


「あれよあれ……流石は、メイドだなって思ってな」


「へ?」


「そういえばお前はクラインベルト王国の、王宮メイドだったなと思ってな。そのメイド服は、もちろん常時目には入っているが、こうして服を洗ったりっていうメイドのような仕事をしていると、様になるなと思ってな」


「そ、それはもしかして褒めてくれているんですか?」


「褒めてねーよ!! バーカ、バーカ!! 俺様は一流冒険者だからよ、そいつの剣やナイフのちょっとした扱い方で、そいつがどの程度すげー奴かってある程度解ったりするんだよ。だから、服を洗っているお前の姿を見た時に、その何気ない作業の中にプロフェッショナル的な何かが少し垣間見えたってだけだ! だからって図に乗んなよ! テトラ!!」


「は、はい…………え?」



 今、ボーゲンが私の名前を呼んだ事に驚いた。今まで、狐女とか呼んでいたのに……


 その事に気づきびっくりして振り向くと、ボーゲンはもうキャンプの方へ歩いて行っていた。私は、なんだか嬉しくなった。どちらにしても、やっと仲間として認められたんだなと。


 服とハンカチを洗い終わり、キャンプに戻るともうそこは、鹿肉の焼けるにおいと美味しそうなスープのかおりで充満していた。


 ぐーーーー。


 お腹が鳴った。それに皆気づくと、私の方へ振り返って笑った。ミリスとダルカンが手招きする。



「あーー、テトラちゃん、今お腹なったでしょ?」


「はっはっは! テトラ、こっちへ来い! もう飯ができるぞ」


「あうう……」



 焚火の前に移動すると、早速美味しそうなものが目に飛び込んできた。


 フライパンで綺麗に焼き上げた鹿肉ステーキ。塩胡椒だけではなく、お肉に合うローズマリーとガーリックも使用している。うう、これはたまらない。特に胡椒なんて高価なものなのに……今日日の冒険者は、持ち歩いている調味料も強い拘りがあるのだと思った。



「さあ、焼けたぞ! 皆で食べよう」



 炊きあがったライスを、ミリスとダルカンが器によそう。メイベルは、スープを準備していた。ディストルは……よだれを垂れ流しながら、一点に鹿肉を見つめている。



「待てよ、ディストル。もう焼きあがるからな。レアとミディアムの丁度あいだ位が美味いんだ」



 そう言ってアレアスは、全員分の鹿肉ステーキを焼き上げて順に配った。


 全ての食事が揃うまで待っていると、先にできあがった物から冷めてしまうので、皆配られた物から思い思いに食べていく。こういう所も、冒険者達のキャンプの醍醐味。行儀に左右されないで、豪快に食べる。


 ボーゲンはある程度、ご飯を食べると手を叩いて皆の注目を集めた。そして、ゴブリン達に襲撃された事や、ボロボロのローブに身を包んだ2人組の事、これからどうするかという事について話しをした。


 まずゴブリンについて――


 ボーゲンは私を囮にして、何度も襲撃してくるゴブリンを片っ端から退治してしまうつもりだったそうだ。


 でも、例のローブの二人組が現れた。しかもその頃ゴブリン達は、ボーゲンの策には乗らずこのキャンプを直接強襲したと言う事だった。


 結局、襲撃してくるゴブリン達の巣は殲滅したものの、その親玉のゴブリンキングは逃がしてしまい、森の中で唐突に襲撃してきたローブの二人組も逃げられてしまった。だから、これから向かうトリケット村まで、またそれらの襲撃があるかもしれないから注意が必要だ。


 アレアスが言った。



「それなら、リーティック村で戦った女盗賊団アスラの三姉妹と、もうひとついた爆裂盗賊団っていうのも心配だ。俺達のもとに報復しにやってくるかもしれん」



 メイベルが、うんうんと頷く。



「その可能性は大でやすね。爆裂盗賊団なんてーのは、何てことねえでやすが、女盗賊団アスラはこのメルクト共和国でもかなり有名な盗賊団でやんす。このままやられっぱなしで、引き下がるとは到底思えませんやね。盗賊団繋がりで、闇夜の群狼との関係もあるかもしれやせんしね」



 うーーん。私達はこの国を盗賊団から守りにきた。なのに、その守りに来た私達自身が既にこの国に入るなり、沢山の敵に目を付けられ狙われている。リーティック村に残してきたセシリアとローザの事も心配になってくる。


 ボーゲンは、くしゃみをすると煙草をくわえて火を点けた。



「……とりあえず、今日はここでキャンプ。明日起床したら一気に、トリケット村まで進もうと思う。トリケット村に行けば、メイベルの話では他の仲間とも合流できそうだとの事だしな。上手く合流できれば、こちらの戦力もあがる訳だし、そうなりゃ俺達を今潰しに狙ってきている奴らも、もう迂闊に手が出せなくなるってわけだ」



 でも、一気に行くと言ってもトリケット村までの距離が気になる。聞こうとしたら、先にミリスが聞いてくれた。



「それで、明日起床してすぐトリケット村まで行くとして、どの位の距離になるのかしら」



 その質問に、ボーゲンがメイベルとディストルに視線を向けた。すると、鹿肉を頬張って食事に夢中になっているディストルの代わりにメイベルが答えた。



「寝ずに強行して1日半ってところでやんすね。無事到着すれば、あっしらの仲間もそこへ向かっているんで合流できれば共に、トリケット村で捕らえられているコルネウス執政官を助けだせるという寸法でやんす」



 一日半……


 眠らず休まずにずっと進軍するなんて……私は馬車に乗るだろうからまだ大丈夫だけど、ボーゲンやメイベル達はそんなのかなり大変じゃないだろうかと思った。


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