第304話 『ゴブリンキング その2』
一斉に襲い掛かって来る、何十匹もの凶悪な顔をしたゴブリンと衝突した。今まで出会った事のあるゴブリン達とは異質な面構え。それは、ゴブリンキングがこのゴブリン達を従えているからだと感じた。
「オラオラオラーーー!!」
ディストルが愛用のスレッジハンマーを振り回し、一度にゴブリン3匹を吹き飛ばしたのを皮切りに激しい戦いが始まった。
私は向かって来るゴブリンに涯角槍を突き出して、刺しては薙ぎ払い打ち倒した。
洞窟の中ではあったけれど、壁には無数の松明が掛けられていたので、周囲はよく見えゴブリン達の攻撃も難なく避けて反撃する事ができた。
ディストルとほぼ二人で、ざっと20匹程を倒した所で、後ろに控えていたオークのような身体の大きなゴブリンが2匹、前に進み出てきた。
また3匹、スレッジハンマーで叩いて弾き飛ばすと、隣にディストルが並ぶ。
「おうおう、いよいよ来るぞ! でけえのがよ!! ウハハハ、こいつは面白くなってきやがった!! 1匹はテトラ! あんたに任せていいんだろ?」
「は、はい! が、頑張ります!!」
それにしても、かなり大きなゴブリン。こんな巨体のゴブリン……今まで見た事がなかった。ゴブリンってそもそも小鬼だったはずだけど、亜種なのだろうか。
あれこれ考えていると、横からまた3匹のゴブリンが飛びかかってきた。慌てて対応しようとすると、後方からナイフが飛んできてそのゴブリン達を仕留めた。振り返ると、その先にメイベルがいてウインクしている。
「テトラ、気を付けて。あと、もっと戦闘に集中するでやんすよ。そのでかいゴブリンは亜種で、ゴブリンジャイアントとも呼ばれていやすが、通常のトロルなんかよりも頭が回る分、やっかいでやんすよ」
「ゴブリンジャイアント……」
そのゴブリンジャイアントと目があった。手には丸太のような巨大な棍棒。それを思いきり振ってきた。
「ひいっ!!」
咄嗟に飛ぶと同時に、前転。よける。隣でもディストルがもう1匹のゴブリンジャイアントを相手に奮闘。同じく巨大な棍棒を振り下ろされていたが、ディストルはなんと持ち前の怪力で、ゴブリンジャイアントの一撃をスレッジハンマーで受け止めていた。その光景に、私はゴブリンジャイアントよりも仲間であるディストルの方になぜか一瞬脅威を感じた。
「おい!! テトラ!!」
「は、はい!!」
「さっさと決めるぞ!!」
ディストルが、自分に向けられた巨大な棍棒を弾き返すと、それを合図に私も目前にいるゴブリンジャイアントへ向かって駆けた。
来る!! もう一撃!!
避けると同時に思いきり跳躍し、ゴブリンジャイアントの棍棒を踏みつけると更に跳躍、その頭上まで飛んだ。
――――方天撃!!
涯角槍を頭上で一回転させ、ゴブリンジャイアントの脳天を狙って強打。同時に、ディストルももう一方の対峙しているゴブリンジャイアントの腹に思いきりスレッジハンマーを叩き込む。身体がくの字に曲がるのを見計らって、その顎にスレッジハンマーをフルスイングした。
2匹のゴブリンジャイアントは、ほぼ同時に土煙を上げてドスーーンっとその場に崩れ落ちた。
その光景に驚き動揺するゴブリンキング。ボーゲンが叫んだ。
「いけ!! 行って仕留めろ!!」
「はいっ!!」
「りょーかい!!」
私はディストルとほぼ同時にゴブリンキングに、攻撃する為向かって突貫した。ディストルは雄叫びをあげて、スレッジハンマーを振り回している。
ゴブリンキングは、生き残っているゴブリン達に何か叫んで呼びかけると、ゴブリン達は武器を掲げてなりふり構わずといった感じで、こちらに向かってきた。
ディストルが向かって来るゴブリンを片っ端から蹴散らすと、私も涯角槍で薙ぎ払い、叩いて打ち倒した。
ギャギャッ!!
これでようやく、ゴブリンキングを倒しミリスを助け出せる。そう思った刹那、ゴブリンキングは横になっているミリスを掴み上げて遠くへ投げ飛ばした。その先には、尖った岩。私は顔が真っ青になった。ここからじゃ、ミリスを助けられない。
しかし、放り飛ばされたミリスのすぐ近くに、影。メイベルだった。メイベルは、すでに追い詰められたゴブリンキングがそういった行動をとるんじゃないかと予測して注意し、先に動いていた。
思いきり地面を蹴って跳躍すると、高く放り投げられたミリスを抱きとめて着地。私は、そのメイベルの活躍に声を上げた。
「メイベル!!」
「ざっと、こんなもんでさー! どうやらミリスも気絶しているだけのようでやんすね」
それを聞いてホッとする。そこへボーゲンの叫ぶ声と、ゴブリンキングの雄叫び。
振り返ると、目前まで接近してきていたゴブリンキングは私を突き飛ばし、ディストルを殴りつけてこの場から逃げ出した。
ボーゲンがとどめを刺そうと後を追おうとしたが、生き残っていたゴブリン達に阻まれてゴブリンキングを逃がしてしまった。
でも、なんとかミリスは救う事ができた。ゴブリンキングを取り逃がした事よりも、ミリスを救えてホッとしている。
メイベルは、抱きかかえていたミリスを背負うと全員でゴブリンの巣から外へ脱出した。
ゴブリンの巣になっていた洞窟は悪臭が漂っていたので、表に出るなりディストルは大きく深呼吸して外の空気を美味しそうに吸った。
メイベルが地に優しくミリスを寝かせると、私はすぐに駆け寄って呼びかけた。
「ミリス……ミリス……」
回復ポーションを使用すればと思ってボーゲンの方を見たが首を横に振っている。まさか、さっき私に使用したので最後だったとは……
せめてこうして気を失っているのが私だったら、ミリスの回復魔法で癒してもらえるのになって思っているとようやくミリスが目を開けた。
「ミリス!! 大丈夫!!」
ボーゲン、それにメイベルやディストルも心配そうにミリスの顔を覗き込む。
「ウフフ。皆、助けに来てくれたのね。ありがとう」
「良かったです、無事で……」
「それはそうと、なんだかお腹減ったわよね。アレアスやダルカンも心配してそうだし、キャンプに戻って食事にしましょうよ」
ミリスがそう言って微笑むと、メイベルとディストルは私と一緒に笑った。
ボーゲンは、頭をポリポリとかくと「さあ、戻るぞ!」と言ったので、私は「はい!」っと返事をした。
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〚下記備考欄〛
〇方天撃 種別:棒術
テトラの使う、棒術。攻撃対象よりも高く跳躍し、反動をつけて頭上から棒を相手の脳天へ振り下ろす技。体重も乗せての攻撃になるので、威力は非常に高い。大男もまともに喰らえば倒れる程。




