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第301話 『穴の中ファイト』




 私の落下した穴は、結構な深さがあり跳躍しても上まで手が届かなかった。そして、よじ登る事もできないような穴だった。


 どうしよう、ここで……こんな所で足を取られている暇なんてないのに。こうしている間にもミリスの身に何かが起きるかもしれない。急がないといけないのに!! 動揺する。


 必死でこの穴から脱出する方法を考えていると、近くで獣の鳴き声がした。凄く近く――



 アオオオオオオーーー!!



 狼? 次の瞬間、この穴の中に上から何かが落ちてきた。



 ガルウウウウ!!



「え? ウルフ⁉」



 なんとこの穴にいきなり落下してきたのは、2匹のウルフだった。ウルフは私に気づくなり威嚇し襲い掛かってきた。


 この穴の中じゃ、涯角槍(がいかくそう)を振り回せない。私は太腿に巻いていたホルスターからナイフを引き抜いて突き出した。



 ギャンッ!!



 飛びかかってきたウルフ1匹を仕留める。しかし、もう1匹が右足に噛みついてくる。私は慌てて払い除けると、そのウルフに対してナイフを構えて牽制する。


 すると、更に何か大きなものが上から降ってきた。


 月明かりの中、私がいる穴の中にウルフに続けて落下してきたのはなんとアウルベアーだった。梟の頭を持つ熊。


 この狭い脱出不可能な穴の中、私とウルフとアウルベアーという絶望的な状況になってしまい、私は悲鳴をあげた。



「たたた、助けてええええ!! だ、誰かああ!! ボーゲン!! ボーゲン、助けてええええ!!」



 ホーーーーウ!! ホーーー!!



 必死になって助けを求めて叫ぶ私の事などお構いなしに、思いきり腕を振って攻撃してくるアウルベアー。


 その太い腕から繰り出される一撃。鋭い爪をなんとか上手く避けると、今度は暴れるアウルベアーに身の危険を感じたウルフが、その太い腕に噛みついた。



 ホーーーーッ!!



 アウルベアーは、悲鳴を上げてウルフに噛みつかれている腕を、そのままに穴の壁に叩きつけた。衝撃で落下するウルフ。アウルベアーは、ウルフに向かって思い切り腕を振り下ろして、とどめをさした。


 残るは私と、アウルベアーだけ。向き合い牽制し合っていると、頭上から声がした。



「おいおいおい!! てめー、狐女!! ぜんぜんついてこねーと思っていたらこんな所で何してるんだよ!! 魔物共と遊んでんのかー?」


「ああーー!! ボーゲン!! 助けてください、必死でボーゲンの後を追いかけていたら、まさかこんな所にこんな落とし穴があるなんて知らなくて!!」



 ホホーーーーッ!!



 会話していると、アウルベアーは腕を振って攻撃してきた。


 自由に距離をとったりできない狭い穴の中、なんとかかわして縋るように上を見上げる。アウルベアーの腕力は熊並で、思いきり振ればその辺に生えている木だって簡単にへし折れるくらいの威力。だからその攻撃をかわす度に、背筋に冷たい汗が流れた。



「助けてください!! ボーゲン!! 早く!!」


「まったく、しょうがねえな。急いでミリスを助けに行かなきゃなんねーってのによー!! 余計な仕事ばかり増やしやがって!! これを使え!!」



 そう言って、ボーゲンは私のいる穴に剣を落とした。ザクッと地面に剣が突き刺さると、私はすかさずその剣をとってアウルベアー目掛けて突き出した。



 ホホーーーーッ!!



 剣はアウルベアーの腹に突き刺さったが、アウルベアーは激昂して腕を振り下ろした。なんとか避けようとしたけど、間に合わないし穴の中は狭くて思うようにも動けない。ボーゲンの声。次の瞬間、物凄い衝撃が襲ってきたかと思うと、頭に激痛が走った。


 私は穴の中、地面に転がる。アウルベアーが更に攻撃をしかけてこようとしたので、慌てて立ち上がろうとした。しかし、よろける。上手く立てず、再び尻餅をつく。頭が痛い。手で、頭部を触るとかなり出血している事に気づいた。どうやらさっきの一撃を頭から受けてしまったみたい。



「う……このままじゃまずい……」



 アウルベアーが再びこちらに向かって腕を振り上げた。駄目。立てない。もう一度、アウルベアーの一撃を耐えるしかないと思った。でも、これを喰らったらもう……


 ――意識が遠のく。


 刹那、アウルベアーの頭上にロープが降ってきた。何事かとアウルベアーが見上げると同時に、ボーゲンが勢いよく飛び降りてきて、持ってきたナイフをアウルベアーの首に深く押し込んだ。


 悲鳴を上げるアウルベアー。しかし、ボーゲンはお構いなしに、アウルベアーの背に回り込んで張り付きながら何度も首元を狙ってナイフを突き刺す。


 やがて、アウルベアーが力尽きて倒れると、ボーゲンは私に向かって手を差し出してきた。



「ほら、立てるか? とりあえずロープで上に登れる。その頭の怪我は手当てしてやんなきゃなんねーだろうが、先にこの穴からあがってからだ」


「そ、そうですね。また何か落っこちてきても、たまらないですからね」



 ボーゲンは鼻で笑うと、私の手を掴んで立たせてくれた。でも、よろめいてしっかり立っていられない。まだダメージが残っている。


 ボーゲンはそんな私を見ると溜息をついて、ロープを私の腰に巻き付け始めた。



「ちょ、ちょっとボーゲン。これは?」


「うるせー!! 急がねえとミリスが危ねーだろ! 黙ってろ!! 黙って俺様に任せろ!!」



 ボーゲンは私にしっかりとロープを巻き付けると、涯角槍と私に投げた剣を拾って、そのロープをよじ登って穴の外へ出た。


 そこから、ロープを思いきり引き上げて、私を穴から引っ張り上げた。



「うおおおおお!! おめえええええ!! ダイエットしろよ!! この狐女!!」


「えええ!! そ、そんな……」


「うぬううううううう!! っしゃあああ!!」



 こうして、ボーゲンのお陰でなんとか私はピンチを脱した。ボーゲンは、ほっとしている私を睨みつけると、手持ちの回復ポーションと包帯を取り出して私の頭部の怪我を応急処置してくれた。


 口は悪いし、感じも悪い人だと思ったけど、バーンさんがなぜボーゲンに信頼を置いているかという事と、Aランク冒険者なんだという理由がはっきりと解った気がした。

 

 素直にボーゲンは、凄い冒険者なんだと思った。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。森や草原、荒地、雪山と至る所に出没する魔物。集団で行動し、集団で獲物へ襲い掛かる。群れの規模が大きいと、稀にその中にボスクラスのものがいる場合がある。協調性はまあまあ。


〇アウルベアー 種別:魔物

梟の頭を持つ熊の魔物。熊の腕力を持ち、夜中でも目が見える。もちろん、本来は夜行性。

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