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第30話 『ハルの気遣い』






 トレントを討伐した森を抜け、道なりにニガッタ村近くまで来ると、アテナと猫耳少女ルキアは村へ入らず、なぜか道から少し離れた所へ移動してテントを設営し始めた。



「お……おい。ニガッタ村は、ギルドもある村だ。当然、宿屋もあるんだぞ。それにもうあと、20分も歩けば村だ。なんで、こんな所でテントなんか……」


「いいの、いいの。もうすぐ暗くなるし、私達は今晩ここでキャンプするわ。ハルは、先にニガッタ村へ行って宿をとって」



 どういう事だ? 間もなく目指している村だって言っているのに、こんな所で野営するなんて。…………もしかして金か? 金が無いのか? それならなぜ、トレント討伐の報酬を受け取らないんだ?



「あのーーーーアテナ。ちょっといいかな?」


「うん?」


「もし良かったら宿代を出させてほしい。助けてくれた礼だ」



 そう言うと、アテナは、はっとした。



「あっ……言ってなかったね。私、冒険者なんだけどキャンパーなんだ」


「キャンパー? なんだそりゃ? まさか、キャンプしたいのか?」


「そう! その通り。キャンプが趣味なの」



 キャンプが趣味って…………そんなやついるのか? 好んで野営するってことだろ?


 可愛い猫耳少女にも、聞いてみた。



「ルキアもか?」



 頷くルキア。


 なんてこった……好んで野営する者がいるだなんて。魔物だって出るかもしれないし、寝心地だって宿の方がいいに決まっているのに。



「わかった。じゃあ、あたしは先にニガッタ村へ向かうよ。アテナ達が合流する仲間ってのは、明日村へ現れるんだろ? じゃあ、その時にその仲間の分も合わせて、あたしにご馳走させてくれ」


「ありがとう! 楽しみにしているね」



 猫耳少女もご馳走と聞いて、わずかに耳の先が動いていたのを、あたしは見逃さなかった。


 そう言って、二人の野営場所をあとにした。






 ニガッタ村に到着した。辺りは暗くなり始めているが村は、活気がある。この村は、ギルドなんかもあるし特産品もあって商人の出入りも多い。夜になって、これから宿や酒場が賑わいだすのだ。



「さてと……じゃあ、あたしはちょっと酒場で、晩御飯でも食べてから宿をとるかな」



 酒場に向かうと、やはり賑わっていた。


 中に入り椅子に座ると、ウエイトレスがメニューを片手に注文を取りにきた。



「えーと……ドリアと、骨付き肉を3本。あと、エールを一杯もってきてくれ」


「はい! 少々お待ちください」



 注文した刹那、村の周辺で野営する恩人二人の顔が浮かんだ。まったくもう…………



「お姉さん! ごめんな、さっきの注文だけどドリア3つと骨付き肉9本にしてもらって、それでテイクアウトにできる?」


「はい。大丈夫です。エールはどうしますか?」



 あたしは、親指を自分に突き立てた。

 


「それはすぐ持ってきて! 一気に飲んでいくから!!」






 あたしは、酒場で注文した料理を持って村を出ると、一目散に二人が野営する場所へ向かった。



「まったく、まったく、まったく、まったく――――」



 着くまでずっとそう言っていた。もしかしたら、二人は何も食べ物を持っていないかもしれない。それを確認しなかった。もしかしたら今頃、腹を減らしているのかもしれない。もしそうだったら……あたしだったら、空腹に耐えられなくなったらきっと…………きっと、あの猫耳少女ルキアの猫耳をハムハムしてしまう。



「急がないと!」



 ――――二人の野営が見えて来た。火。焚火をしている。二人の人影も見えた。それを確認して自分のテンションが上がっている事に気づいた。どうやら、あたしはもう少しあの二人と一緒にいたかったらしい。



「おおーーーい!」


「え? ハル? もどってきたの?」


「ハルさんですね。どうしたのでしょうか?」


「やあ!」


「あれ? ハル、村へ行ったんじゃ?」


「え? 行ったよ。行って晩御飯にしようと思ったんだけどさ、ふと二人ともどうしてるかなーーーーって思ってさ。そういうのって、一度思うと気になるじゃん」



 持ってきた料理を出そうとした刹那、目の前の焚火で調理されている肉とスープが目に飛び込んできた。そして凄まじく食欲を掻き立てられるにおい。



「あのーー、そのな……」



 アテナは、唐突に立ち上がると勢いよくあたしの手を握った。



「私達の為に、ご飯を差し入れてくれたんだ! ありがとう!」


「お? おおー。そ……そうよ。酒場のやつなんだが、ドリアと骨付き肉だ。美味いからさー、二人も食うかなーーって思って」


「ドリアーー!! 私、食べたい!!」


「え? え? アテナ? アテナ? ドリアってなんですか?」 



 ルキアもドリアと聞いて目を輝かせている。



「ライスやチーズ、それに特製のソースを使った料理だよ。窯で作るんだよ。ニガッタ村は、ライスが特産品で王国内でも美味しいって有名だからね」


「ううううーーーー。私はライスを食べた事がありません」



 猫耳少女の口からよだれ。アテナが気づいて、拭いてあげている。



「実は、私達もこれからご飯なんだ。ハルも一緒に食べようよ!! 肉は…………これはさっき近くで狩った兎の肉なんだけど美味しいよ」


「やったーーー」


「はい、こっち座って座って」


「じゃあ、お邪魔しまーーす」



 そう言って、アテナと猫耳少女の間に座った。すると、アテナがスープを取り分けた。



「どーぞ、兎の肉も食べてね」


「ありがとう! じゃあ、ドリアと骨付き肉も食べよう。骨付き肉は一人、3本だから」



 猫耳少女は、ドリアを口に入れると目を丸くして何度も美味しいと言って食べた。よほど、気に入ったらしい。


 その食事の後は、アテナがお茶を入れてくれた。お茶は、薬茶というものらしく、アテナが自分で色々な薬草を採取しブレンドして作ったものだという。そしてその味は、香ばしくてとても美味しかった。



「ごちそうさまでした」


「もうこんな時間だし、ハルもここで泊まればどう?」


「え? あたしも混ぜてもらっていいのか?」


「はい、どうぞ。私の毛布を使って」


「いや、しかしあたしがこれを使ったら、アテナの毛布がないんじゃなのか?」


「いいの、いいの。私はマントに包まって焚火の所で寝るから。慣れっこだしね、気にしないで。ほら、さっさとテントに入って! ルキアも入る!」



 アテナは、あたしと猫耳少女をテントへ押し入れたあと、食事の後片付けをしている様子だった。


 毛布にくるまり、横になった。



「ルキア……あたしらも手伝わなくていいのかな?」


「私も言いましたが、明日の朝、やってと言われました」


「なるほど」



 アテナの厚意に甘えて、眠る事にした。その分、明日はうんとご馳走してやろうと思う。せいぜい召し上がるがいい。フッフッフ。



「じゃあ、お言葉に甘えて寝るかな」


「おやすみなさい」


「お! おやすみーーーー」


 

 ……………………




 ……………………




 ゴソゴソ…………ハムハムハム……



「ちょ……ちょっと、ハルさん! 耳をハムハムするのやめてください!」


「おお! ごめん! 目の前にあったからつい」


「っもう」



 目を閉じると、パチパチと焚火の音が聞こえた。それは心地が良かった。なるほど、こういうのならキャンプも悪くないな。

 





 ――――気が付くと、朝だった。ぐっすり眠れた。隣を見ると、猫耳少女の姿はない。



「おはよう! ルキアはもう起きてるよ。ハルもそろそろ起きて。朝食にするから」


「お……おう」



 目を擦り、ふらふらとテントの外に出ると、猫耳少女にパンを渡された。そしてスープのいい匂いがした。



「食べたら、いよいよニガッタ村へ向かうよ!」



 アテナがそう言うと、猫耳少女が元気よく返事した。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ハル 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。気さくで優しい性格。最近はニガッタ村を拠点にして、周辺を荒らす魔物の討伐などを請け負っている。気ままな生活が好きで、1人で行動しているがアテナやルキアと知り合い、仲間と一緒に活動するのもいいなと思う。ルキアの可愛らしい耳に魅了されてしまい、事あるごとにハムハムしようとする。そして、またハムハムする。なんだか口さみしい時や、癒しを得たい時はルキアの耳をハムハムすればいいともう思い込んでいるようだ。


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。再び一緒に冒険する為、仲間のルシエルとニガッタ村で合流しようと向かっている。その途中出会ったルキアを、新たな仲間に加え更にニガッタ村周辺でハルという冒険者と知り合い仲良くなる。彼女にキャンプの魅力を教える。


〇ルキア 種別:獣人

Fランク冒険者。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気を使える優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンに冒険者登録をしてもらい、彼の持つ高価そうな特別なナイフを貰った。ルキアの頭に生えている猫耳は、とても可愛くて柔らかそうで時折ピクっと動いたりするので、その旅のハルを魅了。それ以来、ルキアの耳はずっとハルに狙われている。


〇ニガッタ村の酒場で働くウエイトレス

とても可愛い村娘。両親は、この村特産のライスを育てているが彼女はその器量を生かして酒場でアルバイトしている。村でもいいよってくる男性は数知れず。今日も彼女に花を贈る者が現れる。最近は、エスカルテの街からやってきた冒険者のお客さんからお茶をもらい、それを毎晩寝る前に飲む事にハマっている。そのお茶は薬茶というものらしく、いくつもの薬草をブレンドしお茶にしたもので、とても香ばしく癒される味だった。そして、驚くべきことに、その薬茶を作ったのも冒険者だという。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国内にある村。アテナのパーティーメンバー、ルシエルと合流する待ち合わせの場所。ライスが特産品。ハルという冒険者が単身活動している。


〇ニガッタ村の酒場 種別:ロケーション

ニガッタ村の村人や冒険者や旅人が毎日賑わう酒場。中でも骨付き肉とドリアは凄くお勧め。お酒もエールからウイスキーまで色々ととりそろっている。それと言うのも、この村の特産品はライスで非常に人気が高く、商人がよく出入りしている村なので、村にあるこういう酒場も商品が充実しているのだ。






読者様


この作品を読んで下さいました読者様、ならびにブクマ・いいね・評価をつけて下さった方々には深く御礼を申し上げます。

とてつもなく、励みになっております。やっぱり嬉しいですね。


当作品もなんとか30話まで、書き上げる事ができました。

それも、読んで頂いている方々がいらっしゃるから、できた事だと思います。

本当に感謝しかありません。


よろしければこれからも、引き続きどうぞよろしくお願い致します。


それとご報告ですが、もう少し解りやすくならないかなと、タイトルを少し変更させて頂きました。


そちらも合わせてよろしくお願い致します。m(_ _)m


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