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第3話 『ブラックバイソンの肉で焼肉』





 私は、ウキウキしていた。


 そりゃーもう、ウッキウキだった。かつてない程って言ってもいいかもしれないと思えるほどの、ウッキウキっぷりだった。


 むむ。歩く足も自然とスキップになってしまっている。たまに、街道で人とすれ違うと変な目で見られてしまうが、この気持ちはどうしようもない。抑えろと言う方が無理なのでは、ないだろうか。



「フヘ……フヒヒ。だって、ブラックバイソンのお肉が手に入ったんだもの。もう、肉が焼ける事を想像するだけで小躍りしちゃうよね」



 引き締めようとしても、顔が自然とニヤついてしまう。まあ、普段も特に引締めたりしてないけれど。



「よし。もう待てません。今日はこの辺でキャンプにしよう」



 街道から、少し離れた所――――草原地帯にキャンプを張った。


 予め集めていたスギの葉を着火剤にして、焚火の為に集めた枯れ木に火を付ける。パチパチという木の焼ける音と共に火がメラメラと燃えだした。


 それから手頃な石を探す。草原地帯を方々探すがなかなか「これだ!」っていうのが、見当たらない。



「石、石、石は何処かな。丁度いい大きさの石が、四つ必要なんだけど……いざ、探すとなると意外と見つからないのよねー」



 あまり、キャンプから離れないようにきょろきょろと草原地帯を見て回る。すると、様々な大きさの石がいくつも転がっている場所を見つけた。



「あったあったー!ふうー、良かった……って、げげ!!」



 喜んだのも束の間。


 石が転がっている場所。そこを、大きな魔物が陣取っていた。

 

 ジャイアントリザード。小屋位の大きさもある蜥蜴の魔物である。勿論、人を襲って食べる事もある。これだけ大きなサイズになると丸呑みである。



「まいったなー。でも、他の場所で石を探すとなると日が暮れちゃいそうだし……」



 ジャイアントリザードは、じっとしている。休んでいるのかピクリとも動かない。


 …………ん? まてよ。

 


「よく見るとあの蜥蜴……寝ているのかもしれない」



 それならそれで、襲われる事もなさそうだし、さっさと必要なサイズの石だけ拾って戻れば問題ないのではないか。不必要にあれこれと考えすぎて、遠回りさせられているっていうパターンもよくある話。ふむ。私も、なかなか老獪になってきたのでは、ないだろうか。


 ジャイアントリザードの辺りまで、そろりそろりと近寄る。ジャイアントリザードの顔をチラっと見るが全く解らん。本当に寝ているのか、起きて様子を窺っているのか? 蜥蜴ってのは、全く表情が理解できない。



「あっ。手頃な石、発見」



 1個……2個……3個……


 あと、1個。

 

 見回すと、丁度いいのがジャイアントリザードの顔の前に落ちていた。近づいて拾う。



「最後の一個も発見。さて、これでキャンプに戻ろ……」



 石を掴んだ瞬間、ジャイアントリザードが口を開いた。食べられる⁉



 ドーーーーンッ



「あぶなーーーーっ!!」


 

 持ち前の回避スピードで、咄嗟に避ける事ができた。もう少しで、食べられていた。


 ジャイアントリザードは、こちらを見るとノソノソと接近してきた。こうなると、もう襲って来る。


 手をジャイアントリザードへ翳し魔法詠唱。



「喰らえ!! 《火球魔法ファイヤーボール》!!」



 火球が、ジャイアントリザードの顔面に直撃。爆発音と共に、ジャイアントリザードの身体が傾いた。



「もう一発……」



 再度、火球魔法ファイヤーボールをお見舞いしようと魔法詠唱するとジャイアントリザードは、それを見て逃げ出した。



「ふう……びっくりした。何はともあれ、必要なサイズの石も手に入ったし、キャンプへ戻ろう」



 キャンプに戻ると、気を取り直して焼肉の準備を始めた。


 さっき見つけてきた手頃な石を四カ所に設置。その上に網を置いて下には、焚火を作る。


 助けた商人から頂いた、ブラックバイソンの肉の塊を綺麗に洗った平たい石に乗せて、ナイフでスライスする。スライスされた肉の断面は、鮮やかなまでに赤く、なんとも美味しそうに輝いて見える。



 ……じゅるり。我慢できない。



 皿と箸を用意したら、ザックから特製のタレを取り出す。これは、焼き肉専用に、とある街の商人が開発したものだが、上質の肉に使ってみると非常に美味い。試しに野菜などにも使用してみた事もあったが、それともよく合って美味しかった。だけど、タレは、高級なものなので、こういった肉にしか使用しないようにした。



「フフフ。では、そろそろ宴を始めるとしよう」



 網にブラックバイソンのスライスした肉を乗せると、ジュワワーっと肉が焼ける。油が落ちて。火が燃え上がる。そして、もうおかしくなりそうな程たまらない焼肉の香り。もう、どうにもたまりません。



「で……では、まず一枚頂いてみますかね……」



 丁度、いい感じに火の通った肉を皿の特性ダレに付けて口へ入れる。



 ……パクリ。



 ……モッチャ、モッチャ、モッチャ……ごくんっ



「おーーーーいしーーーーーーーーっっっい!!!!」



 圧倒的な味!! 私の持っている味覚に、ブラックバイソンが何度も旨味の強烈な波状攻撃を繰り返してくる。


 久しぶりの高級なお肉だったので、味わって食べるつもりだったが1枚口へ運んでからは、もうどうにも止まりませんでした。あっという間に満腹。



「ご馳走様でした」



 両手を合わせてそう言うと、舌で唇をペロっと舐めた。そのあと、湯を沸かして食後のお茶の準備をした。



「しかし、やっぱり焼肉はテンションあがるよねー。銀貨30枚……それいらないからその分もう少し、お肉が欲しかったなあ」



 ――――余韻に浸る。


 だけどあの肉は、あの商人が街などで卸売りする為のものだろうし、まああれ以上は、欲しいと言ってお金を出しても売ってもらえなかっただろうし……


 なんにしても、今日はついていたと思った。


 お腹がいっぱいになったところで、一服。お茶を飲んで焚火の前で暫くゆっくりしていると、焼き肉の匂いにつられて3匹、ウルフがやってきた。



 ガルウウウウウウ……



「焼肉の匂いにつられて現れたな。この食いしん坊どもめ」



 ザックを漁って、グレイトディアーの肉のブロックを取り出すと、ナイフでいくつかに切り分けてウルフの方へ放った。


 ウルフ達は、放った肉のニオイをくんくん嗅ぐと、食べ始めた。



「せっかく匂いにつられてやってきたのだろうけど、ブラックバイソンは全部食べちゃってもうないよ。代わりにこれをあげるから、満足してね」



 ウルフ達は、グレイトディアーの肉を全て貪るとこちらを一瞥して、去って行った。


 それから、特に何もせず……うとうとしていると、いつの間にか夜も深くなっていた。




 私は、まだテントには入らず暫く焚火の前で、食事の余韻に浸りながら毛布で身を包んで丸くなっていた。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ 種別:ヒューム

Dランク冒険者。剣術が得意で魔法も使えます。そして、ブラックバイソンの肉のブロックを持っています。よだれが、どうにも止まりませんぞ。


〇ジャイアントリザード 種別:魔物

牛や馬よりも大きな蜥蜴の魔物。巨大なものは、ちょっとした小屋位の大きさのものもいる。それ位おおきければ人馬を人呑みにできる。生息地は草原や湿地帯。森林などにもいるが、あまり活発な魔物ではなく、ゆっくりしている場合が多い。だけど、人を襲う危険な魔物。因みに肉は、まあまあイケる。


〇ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。森や草原、荒地、雪山と至る所に出没する魔物。集団で行動し、集団で獲物へ襲い掛かる。群れの規模が大きいと、稀にその中にボスクラスのものがいる場合がある。三角の違った耳は、なんか可愛い。


〇ブラックバイソンの肉ブロック 種別:アイテム

街道で、オークに襲われていた商人モルト・クオーンを助けるとお礼に頂いた眩いばかりの特上肉。味は最高に美味しいのでシンプルに、塩胡椒だけで素材の味を楽しむのもグッド。ローストビーフにしても最高です。


〇グレイトディアーの肉

鹿の魔物の肉。グレイトディアーの肉は癖も無く美味しいので、人間にも魔物にも標的にされている。村や街にあるお店でも、よく見るお肉。


火球魔法ファイヤーボール

火属性の黒魔法。強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 備考欄はリザードだけど本文は全部リザートになってます。
[一言] ( ̄□ ̄;)!!ウルフの餌付け?
[良い点] バイソンってことなんで牛ですよね。 それも上質ってことはA5ランクくらいとか? それはおいしいですよね。 読んでいてかなりおいしそうでした。 あの牛特有の旨みは早々にないですよね。
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