第291話 『耳フェチ』 (▼テトラpart)
リーティック村をあとにした私達一行は、メルクト共和国最初の目的地トリケット村を目指していた。
リーティック村では、『女盗賊団アスラ』と『爆裂盗賊団』というふたつの盗賊団と交戦をした。
その結果、村人を含めその村を無事救出する事ができた。だけど、怪我をしたローザや一緒に残ると言ったセシリアをそこへ置いて別れた。二人の事が、心配で気になる。だけど一刻を争う今、私達は進め続けるしかなかった。
トリケット村には、この国の執政官コルネウス・ベフォンが私達の助けを待っている。
この国は本来5人の執政官が司って治めてきたけれど、今はもうコルネリウスさん以外の執政官は『闇夜の群狼』に殺害されてしまった。
だからこそ、コルネリウスさんのもとに早く到着して、彼を盗賊達から救い出して安全な場所で守らなければならない。
因みにメイベルやディストルの、直接的な雇用主はそのコルネリウス執政官だそうだ。彼は、盗賊団『闇夜の群狼』に捕まる前に、メイベル達に後の事を頼んで彼女達をクラインベルト王国へ送った。
馬車に乗って移動すること半日。目的地トリケット村まではまだまだ急いでも3日程かかるそうだ。
ボーゲン、メイベル、ディストルの3人は馬に騎乗すると馬車の周りにつき、私とミリス、アレアス、ダルカンはその馬車に乗り込んでいた。
御者はダルカンがしてくれているので、私は荷台で特に何をするわけでもなく、到着するのをただただ馬車に揺られながら待っていた。
でも他の皆は、馬車の中でも色々として時間を過ごしている。ダルカンは手綱を持って御者をし、アレアスは武器の手入れ。そして、ミリスは……
え? こっちを見ている。しかも、にこにこしている。
「な、なんでしょうか? ミリス」
「ううん、何でもないわよ。でもそのあなたのお耳、それが気になって」
「耳……ですか?」
「ええ」
ミリスはまたにこにこと微笑んだ。特に嫌な風に思われているのではないというのは解るけど、ずっと見られているというのは凄く気になる。落ち着かない。
私もアレアスやダルカンのように、他の何かする事があって、それに集中すればミリスの視線も気にならないのではと思った。そう思って何かないか自分のザックを漁る……が時間を潰せるような物は何もなかった。
「テトラちゃん、ちょっとお願いがあるのだけど、いいかしら」
「え? は、はい。なんでしょうか?」
「ちょっと、あなたのそのお耳を触らせてくれないかしら」
ミリスのその言葉に、アレアスの武器を手入れしている手が一瞬止まった。でも特に、気にしてはいないという風な空気を出している。荷台の外で手綱を握っているダルカンも同様のようだった。
でも、それにしても私の耳を触りたいってどういう事だろう。無意識に頭の上にある私の耳が微かに動く。
「ちょっとでいいの。そのふわふわした三角のお耳を見ていると、ちょっと触ってみたくなっちゃって。駄目かしら?」
「い、いえ。別に耳を触るくらいはいいですよ」
「そう。じゃあ早速、触らせてもらえるかしら」
別にどうという事はないはずだった。胸とかそういった場所じゃないし、例えそうだとしても女同士。それ程、気にする程の事でもないような……
しかも、触らして欲しいのは耳だという。耳なんて別に、特にどうという事もない……と思うけど。
私は目の前に座っているミリスの方へゆっくりとお辞儀をするように、頭を差し出した。ミリスが私の頭に生えている耳に手を伸ばす。
フニフニフニ……
「ああーーー、癒される!! やっぱりテトラちゃんのお耳は最高だわ。フワフワだし、柔らかくて」
「ミリス、お前は耳ソムリエか!」
え? どういう事?
今なんて? 耳ソムリエ? 急にアレアスがそう言った。言われたミリスは、まったく気にしていない。というか、私の耳に集中していてアレアスの言葉は、耳に入っていない。
「お前は、耳ソムリエか!」
あれ、二度言った。大事な事だから? でも、ミリスはまったく気にもせず、私の耳を夢中になって触っている。
「も、もうそろそろいいですか?」
「もう少し、あともう少しだけお願い。凄い癒されるのよ。テトラちゃんは、狐の獣人だっけ?」
「は、はい。そうですけど」
「狐って確か、犬の仲間よね。私、昔子供の頃に犬を飼っていたのよ。よく私に懐いて、可愛らしかったわ。よくこうして、ここにおいで! って呼ぶとこっちに来て、私の胸の中で丸くなっていた。そうすると、私はその子のお耳をずっと触っていたわ」
「そうだったんですね。犬ですかー。いいですねー」
フニフニフニ……
「そうだ、テトラちゃんちょっとこっちに来てみてくれない? 抱きしめさせてくれない? それで、テトラちゃんのお耳をもっと触らせて欲しいの」
「ええ!? それはちょっと……」
「そんな、ちょっとでいいからー」
「でも、もう耳も触られすぎて、ちょっとヒリヒリしてきました。もう、この辺にしておきませんか?」
「えええ!! もうちょっと、もうちょっとでいいから。ちょっと、こっちへもっと来てみてくれないかしら」
「えええーー」
本当にもう結構な時間、耳を擦られ続けているから痛くなり始めていた。だから、ミリスのお願いを断わろうとした。でも、ミリスは喰い下がってくる。もう、どうしよう。ミリスってこんな人だっけ?
「おい! ミリス! もうその辺にしとけ!」
「で、でもーーー」
「テトラがもう、痛いって言っているだろ? また時間をおいてから、耳を触らせてもらえばいいだろ」
え? アレアス? もっともらしいことを言ってくれたと思ったけどその内容は、ミリスはまた後で私の耳を触るというものだった。
「解ったわ。ごめんなさい、テトラちゃん。じゃあ、またあとでお耳を触らせてね」
「え? でも、もうそんなに触ったらヒリヒリして……」
言い終える前に、馬車の外を馬で駆けているボーゲンが叫んだ。
「魔物だ!!」
――魔物!?
「馬車を止めて全員降りろ!! ゴブリンの群れがこっちへ向かってくるぞ! 全員戦闘態勢だ!!」
ボーゲンがそう言うと、ダルカン、アレアスは馬車を飛び降りると同時に馬車を守る様に移動して武器を構えた。
「テトラちゃん、私達も行きましょう」
「は、はい!」
ミリスや他の皆がいるとしても、やっぱりセシリアがいないとなんだか心細い感覚に襲われる。
私は立ち上がり、涯角槍を握るとミリスと一緒に馬車の外へ飛び出した。
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〚下記備考欄〛
〇テトラ・ナインテール 種別:獣人
二章~三章のもう一人のヒロイン。伝説の獣人、九尾がいるというフォクス村の出身。その後、クラインベルト王国で王宮メイドを勤める。ルーニ誘拐事件から、巨大犯罪組織『闇夜の群狼』の存在をしる。悪を倒し、苦しんでいる人達を助ける為にセシリアと共に旅に出た。現在は、『闇夜の群狼』が蔓延り国を乗っ取ろうとしているメルクト共和国を救う為に、奮闘中。九尾の末裔だが、尻尾は4本しかない。
〇セシリア・ベルベット 種別:ヒューム
クラインベルト王国の国王陛下直轄メイド。テトラを初めは嫌っていたが、彼女の努力と思いに心をうたれて行動を共にする。今はテトラの事を信頼し、親友だと思っているがテトラの事を可愛いと思っているのか、ちょいちょい意地悪して彼女を困らせる。でもそれは、セシリアの愛情でもある。
〇ボーゲン・ホイッツ 種別:ヒューム
エスカルテの街を中心に活動しているAランク冒険者。エスカルテのギルマス、バーンの代わりにテトラと共にメルクト共和国にやってきた。口も悪いが態度も悪い。しかし、冒険者としての腕は高くバーンの弟分でもある。テトラに厳しいように見えるが、誰に対してもだいたいこんな感じ。
〇ミリス・カーランド 種別:ヒューム
クラインベルト王国、リオリヨンの街を拠点にして活動していたBランク冒険者。クラスは、プリースト。アレアス、ダルカンと共にパーティーを組んで冒険者を生業にしている。メルクト救援要請でテトラと同じく、メルクト共和国へ向かう。耳ソムリエでもあり、狐の獣人であるテトラの三角の耳を物凄く気に入っている。ずっと触っていられる為、そうしていたらテトラの耳は触りすぎてヒリヒリしだした。でも、それはミリスの愛情なのだ。
〇アレアス・ホスター 種別:ヒューム
クラインベルト王国、リオリヨンの街を拠点にして活動していたBランク冒険者。ミリス、ダルカンとパーティーを組み、パーティーリーダーを務めている。クラスは、ソードマン。お金の事で過去にミリス達ではない別の仲間と色々あって痛い思いをしたので、人への警戒心が強い。だけど、ミリスとダルカンの事は家族のように思っている。
〇ダルカン・マクライト 種別:ヒューム
クラインベルト王国、リオリヨンの街を拠点にして活動していたBランク冒険者。ミリス、アレアスとパーティーを組んでいる。クラスは、ウォーリアー。3人の中ではパワータイプ。思いきりのいい性格もしているが、ひっそりと心に持つミリスへの思いは隠している。なぜならアレアスもミリスの事を思っているのを知っており、この3人の関係が崩れるのを恐れているから。
〇メイベル・ストーリ 種別:ヒューム
メルクト共和国を中心に活動しているAランク冒険者。ディストルとコンビで活動をしている。メルクト共和国を乗っ取ろうとする『闇夜の群狼』を倒すべく、仲間を集め行動を起こす。まずは、コルネウス執政官を救出する事を任務としている。
〇ディストル・トゥイオーネ 種別:ヒューム
メルクト共和国を中心に活動しているEランク冒険者。メイベルとコンビであk津堂をしている。メルクト共和国を乗っ取ろうとする『闇夜の群狼』を倒すべく、仲間を集め行動を起こす。ビキニアーマーを身に着け、スレッジハンマーを武器に振り回す。短気で喧嘩っぱやいが、相棒のメイベルが上手にコントロールしている。
〇コルネウス・ベフォン 種別:ヒューム
メルクト共和国の執政官。メルクトには、元首はおらず国を治めているのは5人の執政官である。しかし、現在メルクト共和国は『闇夜の群狼』に荒らされ、5人のうち4人の執政官は殺害されてしまった。コルネウスを保護する事が、メルクト救出の一歩なのだ。
〇ゴブリン 種別:魔物
小鬼の魔物。群れで行動し、人間を見かけると襲い掛かってくる好戦的な魔物。人のように、様々な武器を手にしている。
〇リーティック村 種別:ロケーション
メルクト共和国にある村。コルネウス執政官を救い出す為、トリケット村へ行く途中でテトラ達が村の異変を感じて立ち寄った。女盗賊団アスラと、爆裂盗賊団という盗賊達に占領されていて、テトラ達は見事賊を打ち払い、村人達を救出した。




