第290話 『最初の覚醒』
アテナ!! 私もこんなに戦えるようになった!
リア! お姉ちゃん、カルミア村にいた頃は小さなスライムが出ても、追いかけ回され逃げ回っていたりしていたけど、今はこんな恐ろしい魔物を倒せるようにもなったよ。
お父さん、お母さん! 私…………
気が付くとナイフを口に加え、四つん這いになっていた。
犬……いや、猫のようなポーズをとると、思いきりしなやかに駆けた。ダッシュ。
ゾンビの群れに向かって駆け、襲い掛かってくるゾンビ達の攻撃を軽やかにかわし、その勢いで宙返り。正面にいたゾンビの顎を下から蹴り上げて着地すると、そのまま素早くまた駆けて跳躍した。
「す、すげえ……なんだよ、その動き。ルキア、お前……」
「これが獣人の身のこなしなのか……凄すぎる」
ゴーディとテディの声。
ちゃんと、聞こえているよ。そう、私は猫の獣人。
私を捉えて噛みつこうとするゾンビを避けて、蹴り上げ駆けあがる。
手足を使って、猫のように素早く駆け回る私の動きは、まさに猫そのものの身のこなしをしていた。
「ウガアアアアアア!!」
ゾンビ達が、私目掛けて四方から一斉に集まってきたので、1体に狙いを絞って突撃する。跳躍してまた宙返り。襲い掛かってきたゾンビ2体の顔を踏みつけて更に跳躍!! 目前には、スペクター!!
「いやあああああ!! これでも、喰らえええ!!」
口に加えていたナイフを手に取り、それを跳躍したその先にいるスペクターに向けて思いきり突き刺した。
ギャアアアアアアアアア!!
洞窟内にスペクターの断末魔が広がり、そして煙のようになって消滅した。
その光景に、仲間達の声援が私に向けて飛んできた。
私が他の誰かの声援をこんなにももらえるなんて、生まれて初めての事だった。
「しゃあああっ!! ネコマンマがスペクターをぶっ倒したで!! あとはゾンビどもを掃討して終わりやで!! しっかり気合入れていけやあああ!!」
そこからはあっと言う間だった。
流石は、戦闘民族ドゥエルガル。物理攻撃の効かないスペクターがいなくなればあとはゾンビだけ。ボーグルさん達は、ゾンビ相手にまったく容赦のない攻撃を怒涛のように繰り出して、あっという間に殲滅してみせた。
軽い怪我を負っている者もいるけど、これだけの数のアンデッドを相手にして皆無事だった。
ボーグルさんはブラワーと一緒に、私の前に立った。
「おい、ネコマンマ。あんた、あれやな。俺らの仲間に食糧を施してくれただけでやなく、こんな仕事まで手伝ってくれたんやってなー!!」
「は、はい。ドゥエルガル皆の生活が、改善すると聞いたので、私にできる事をしました」
「へえーー!! えらいっちゃな! それで、この後はどうするんな? 当然、分け前が望みなんやろ?」
ブラワーが何か言おうとすると、その口をボーグルは抑えた。
「いえ。ここにある金は全て、生活に困っているドゥエルガルの人達に使うと聞きました。だから、私はいりません」
「へえー!! いらんのか。欲のない、かわりもんやな!!」
ブラワーがまた何か言おうとすると、その口をまたボーグルは塞いだ。
「そんなら、せめて今日は俺らの村に泊まってくか? お前、可愛いだけやなくて強いしな。気に入ったわ。このままここにいて、ブラワーの嫁になってもろてもええやん!! 俺のんでもええけど!! ヒャッヒャッヒャ」
ゴーディとテディが、嫁と聞いて「駄目だ!!」「ルキアは用事がある! 帰るんだ!」っと騒ぎ出した。
私は二人に笑って見せて一旦落ち着かせると、仲間が待っている事などこれまでのいきさつを、丁寧にボーグルさんに話した。すると、ボーグルさんはうけた恩を返せないのは納得いかないと困った顔をしたが、そんな顔を見せつつも頷いてくれた。
「なんにしてもルキア。お前には借りができたわな。スペクターの事をあまり知らんかったし、物理攻撃一辺倒の俺らやからな。そのまま俺らだけで戦っていたとしても、悲惨な結果になっていたかもしれんわ。だから、これは借りができたーゆ―ことや!! 借りはいつか、返すで」
「はい、それならそう覚えておきます」
そう言って笑うと、ボーグルさんもようやく笑って納得してくれた。
「それはそうと……一つ気になっていた事があるんですけども、聞いてもいいですか?」
「なんや?」
「この場所はドゥエルガルの皆が今住んでいる場所から歩いて1時間くらいの距離でした。それなのに、今まで何十年もこの場所の金の事や、アンデッドの事を知らなかったんですね」
「そうや! それには訳があってな! この場所は最近、見つかったもんなんや! 何かの拍子で洞窟内の壁が崩れ、この場所へ通じる入口が開いたんや。それで、運良く洞窟内部に埋まっていた金塊を見つける事ができたけど、ついでに一緒にアンデッドも見つけてもーたんや」
そういう事だった。でも、何かの拍子でって……その拍子ってなんだろうと思った。普通に考えると地震かな。
「もしかしたら、この辺にはもっと何かがあるかもしれませんね」
「かもな。でも俺らは戦闘は得意やけど、穴掘りや鉱石など見つける能力は低いんや。ドワーフ共とも、険悪な関係やしな。慣れないながらも穴掘ってもええけど、時間もかかるし得意でないから落盤させる恐れもある。ぜんぜん明後日の場所を掘り続けるって場合もあるからな」
それ程までに、ドワーフとドゥエルガルは、違うのだと思った。見た目は、灰色とそうでないというだけのように見えるのに。
そういえば、その金の事も頼まれていた事を思い出した。
「それじゃ、仲間も待っているのでそろそろ私はドワーフの王国へ戻ります。ここにある金ですが、ドワーフの王国には知り合いの冒険者がいるので、いい取引ができないか聞いてみます」
知り合いの冒険者……ミューリとファムの事だった。
「そんな事までやってくれんのか! 冒険者ルキアやな、覚えたで! ネコマンマ言うて悪かったな。借りは絶対返すからな。それじゃゴーディとテディに、王国まで送らせるわ」
ブラワーが、慌てて言った。
「兄貴!! ルキアは俺が送っていきたい!!」
すると、ボーグルさんは再びブラワーの頭を叩いた。
「いたっ!」
「アホンダラ!! これから金堀りやっちゅーねん!! 更にまたなんかアンデッドとか奥から出てくるかもしれんやろ? 掘り出せる時に、掘り出せるだけ掘り出す!! 解ったらさっさと、準備せええ!! ほら、ツルハシや!!」
こうして、私一人での初めての冒険は幕を閉じた。
アテナ達と別行動している間にも、この短時間でまた色々な冒険者として成長し経験できたと思う。
この出来事を早く戻って、アテナに話したいと思った。
ボーグルさんとその仲間の戦士達、それにブラワーに挨拶すると私はザックを担ぎ、ゴーディとテディと一緒にドワーフの王国へと戻った。
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〚下記備考欄〛
〇ネコマンマ
猫の食べるご飯。ライスにお味噌汁をかけたもの。たまに食べると、めっちゃ美味しい。ボーグルはルキアの事をネコマンマと呼んでいるが理由は、なんとなく。




