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第289話 『襲い来るゾンビの群れ』




「ルキア、一旦下がろう!!」


「う、うん」



 ゴーディが叫んだ。それに頷くと、ブラワーとテディもタイミングを合わせて、迫り狂う大量のゾンビに攻撃を喰らわせながらも後退し始めた。


 ゾンビに対して聖水の効果は確かにあったけど、行進を止める程の力はない。ダメージを与えるだけで、ゾンビ達はまるでひるまず前進してきて襲い掛かってくる。一体二体なら倒せるかもだけど、全部倒すにはまるで聖水が足りない。



「ウガアアアアアア!!」



 その時だった。1体のゾンビが物凄い勢いで襲い掛かってきた。


 ゾンビにも個体差があり、のろのろと歩くものもいれば、かなり動きの速いものもいる。襲い掛かってきたのは、後者の方だった。


 私は、咄嗟に手に持って構えていたナイフを突き出す。皆が心配して私の名を叫んだ。



「ルキアーー!!」


「きゃあああ!!」


「ウガアアアアア!!」



 もとは人間だったのだろうゾンビ。身体は腐敗しているけど、組み合うと解る物凄い力。子供の私の力じゃ、どうにもならない。


 私はゾンビに押し倒され、噛みつかれそうになったが必死に抵抗した。もしも噛まれたら、私もゾンビの仲間入りをしてしまう。偶然突き出したナイフが、ゾンビの腕――そして首を斬った。


 すると、驚くべき事が起きた。


 ナイフを斬りつけ、傷を負わせたゾンビの身体から、水蒸気のようなものが立ち昇り、ゾンビは苦しみ始めた。よく見ると、水蒸気は私が負わせた傷から発生している。


 しかも痛みや恐怖を感じないゾンビが、こんなに苦しむなんて……


 私は気づいた。バーンさんから頂いた、このナイフの効力だと。このナイフは、アンデッドにダメージを与えられる特性がある。


 押し倒された状態のままその事に驚いていると、ゴーディとテディが急いで駆け寄ってきて私の腕を掴んで、ゾンビの集団の中から引きずり出してくれた。


 その後も追ってくるゾンビに、ブラワーがバトルアックスを振り回し攻撃を加え蹴散らす。



「ありがとう、皆!!」


「それよりルキア。その武器だけど、ひょっとしてお前がアンデッドに有効だと言っていた神聖系の力が宿っているんじゃないのか?」


「うん。そうみたい」



 ヒギャアアアアアアア!!



 その時、物凄い断末魔のような悲鳴が聞こえた。驚いてテディがカンテラで照らすと、洞窟の奥の方から青白い何か恐ろしい顔をしたゆらゆらとしたものがこちらに迫ってきていた。もしかして、幽霊?



「スペクターだ!! まずい、ゾンビだけでなくスペクターまで来やがったぞ!!」



 スペクターは、前衛でゾンビと戦っているブラワーに襲い掛かった。そしてブラワーにまとわりつくと、ブラワーは苦しそうに藻掻いてその場に倒れた。


 大変だ、このままじゃゾンビにやられる。



 ヒギャアアアワワワ!!



「うわあああああ!!」


「ブラワーー!!」



 助けないと!! そう思って、叫ぶ。ナイフを握りしめて、ブラワーを助け出す為にゾンビの群れに突っ込む決意を固めた。


 やらなきゃ! ブラワーを助けなきゃ!!


 突っ込む。そうしようとした刹那、後方から物凄い勢いで何人ものドゥエルガルの戦士が飛び出してきて、ゾンビ達を粉々に打ち砕いた。


 ブラワーに襲い掛かっていたスペクターにも、先頭の一番強そうな男が見事な一撃を入れる。それでスペクターを倒す事はできないが、ブラワーは助け出され事無きを得た。


 いきなり突撃してきて救ってくれた男達――


 見ると、灰色の肌に重武装のドワーフ。ドゥエルガルである事は、間違いなさそうだけど……もしかしてこの人達は、私達の事を聞きつけて村から応援に来てくれた? そう思った。



「アホンダラ!! 何、クソガキだけで黄金とりに行こーゆーて、胸ときめかしとんねん!! 危すぎやろ!! アホかっちゅーねん!!」



 ボカンッ



「いってええ!! あ、兄貴!!」



 私達を助けに来た人は、ブラワーのお兄さん!? そのお兄さんに、ブラワーは思いきりげんこつで頭を叩かれた。私はゴーディに聞いた。



「もしかして、この人がボーグルさん? ドゥエルガルのリーダーで、ブラワーのお兄さんの」


「そうだ。俺達のリーダーで、まだ若いけど最強のドゥエルガルだ。金の事は、俺達しかしらない。だから、ルキアとの騒ぎを聞きつけてこれは何かやるなって思って後をつけてきたんだろう」


「ホンマ、アホンダラやな!! でもこうなったら、もうええわ。兄ちゃんが、こんなゾンビやっつけたるわ。そしたら、金は全部俺らのもんや!! こりゃもう、めっちゃ贅沢できるでーホンマー!! めちゃうまや!!」


「駄目だ、兄貴! ここの金は全て仲間の為に使うもんだ! 俺達の遊び金じゃねえ!! ……って、いって!!」



 ボーグルさんは、再びブラワーの頭を叩いた。



「わかっちゅーわ、アホンダラ!! とりあえず話は、ここにおるアンデッドは全部やってからや!! 考えるんは、それからや!! そこのネコマンマもそれでええやろ?」


「ね、ねこまんま!?」



 確かに私は猫の獣人だけど、猫まんまって……



「ほなら行っくでえええ!! ここにおるアンデッド共を1匹残らず、ごねさらしたれやあああ!! 」


「ウオオオオオオ!!」



 ボーグルさんの声に、一緒にやってきた数十人の戦士達も雄叫びをあげた。


 そんなこちらのやり取りを、一切気にする事もなく襲い掛かってくる大量のゾンビ。


 そこに強力な楔を打ち込むように、ボーグルさんとその彼に付き従う戦士達はぶつかっていった。


 私は皆と顔を合わせて、その後に続く。


 ボーグルさんに付き従う戦士達は、ゾンビと戦闘に入る前に、辺りに無数の松明を投げ放ったので、洞窟内は物凄く明るくなっていた。しかもその灯りで、周囲にある黄金はキラキラと輝いている。



「やああああ!!」


「グオオオオオオオ!!」



 私も向かってくるゾンビに、神聖系の力の宿っているこのナイフで突き刺して攻撃する。刺せば、そこから蒸気のようなものが上がり、ゾンビに確実にダメージを与えているのだと解る。


 ゾンビの攻撃は単純で、予測もしやすいし真っ直ぐに襲ってくるので、上手く避ける事ができ、1体2体と続けて倒す事ができた。



「ふう……やった。バーンさんから頂いたこのナイフがあれば、私でもゾンビを倒すことができる」


「うわあああ!!」



 戦士たちの悲鳴。振り返ると、さっきまでゾンビ達を圧倒していたボーグルさん達がスペクターに襲われていた。


 スペクターに、斬ったり叩いたりという物理攻撃は効かない。


 私はバーンさんから頂いたナイフを、更に強く握りしめスペクターの方へ向かって跳んだ。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇スペクター 種別:アンデッド

怨念渦巻く場所に魔が入り込むと、生まれる。霊体で物理攻撃は効果がない。しかし、スペスターからの攻撃は物理攻撃として変化させられるので、魔法や神聖系のアイテムなど使えない場合は逃げるが得策である。黒魔法を使用する個体もいるので、戦闘には十分な注意と準備が必要。


〇ボーグル・ブラウマン 種別:ドゥエルガル

ドワーフの王国近郊に住処を持つドゥエルガル達の、若きリーダー。ブラワーの兄。大人も含め、ドゥエルガルの者達は彼を慕っている。

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