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第286話 『ルキア格闘戦 その2』




 ブラワーは、ゴーディを倒すやいなや、私に向かって指をさしてきた。次はお前だという事なのかと思った。


 私はその挑発を無視して、投げ飛ばされたゴーディへ駆け寄る。思いきりドスンと大きな音がしたので不安になっていたけど、ゴーディは大きく身体を地面に打ち付けただけで特には大怪我などは、していなかった。



「ゴーディ、大丈夫?」


「ああ。でも、駄目だった。……ルキア、今からでも降参するっていうのはどうだ? お前が怪我するのを見たくはない」



 ゴーディは、本心から私の事を心配してくれている。だけど、もう後には引かないと決めていた。


 アテナならきっと、こういう場合は逃げない。必ず受けて立つはず。


 私は震える身体を無理に押さえつけて、ゴーディに頑張って笑顔を見せると、ブラワーの方へ振り返り向かって立った。



 ――――猫の獣人対、ドゥエルガルの戦士。



 ブラワーは、私をきっとした目で睨んで言った。



「じゃあ本当にやっていいんだな。何度も言うが俺は手加減しないぞ」


「うん、望むところ。でも、あなたを倒すのは私」



 ドゥエルガルの子供達が、周囲に集まって私達の勝負を見守っていたが、いつも間にかその数は増えて子供達だけでなく大人まで見に集まってきていた。



「それじゃ! 始めるぞ!!」


「うん、いいよ」



 言った途端、ブラワーの足の親指に力がぐっと入るのが解った。これは次の瞬間、突っ込んできて一気に私を土俵の外へ押し倒す気だと思った。


 怖い……恐怖で身体が竦む。でも、いつまでも震えていちゃ、身体が上手く動かない。もっと自分に自信をもって、勇気を絞らないと!!



「うりゃああああ!!」


「てやあああああ!!」



 アテナから教わった。身体は緊張していると動きが悪くなるって。それに、力が入りすぎていると素早さも落ちるし、動きが単調になる。だから、ブラワーの攻撃に対して真正面からふんばっちゃいけない。リラックスこそが大切な勝利への鍵。


 ブラワーが動こうとした刹那、私はそれよりも素早く動いて、ブラワーのその顔の前でバチンと思いきり両手を叩いた。咄嗟の事で、ブラワーは驚いて両目を瞑った。――今だ!!



「クソ猫娘がああ!! 小癪にも猫だましかよ!! シャレまでかましやがってええ!!」



 ブラワーが豪快に腕をブンブンと振ってきた。それをしゃがんで避ける。膝や手は地面につけてはいない。


 そのまま更にギアを上げて素早く動く。ブラワーからあえて距離はとらず、その周囲を素早く動いて撹乱した。


 ブラワーは焦って私を捕まえようと腕を伸ばしてきたが、アテナが教えてくれた稽古の通りに動き、相手の攻撃をしっかり見て避ける。


 すると、驚くべき事に、その攻撃が次第にとてもゆっくりと緩やかなものに見えてきた。


 冒険者になりたかったから、冒険者になった。


 アテナと出会うまではそんな事、僅かにも思わなかった。でも、出会って色々とこの世界の事など知ると、私もアテナのような冒険者になりたいと思った。


 世界に広がる色々なものを見て、触れて感じたい。


 そして強くなりたい。


 強くなって私がアテナにしてもらったように、困っている誰かがいれば、その誰かを助ける事のできる強さを手に入れたい。そう思った。憧れた。でも、私はまだ子供だし、村にいた頃は臆病で魔物相手にも戦ったりした事もこれまではなかった。


 でも、アテナやルシエルと冒険を重ね、色々な経験を積んだ。アテナにはキャンプの魅力も教えてもらったし、字を読み書きができる程に教えてもらった。


 戦う為の稽古も、幾度となくつけてもらった。キャンプする度に、暇さえあれば色々な事を学んだ。


 そうすれば、いつか私もアテナのように強くなれるかもしれないと思っていた。


 いつか……そのいつかが、いつなんだろって事を考え続けてきたけれど、今それがなんとなく解り始めてきている。


 私の中で、大きく何かが変わり始めてきている。違う、アテナと出会ってから時間をかけて徐々にもう私は、私の思う自分に向けて既に変わってきていたのかもしれない。


 ――身体をリラックスさせて、集中。例えると精神は集中し、身体は脱力しているような感じ。


 そうすると、ブラワーの動きがもっとゆっくりに見えてくる。でも、私はそれ以上に……そのゆっくり動く時間の中で普通に動く事ができた。



「てめええ!! こうなったら、しょうがねえ! ちょこまか逃げまくるってんなら、掴むのはやめて張っ倒すしかねえな!!」



 ブラワーの張りて。避ける。そして再びアテナに教えてもらった事を思い返した。






「そうそう、そう動くの。これならすぐにルキアは強くなるよ」


「本当にそうなるのでしょうか?」


「うんうん、ちゃんと練習すれば大丈夫。ルキアは素質もあるけど獣人だからね。ルキアの住んでいた村に住む人達は、凄く穏やかな人達だったみたいだけど、本来獣人は私のようなヒュームよりも遥かに身体能力には優れているからね。その力を目覚めさせて、上手く使いこなせれば今だってルキアはずっと強くなるよ。その才能に気づけるかがミソだね」


「ミ、ミソ……ですか……」






 ブラワーが思いきり振りかぶって張り手を突き出してきた。狙いは胸や肩では無く、顔面。私はそれを寸ででかわすと、ブラワーの真ん前にさっと移動して、両手で掌打……というか打撃よりも相手を突き飛ばす勢いでそれを繰り出した。


 これもアテナから教わった事。構えている相手を崩すのは難しいけど、素早く動いて相手の足が平行に揃っている正面から力を加えれば、どんな大男でも体勢を崩すという事。


 私から見てブラワーの足が平行に揃うようにして、正面から突き飛ばすように放つ双掌打。それは、これ以上無い位に見事に決まった。ブラワーは体勢を崩し後ろへよろめいて、尻餅をついた。


 ――歓声があがる。


 ルールは足の裏以外が地面についたら負けだけど、ブラワーはそれに加えて土俵を飛び出していた。


 つまり、ブラワーの負け。完全な私の勝利にブラワーは、何が起こったか解らないと言った表情で固まっている。対してゴーディや他の皆は、興奮し飛び跳ねて喜んでくれた。


 私は洞穴の方で横たわっていたテディの方にも振り向いて、「やったよ!」と手をあげて言った。


 テディはゆっくりと身体を起こし親指を立てると、白い歯を見せて笑った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇猫騙し 種別:体術

相手の目の前で、両手でバチンと叩いて驚かせて出鼻を挫く戦法。猫の獣人のルキアが使う所が、洒落が効いている。


〇双掌打 種別:体術

両腕の掌を、同時に前に突き出して相手に打ち込む。相手の足が平行に揃っている所から狙って放てば、相手はバランスを崩して吹き飛ぶ。覚えて練習すれば、ルキアでも自分より大きな相手を吹き飛ばせるとアテナが伝授した。

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