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第285話 『ルキア格闘戦 その1』




 予想だにしなかった展開に思わず動揺をしたけど、すぐに私は二人を止める為に言った。二人は、私を守ってくれようとしている。



「やめて、二人とも! これは私の戦いだから!」


「うぬぼれるな猫娘! 俺の戦いだ。俺が決める。そういう事なら、まずは反乱分子を叩いてから、ゆっくりとお前をなぶってやる事に決めた。泣いても許さないからな。素直に土下座して謝らなかった事を後悔させてやる」



 ブラワーの怒りはもっともだと思った。


 自分が仕切っている子分達、子供達の前でゴーディ達は逆らってみせたのだ。しかもよそ者の私なんかをかばって。


 リーダーとしては、面目丸潰れ。再び威厳を取り戻す為には私と逆らったゴーディ達を、皆の見ている前でコテンパンにするしかないと思っているのだろう。



「ゴーディ、テディ。ありがとう。二人が私を守ってくれようとしてくれて、私……嬉しい。でもこれは……」



 二人の顔を見つめてそう言うと、急に二人は顔を赤らめる。



「さ、先に助けてくれたのは、ルキアだ。俺達ドゥエルガルは、誇り高き戦士だ。受けた恩は返すんだ!」


「そうだ! やってやる、かかってこいよ! ブラワー!」



 そう言って、まずはテディがブラワーの前に立った。鼻で笑うブラワー。



「テディ、お前から来るのか。いいだろう、じゃあお前から豪快に投げ飛ばしてやる、かかってこいよ!」



 私はテディを止めようとした。すると、ゴーディが私の前に立って首を振った。



「心配するな! 俺達にだってメリットはあるんだ。これで勝てば俺達がリーダーになる」



 ゴーディがそう言った刹那、テディが空中で3回転して派手な音とともに地に落ちた。



「くっそーー!! もう一度だ!!」


「おい、テディ。何度やっても同じことだが、勝負は1回だろ?」


「違う! それはルキアの場合だろ! 俺は3回勝負だあああ!!」



 突撃するテディ。


 ブラワーよりも背丈が小さい分、低空のタックルを狙ってブラワーに真正面からぶつかった。両手をブラワーの両足に伸ばして、キャッチしようとした瞬間、真上から打ち下ろしの掌打がテディの左頬を捉えた。


 テディはまるで5階位の高さから飛び降りたように、顔面から地面に強く叩きつけられて気を失った。



「テディ!!!!」



 ワワーーーっと周囲を囲むドゥエルガルの子供達の歓声。私はテディのもとに走って行って彼を抱きかかえようとした。すると、ブラワーが私の手を掴んでそれを止めた。



「どうして!!」


「やめろ!! そのまま動かすな!! 脳震盪を起こしている。そのまま寝かしたまま、移動させる」



 そう言ってブラワーは周りの子供達に指示し、担架を用意させてテディを洞穴の方へ移動させた。私はそれを見て、ブラワーの事を少し誤解していたようだと思った。



「次は俺が行く」


「ゴーディ! やめて、これは私の戦いでしょ?」


「いや、俺の戦いだ。ルキアの為って訳でもない。俺はこういうチャンスが訪れるのを虎視眈々と日々待ち続けてきたんだよ。毎日、腕立てに腹筋、それにスクワットまでやってきた。ハーフスクワットじゃないぜ、フルスクワットの方だ。だから、ブラワーには決して負けない。勝負だ、ブラワー!」



 私が止める間も暇もなく、ゴーディは縄で囲った即席の土俵に入り、ブラワーと睨み合った。



「ゴーディ、お前は俺には絶対に勝てない」


「なんでそんな事が言える?」


「お前がいくらフルスクワットをしていたか知らんが、俺は毎日ジャンピングスクワットをしているからだ」


「な、ジャンピングスクワットだとお!?」


「そうだ! ジャンピングスクワットだ!!」



 ゴーディに動揺が走った。ふざけたやり取りをしていると思ったら、ブラワーが先に動いた。ブラワーの張り手がゴーディの顔面を捕らる。ゴーディは、まるで地面に置いてあったバナナの皮を踏んですっ転んだように、派手に地面に叩きつけられた。



「終わりだ。さあ次は猫娘、お前の番だ。降参するか? 降参するなら許してやるが……しないなら俺は手加減できねーぞ」



 怖い……怖いけど、もう大丈夫! 私は戦える! そう思って土俵に入ろうとした時、ゴーディが再び立ち上がった。



「ゴーディ!」



 ふらふらしている。しかし、ゴーディは私の方を振り返ると、ニヤリと笑った。



「やっぱ強ええわ。どうやら今の俺じゃ勝てない。でも、それならそれでいい。少しでも、ルキアの為にブラワーを弱らせておくだけの事だぜ!!」



 言った瞬間ゴーディは、ブラワーに弾丸のようにぶつかった。真正面から受け止めるブラワー。それでも、そのまま押してブラワーを土俵際まで追い詰めた。



「やるじゃないか、ゴーディ!! 少しは見直したぞ!!」


「それはこっちのセリフだ。喧嘩じゃ俺はお前に勝てなくても、この勝負なら例えまぐれでもお前を地面に転がせば俺の勝ちなんだからな!! 可能性がある!!」



 ブラワーを土俵際まで追い詰めた所で、ゴーディが何十発と連続で張り手を打つ。


 私はそれを見て、以前アテナが私に剣の稽古をしてくれていた時の事を思い出した。






「とやああああああ!!」


「残念、ほいっと」


「きゃっ!」



 無我夢中の私の連続攻撃を、アテナは全て華麗に避けきって見せたあと、簡単に私を放り投げた。



「はあ、はあ、はあ」


「フフフ。ルキアはナイフを良く使うし、素早い攻撃はとてもいいけど、闇雲に連続攻撃するのはよくないよ。数撃ちゃ当たるって言葉もあるけど、それだと正確さも失われるし連続攻撃は無呼吸運動だからね。続けていると段々連続じゃなくなってくるし、息が苦しくなった所で今みたいに、反撃されちゃうよ」


「じゃあ、どうすれば?」


「ちゃんとよく見て考えて、正確に急所を狙う事。一瞬でそれをする為にはもっと稽古が必要だね。連続攻撃、つまりラッシュは兎に角スタミナかな。ルキアが走って全速力を維持して走っていられる時間が、ルキアのマックスで連続攻撃できる時間と比例していると考えればいいよ」






「はああ、ぜえ、ぜえ、はああ」


「悪あがきはここまでだな、ゴーディ」



 ブラワーは土俵際で、ゴーディの休みなく連続で放ち続ける張り手を全て防いで耐えきると、そのままゴーディの腰を掴んで、思いきり投げ飛ばした。


 ゴーディは、無念にも土俵の外へ転がって行った。


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