第284話 『ドゥエルガルの国とルキア その3』
ブラワーに言われるまま、私は洞穴を出るとその前の拓けた場所で、そのブラワーと向かい合った。ブラワーはかわらず私に対して、手斧を向けている。
向かい合う私達の周囲には、ドゥエルガルの子供達が集まって私達の様子を見守っていた。大人はいない。この騒ぎは、他の場所にいる大人達にも少なからず聞こえているのではないかと思った。
しかし誰もやってこない所をみると、この場所は子供達だけがいる領域みたいで、大人は特に介入自体してこないようだった。
ブラワーは私の目をじっと見ると、ニヤリと笑って言った。
「ここが戦闘民族ドゥエルガルの住処だって事、もう知っているんだろ? さっき何かこの俺に向かって言おうとしたが、自分の意見を相手に伝えたければまずその声が相手に響くようにしてみろ」
「ど、どういうこと? 解らないけど、どうすれば響くの?」
「力を示せって事だ。女だろうが、子供だろうが関係ねえ。それにお前、冒険者なんだろ? それなら戦い方は知っているはずだろ? お前の力、俺に示せよ。それでもし、響くような事があれば聞いてやる。嫌なら、尻尾を巻いてドワーフの王国へ帰れ! もう二度と、ここへ来るな! 俺達に関わるんじゃねえ」
なるほど。そういう事かと思った。
力を示すと言った途端、ブラワーは洞穴の外――拓けた場所を指した。
そこへ移動すると、ブラワーは近くにいたドゥエルガルの子供達に命じて、十分な長さの縄を持ってこさせた。その縄を使って地面に円の形に設置すると、その中に入った。そして、私にも一緒にその縄で作った円の中へ入れと言った。
「力を示すっていうのは、文字通り俺と勝負して勝ってみせろって事だ。だが、いくら俺達ドゥエルガルが戦闘民族だと言っても女子供をぶちのめして血をみるのも趣味が悪いと思う。まず絶対に俺が勝つしな」
「いいえ、それはやってみないと解らない。それに私は構わないわ。貴方が納得してくれるのなら、力を示す」
身体は震えていた。こんなセリフを私が言うなんて、自分で自分の言った事に驚いた。
これまで盗賊に一方的に襲われたり、魔物と戦ったりしたけど、同じくらいの歳の子と喧嘩をするのは私の人生で初めてだった。恐怖と興奮が入り混じる。こんな気持ちになったのだって、初めて。アテナやルシエルと旅をするようになってから、私も私なりに成長したのだと思った。
ブラワーは、私を睨みつけた。
「この円の中に入って勝負をつける」
「ルールは?」
「グーで殴るのは禁止。足の裏以外が地面につくか、この縄で作った円の外に押し出されたら負けだ。俺が負ければ、お前をこの場所に受け入れて認めてやる。だがお前が負けたら、土下座して詫びろ。そして、すぐにここから出ていけ!」
「お、おい。ルキアは、食べ物を買ってくれてここにいる皆に配ってくれたんだぞ。そんな事をしてくれた相手に……恩を仇で返すのか? 俺達ドゥエルガルは、誇り高い戦闘民族じゃないのかよ?」
「うるせえ、ゴーディ。力を示せなければそれも単なる偽善だ。認められたければ示せばいい。それが俺達ドゥエルガルだろ? どうして、俺達は憎きドワーフ共に王国を追い出されこの場所に甘んじて暮らしているんだったか、忘れたか? 大義は俺達にあるのにも関わらず、無様にも戦いに負けたからだろーが」
ブラワーの圧にゴーディとテディは、押されて俯いた。そして、テディは私の顔を見た。
「ルキア、やめた方がいい。いくら冒険者だと言っても君は女の子だろ? 俺達ドゥエルガルは、ドワーフよりも腕力があるし、戦闘力に特化している。それにブラワーは、ルキアよりも年上だしボーグルの弟なんだぜ」
「ボーグル? それは誰なの?」
「ここのリーダーだ。ただのガキ大将じゃないぞ、大人も合わせた全員のリーダーなんだ。そのボーグル・ブラウマンの弟がブラワー・ブラウマンなんだ。だから、こんな戦い止めた方がいい。ルキアに怪我なんてしてほしくないんだ。今すぐ謝って、ドワーフの王国へ戻ろう」
私がこんな強そうなドゥエルガルの青年と喧嘩するなんて言ったら、お父さんやお母さんはなんていうだろうかと、ふいにそう思った。きっと、凄く心配した顔をして慌てて止めるだろう。
リアだってそう。私が年上の男の子と喧嘩するとか知ったら、どうなるだろうか。きっと驚いてひっくり返るに違いない。
お父さんやお母さんが慌てふためいている顔や、リアが驚いて飛び上がっている絵を想像すると、なんだかおかしくなってきて不思議と怖いと思っていたのに心も身体もなんとなくリラックスできた。
こんな場合、アテナならどうするだろう? ルシエルは、喧嘩だ喧嘩だって言って、嬉しそうな顔をしてきっと受けて立つんだろうけど。もしかしたら、もう今頃はルシエルの事だから街の何処かのドゥエルガルと乱闘しているかもしれない。
……でも、流石にそれはないか。
「何を笑っているんだ、猫娘! 素直に謝るか?」
「なぜ、私が謝らなくちゃならないの? でも、いい。私、この勝負絶対勝つから」
やってみる。私だって、一人でやれるんだとアテナにもルシエルにも……それに自分自身にも証明したい。――してみたい。
ガルウウウウウウ!!
「よし、いいだろう。相手してやる、かかってこい!! だがその犬っコロは無しだぞ。使い魔の使用は認めない」
「いいわ」
「よーーし、それじゃ勝負は何本勝負だ、三本か? 一本か?」
ブラワーは対面していても、強いと思った。でも、せいぜいここにいる子供達のリーダーってところ。1回勝負なら私にも勝ち目はある。
「1回のみの勝負よ」
「いいだろう。じゃあ、真剣一本勝負だ。やってやろう! かかってこいよ!!」
頷いた。しかし、次の瞬間驚くべき事が起きた。私の目の前にゴーディとテディが立ち塞がったのだ。しかも私にではなく、ブラワーの方に――――
「え? ゴーディ、テディ……どうしたの?」
「なんの真似だ? ゴーディ、テディ。もしかして、リーダーの俺に喧嘩売っているのか?」
ブラワーが怪訝な表情をすると、二人とも笑って言った。
「流石俺達のリーダー、ブラワーだ。話が早くて助かるな。ルキアとの勝負の前にまず俺達が、まずあんたに挑戦する」
「挑戦?」
「俺が勝ったらもちろん、これからここは俺が仕切る」
その二人の行動に、私の胸は物凄く熱くなった。
ゴーディはニヤリと笑ってそう言うと、ブラワーは大笑いした。そして、何度か頷いたあと二人に対して手招きをしてみせた。




