第282話 『ドゥエルガルの国とルキア その1』
「おい、なんだ? あれ見ろ?」
「獣人の娘じゃねえか?」
「なんで、獣人の娘がこんな所にいる? 攫ってきたのか?」
「どっちにしてもガキだ! ガキはガキにでも任せておけばいい!」
「違えねえ! あんなちんちくりん、俺達のこの住処でどう暴れようが蚊程の害にもならんわ。ガハハ」
私はドゥエルガルの少年、ゴーディとテディと一緒に彼からの住処にやってきていた。
ゴーディが住処と言ったので、普通にアジトみたいな感じの住処なんだと思ったけれど、そこは村のような場所だった。洞窟内にできた空洞にある灰色ドワーフ達の村。
位置的にはドワーフの王国を出て、北東に行った所。それ程遠くない距離。途中、いくつか大小の洞窟を進んで行くと、彼らの村があるのだ。
そして、ゴーディもテディもその村の事を、ドゥエルガルの国だとも言った。それを聞いた私は、こういう村のような国もあるのだなと思った。
「ここは俺達、勇敢なる戦士達が住む場所、ドゥエルガルの国だ」
「ドゥエルガルの国!?」
「そうだ。ドワーフ達に王国があるように、俺達ドゥエルガルにも国がある。それがここだ。食糧を恵んでくれた、お前……ルキアには感謝の気持ちも込めてこの場所に案内してやりたかった。貧しくて、もてなすものなんてないんだけどな……」
「ううん、いいの。私がここを見てみたいと望んだからついて来たんだよ」
「そ、そうか。ならいいが」
案内されて、彼らの住処を見ると、ますます国と言うか、村かアジトに思えた。
人も多いし、規模はクラインベルト王国にある普通の村よりは大きいけど、私の産まれ育ったカルミア村よりも貧しいように見える。
ここにいる灰色のドワーフ達は、ボロの衣服を身に纏い、ドワーフの王国に住んでいるドワーフ達のように太っている者もいなかった。目も荒んでいる。
私はゴーディ達の罪が許された後、飢えている二人に食べ物を与えて二人の生活の事や、この場所の事、ドゥエルガルという種族の事を聞いた。すると、彼らは物凄く貧困している事が解った。
だからそんな彼らに、私が少しでもできる事はないかと思ってここへやってきたのだ。
アテナ達に何も言わずにドワーフの王国の外に出てしまった事は、ちょっと良くなかったかもしれない。でもゴーディとテディは悪い子達じゃないみたいだし、少しでも助けになりたいと思った。それにカルビもいるからきっと大丈夫。
「それにしても、知り合ったばかりの俺達に、こんなに食糧を恵んでもらっていいのか?」
「うん。でもそれは、できるだけ公平に皆で分けて。もっと買ってあげられればいいんだけど……」
あれからあの謝罪したお店で食糧を買えるだけ買い込んで、それをゴーディ達と3人でこの彼らの住処へ運んだ。他にも飢えた子供達がいると聞いたからだった。
ドゥエルガルの国と呼ばれるエリアに入り、そのままゴーディに先導されるまま奥へと進む。
この場所には、私とカルビ以外は全て灰色のドワーフしかいない。少し心細かったけど、ゴーディが大丈夫だと言ってくれた。でも、獣人の私がなぜこんな場所にいるのか物珍しいみたいで、すれ違うドゥエルガル全てが私を睨みつけるように凝視する。
「ついたぞ。ここだ、入ってくれ」
そこは岩が積み重なってできた洞穴のような場所だった。入口にもその奥にもドゥエルガルの子供達がいる。皆、暗い眼をしている。
ゴーディが指した場所に、ドワーフの王国で買ってきた食糧をドサっと置いた。重量感に比例して沢山の食糧。それを見た子供達が集まってきた。
そして早速その食糧の入った袋に小さな子供が手を伸ばそうとする。すると、その子よりも年上の子にその伸ばした手を叩かれた。皆、ガリガリで飢えている。
「こんなに、お腹を空かせた子供達がいたなんて……とてもじゃないけど、十分にいき渡らない」
「いや、十分だよ。これでもないよりは、何百倍もいい。ルキアは俺達ここにいる者達全員に、明日をくれたんだ! このままじゃ餓死する者もいる。一口でも、食い物があればその分生きられるんだ」
なんて、事だろう。ゴーディの言葉は衝撃的だった。私も飢える苦しみは知っている。でもこの程度の事じゃ私がした事は、焼き石に水かもしれない。
それでも……
私はゴーディとテディに、運んだ食べ物を早速ここにいる皆で分けてと言った。すると、ゴーディは「すまない、ありがとう」と言って、テディと一緒に食べ物を洞穴周辺にいる子供達に配り始めた。
でも、私達3人で一回で運べる量の食糧だと、ほんとに子供一人が僅かに一口食べられる程度の量だった。それでも、子供達の顔には笑顔が灯る。
「ねえ、ゴーディ。どうして、ここの人達はこんなにも貧しい生活をおくっているの? ドワーフの王国の方へ住めばいいんじゃないの? 王様に助けてって言えないの?」
「それはなあ、できないんだよ。ルキアは冒険者で、この辺りの事を知らないだろうけどな。それは無理なんだよ」
「それって……」
洞穴の中には、石の腰掛が置いてあった。そこへ座れとゴーディは手で指したので、その通りにすると別のドゥエルガルの女の子がお茶のようなものを入れて、出してくれた。
私は「ありがとう」とお礼を言ってそれを頂きながら、どうしてここの人達がこんなにも貧しい暮らしをおくっているのかを聞かせてもらった。
今よりも昔の話。どうやらもともとは、ドワーフの王国にいるドワーフとドゥエルガルは、一緒に暮らし共存していたらしい。そして、一緒に力を合わせて一族を繁栄させてドワーフの王国を作った。アテナ達と辿り着いて、早速お好み焼きを食べて満喫したあの王国。
ドゥエルガル達は、この先もずっと両種族が一緒に一丸となってドワーフの王国を作り上げていくものだと皆思っていた。だけど、そう思っていたのはドゥエルガルだけで、ドワーフ達はその反対……怯えていたのだという。




