第281話 『謝罪』
アテナ達と一時的に別行動する事になり、このドワーフの王国でカルビと一緒に自由行動する事になった私。
早速王国内の街を色々と見てみようと商店の多く並ぶ通りを歩いていると、美味しそうな林檎が目に飛び込んできた。
それで林檎を購入しようとしたら、そのお店の商品である食べ物を泥棒する少年たちに遭遇。私は必死に追い掛けて、少年たちを捕まえるには至ったんだけど……
今、そのお店から食べ物を盗んだ二人は、私の目の前で正座をして俯いていた。
「わ、悪かったよ」
私は、あらん限りに頬っぺたを膨らまし、少年たちに対して精一杯怒っている事を示した。
「そう思っているんだったら、お店から盗んだものを返してちゃんと謝りなさい」
「……それは嫌だね」
「ど、どうして!? 今、謝ったでしょ?」
「謝ったのは、お前の胸を鷲掴みにした事についてだ!」
「わ、鷲掴みって言わないで!!」
折角気を取り直したのに、灰色ドワーフの少年にそう言われ、また顔が真っ赤になってしまった。
「胸を触ってしまった事については、悪かったと思っている! 俺は女には、危害を加えないタイプなんだ」
「棒で叩こうとしたよ」
「ち、違う! ちょっと脅してやろうと思っただけだ!! 女は暴力を恐れるからな。こうして目の前で棒をブンブン振って、振りかぶって見せれば逃げていくと思ったんだ。なのにお前は、向かってきやがって!」
「それって謝っているの? 文句があるの? どっち?」
「両方だ! お前にした事は悪いと思ったけど、盗んだ事は仕方のない事だからな」
仕方のない事? なぜ、そう思うのか問いただそうとした。すると、後ろから何人かが近づいてきた。
「ここにいやがったが!! よく捕まえたな、子猫ちゃん。後は、我々王国兵に任せてくれ」
振り向くと、戦槌や戦斧、盾を装備した何度かドワーフ兵が何人も現れた。きっとお店の人の叫び声を聞いて追ってきたのだと思った。
「ま、まずいよゴーディ!」
「ああ! ここはひとまず逃げよう、テディ!」
灰色ドワーフの少年達――ゴーディとテディは、すぐに立ち上がって逃げようとした。しかし、この空き地に繋がる道……出口にもなっている全ての道は、ドワーフ兵によって既に固められている。
ドワーフ兵の一人が持っていた盾で、ゴーディの顔を横殴りにして吹っ飛ばす。血。テディの腹部にも拳を入れた。テディは、苦しそうに蹲った。
「うぐう!! いってえー」
「おい、こっちこい!! 野蛮なドゥエルガルめが!! とっちめてやるぞ!!」
「くそっ!! てめー!!」
盾で殴ったドワーフに対して、ゴーディは掴みかかろうとする。だけど盾で更に殴られ、蹴られた。口の中を切ったのか、ゴーディは少し血を吐いたので私は少年二人の前に立ちはだかってドワーフ兵達の制裁を止めた。
「おい、子猫ちゃん。何をするんだ? この汚ねえドゥエルガルのガキは、盗人だぞ。子猫ちゃんも追って来て捕まえたから、知っているだろ?」
「知っています。知っていますけど、なんでこんなに殴りつけるんですか?」
「そりゃお前、またしでかさねえ為にさ。こいつらがこんな事をするのも、これで何回目になると思う? いや、何十回目だったかな。口で言っても解りゃしねーんだ。捕らえて言い聞かせても反省もしねーし、過ちを繰り返すだけ」
「だからって、一方的に殴っていい訳ないです!」
私はそう言って、ゴーディとテディの方を向いて言った。
「さあ、二人とも迷惑をかけた兵士の皆さんに謝ってください!」
「な、なんで俺達が……」
「やはり殴らねえと解らねーらしい! ガキ、こっちへこい!」
ドワーフ兵はそう言って、盾をゴーディ目掛けて大きく振った。目を瞑るゴーディ。私は咄嗟にその間に飛び込んで、ゴーディのかわりにその盾の一撃を受けた。痛みと衝撃。身体が吹っ飛んで、地面に倒れ込んだ。
「ああっ!!」
「おおい! 前に出てくるから、当たっちまった! おい、大丈夫か?」
ゴーディも駆け寄ってきた。
「おい! 余計な事すんなよ!!」
「じゃあ、ちゃんと謝って!! 人のものを勝手に盗ったんだから、ちゃんと謝らなきゃいけないんだよ! あなただって、自分のものを勝手に知らない人が持って行っちゃったら怒るでしょ? そういう事だよ!」
真剣な眼差しで言った。すると、ゴーディはテディと顔を見合わせたあと、ドワーフ兵達の方を向いて土下座をして謝った。私もその横に並んで、「二人とも十分に反省もしているので、どうか許してあげてください」と言った。
ドワーフ兵達は、「どうする?」「俺達に言っても……」「ものを盗ったのは事実だしな」などと言ったので、それなら物を盗られたお店の方にもきちんと謝罪して許してもらうと約束した。
必死に何度もそういって説得すると、ドワーフ兵達は理解してくれて解散し、一人だけ残ってお店に謝りに行く私達の後をついてきた。
お店に着くと、店員の女性は鬼の形相で待っていた。私は、ちゃんと二人が反省している事を伝えて一緒に謝った。二人はそこでも、ちゃんと土下座をして持てる限りの誠意をもってして謝罪した。
「なぜ、お嬢ちゃんがそこまでしてそのドゥエルガルの子供達をかばうのかは解らないけれど、それならもう許してやってもいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
ゴーディとテディも、続けて謝る。
「だけどねー、盗んだものは全部買い取ってもらうよ」
女性の言葉に、ゴーディ達は慌てた。
「そ、そんな金ねーよ!! そんな金があったら、盗んだりしてねーよ!」
「なんだい!! その口の利き方は!! それじゃあ、しょうがないね」
女性が私達の後をついてきたドワーフ兵に目配せすると、ドワーフ兵は頷いた。斧を取り出す。私は慌てて、懐からお金の入った袋を出すと女性に見せて言った。
「待って! 待ってください!! お金ならあります。私が払いますので、これで今日この二人がやった罪は許してもらえないでしょうか! もう二度とこんな事、させませんから!!」
「お、お前……なんで……」
…………沈黙。その場にいる少年二人だけでなく、お店の女性とついてきたドワーフ兵までもが私のその行動に驚いていた。私は続けて言った。
「そう言えば、さっき買いそびれちゃって……この二人が盗ったもの全部に加えて、こちらの美味しそうな林檎を4個ください」
その言葉にお店の女性は、あっけにとられた後、大笑いして頷いてくれた。
私が本当に代金を払うと、女性は「優しさもたいがいにしないと、そのうちあんたが痛い目を見るよ」と言って、少し代金を負けてくれた。
でも私は内心、なんだか自分がアテナみたいだなって思って嬉しくなった。
こうして、ドゥエルガルの少年二人の罪は許された。




