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第279話 『ルキアと泥棒少年』 (▼ルキアpart)




 ミューリとファムは、お城に用事があると言って行ってしまった。


 それからアテナの案で、私達はこのドワーフの王国で、それぞれ自由行動をしてみる事になった。


 思えば私はカルミア村にいた頃は、遠くへは行った事がなかった。旅をし始めてからは、いつもアテナ達と一緒にいるので、こんな大きな街で単独行動するなんてドキドキしていた。



 ……ううん、違う……一人じゃなかった。



 ワウ?



 どうしたの? とでも言っているように、カルビがこちらを振り返る。私はそんなカルビになんでもないよと、微笑みかける。



「これから夜までどうしようかな? いくらカルビと一緒でも、アテナやルシエルがいないとなるとちょっと心細い……だけど、この王国の何処かしらには皆いるわけだし、折角の自由行動なんだから楽しまないとね、うん」



 いい経験になる。そう思って、商店の多い通りを歩いた。色々な物が陳列されていて、見飽きない。


 暫く歩いていると、林檎や葡萄など果実を売っている露店を発見したので、行ってみた。こういう果実も、地底湖キャンプで葡萄を口にした程度なので、物凄く食べたい。


 私は思い切って、お店の人に声をかけた。



「これ、二つ欲しいんですけど」


「ああ、いらっしゃい! 林檎二つね。これは、とても美味しいわよ」



 お店の人は女性のドワーフだった。にこにことはしてはいるけど、ちょっと変な感じで私をじろじろと見ている。



「あの? 何か?」


「いや……まさかとは思うんだけどさ。お嬢ちゃん、お金はちゃんと持ってるんだろうね」



 うっ……そういう事だった。このお店の人が、異様な雰囲気で私をじろじろと見ていた訳が解った。


 確かに、高価なものを身に着けていないし、旅で汚れた私の姿は、お金を持っていないようにも見えるかもしれない。


 それでも高価なものがあるといえば、この腰に差している大きなナイフ。エスカルテの街のギルドマスター、バーンさんから頂いたものだった。でも常時腰に差しているし、マントを装着しているから他人からはちょっと見えないかもしれない。


 でももしもこれが誰かの目に留まれば、きっとこんないい武器を持っているんだから凄い冒険者だろうって思われるかもしれない。そうなったら、緊張する。


 でも、目立つのはあまり好きじゃないし、盗まれる場合もあるからなるだけ隠しておいた方がいいってアテナやルシエルも言っていたのでこれでいいと思った。


 私はお金を入れている革袋を取り出すとお店の女性に見せた。それを見ると、女性はにこりと愛想良く笑った。



「ちゃんと、持っていますよ」


「そうかいそうかい。じゃあ、何も問題はないさ。売ってあげるよ。林檎は2個でいいのかい? 更に買うなら、もっと勉強してあげるけど」


「これはノクタームエルド産の林檎ではないんですよね」


「そりゃそうだろ。洞窟で林檎が育つわけないだろ? よその国から輸入しているのさね。だけど、味は保証付きさねー。それで、買うのかい?」


「はい、買います! それじゃあ……」



 その時だった。買い物を済ませようとした時、物陰から誰かが飛び出してきて店に陳列する商品を奪って逃げた。逃走するのは、2人だった。 


 お店の人は大声を上げて叫んだ。あまりの一瞬の出来事で、私もあっけにとられていたけれど、慌ててその逃げた2人を目で追う。すると、どちらもドワーフの子供だった。灰色の肌をしたドワーフ。



「泥棒――!! ドゥエルガルのガキ達だ!! 泥棒だよ!! 誰か、捕まえておくんなーー!!」



 灰色のドワーフの子供達がその声に焦り、逃走しながらも一瞬こちらを振り返る。


 その顔を見ると、怒りや憎しみといったような不満を帯びた目をしていた。それに、ボロボロの服と痩せこけた身体。その姿に自分が盗賊集団に捕らわれ奴隷として売り飛ばされかけた時の事を思い出した。


 私は手に持っていた林檎をお店の商品が陳列している所に一旦戻すと、その子供達をカルビと共に追いかけた。子供達は通りの角を曲がって路地に入る。



「誰か、ドゥエルガルのガキ共を捕まえてくんなー!! 泥棒だよ!!」



 お店の人の叫び声に、通りを巡回していたドワーフ王国の兵隊も反応した。



「あの子達、もしかしたらお腹を減らして……だったら先に捕まえないと!!」



 ドワーフ兵も泥棒の子供達を探し始めて、こちらに集まってきた。路地を曲がると、更に向こうでまた角を曲がる子供達の姿を確認した。ダメ、このままじゃ見失っちゃう。



「このままじゃ逃げられちゃうかもしれない! カルビ、お願い!!」



 ガルウッ!!



 カルビは、返事をすると疾風のようにビュンと目前を突き抜けるように駆けて行った。子供達を追って路地の向こうへ消える。私も必死にその後を追う。



「あっ!!」



 途中、足がもつれて転んだ。膝を擦りむいたけど、我慢。子供達……カルビの後を追いかけた。


 追っていくと、T字路になっている場所に出た。どちらへ行ったのか悩んでいると、片側の道の先からカルビの吠える声が聞こえてきたのでそちらへ向かって駆けた。


 すると、空き地のような少し拓けた場所に出た。


 そこにはカルビとさっきのドゥエルガルと呼ばれていた灰色の肌をした2人の子供のドワーフがいた。カルビはその子供達に向かって吠えて、追い詰めている。



「ちきしょーー!! なんだ、このウルフは!!」


「どうする? やっちまうか?」



 ワウワウワウワウッ!!



 子供の一人が抱えていた盗んだ食べ物を地に置いて、その辺にあった太い棒を手に取り、カルビに向かって振り上げた。



「この魔物めええ!!」



 ヒュンッ



 振り下ろされた棒をカルビは、サっとかわしてそれを咥えた。子供は慌てて、棒を取られまいと引っ張ったがカルビは離さない。



 ガルウウウウウウ!!



「ゴーディ!! 大丈夫か! こいつめ、はなせ!!」



 もう一人がカルビのお腹に蹴りを入れた。カルビは「キャン」っと悲鳴をあげて転がった。



「カルビ!! 乱暴な事はやめてええ!!」



 カルビが蹴られたのを見て、私はその蹴った子に思いきり体当たりをした。子供は吹っ飛んで、カルビと同じく転がった。



「このクソメス!! 獣人のメスごときが、この気高き戦闘民族ドゥエルガルの戦士に何をしたああああ!!」



 ゴーディと呼ばれたドゥエルガルの少年は、握っていた棒を更に強く握りしめて私の方に向けた。


 私は、腰に差していたバーンさんから頂いた大きなナイフを抜いて構えた。


 私だってもう、あの盗賊団に奴隷として売られかけていた頃の私じゃない。そう強く思って、負けずに灰色ドワーフの少年を睨み返した。



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