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第277話 『黄金のスープ』




 列は進み、やっと待ちに待ったこの時がやってきた。

 


「いらっしゃーい! 5名様?」


「はい、そうです」



 オレとノエルが答えようとしたが、メールが先に答えた。まったく、しっかりした娘さん達だな。ノエルも同じふうに思っているなと、目があって解った。



「それじゃ、ここのカウンターの席、5人連なって座れるから掛けてね。それで、もう決まっているならお好みをどうぞ?」



 お好み? 好みってなんだ? 


 きょろきょろと辺りを見回し、他の客が食っているものを覗き込む。大きなどんぶりみたいな器にスープが入っていて、そこには美味しそうな具と麺が入っているな。うっへー、こりゃ美味そうだ!! 


 他の客の食べている物をまじまじと覗き込んでよだれを垂らしているエルフがツボにハマったのか、またメール達が大笑いした。



「アーーッハッハッハ!! 駄目だよ、食事している人の、食べている所をそんなに覗き込んじゃ!!」


「本当にルシエルさんみたいなエルフ、見た事ないですよ。あはは」


「え? え? そう? そうかな?」


「物珍しがってるんだよ! 別にお前を褒めてねえから!」



 ノエルがペシリとオレの肩を叩いて突っ込んできた。


 ムム。もしかして、ノエルは突っ込みか!! オレの周りじゃアテナもミューリもファムも、どちらかというとボケキャラだからな。突っ込みと言えばルキアしかいないから、なんとなく貴重に感じる。


 まあでも本当の事を言ってしまうと、オレはどちらかというとボケキャラというよりは、クールなタイプだがな。フフッ。



「それで、どうするんだ? 順に、好みを言って欲しいんだけど」


「はーい、じゃあ私普通で」


「私もーー」


「私は、少なめで」



 少なめ? 麺をか? それともスープ? 


 だとすれば、そりゃ損じゃないか? 貰えるもんは貰っておくべきじゃないのか? 


 メール、ミリー、ユリリアと続いてオレだったが、まだどう注文していいか困惑していると先にノエルが答えた。



「あたしは、硬め、濃いめ、多めだ!! あと麺大盛な!」


「えい、かしこまり」



 えええ!! 何だそりゃ!? なんかの呪文なのか、それは!!


  麺大盛っていう所だけは、なんとか解読する事ができたけど……その前に言ったのが、さっぱりだ。


 ノエルの顔と店員の顔を交互に見る。ノエルは、どういう事か理解が及ばずハワハワして戸惑っているオレを見て勝ち誇っているかのようにニヤリと笑った。



「エルフのお姉さんは、どうするんだい?」


「ええ、えっと……そ、そうだな。オレはあれかな。強め、面白め、ちょい斜めで頼むわ」


「は?」


 

 ……店内が一瞬、静寂に包まれた。


 店員の顔が引きつる。ノエルがカウンターテーブルを叩いて笑い転げている。なんだ? なんなんだよ。解らんよーー。おせーてよ。意地悪せんと、おせーてよ!


 腹立つし、もうどう答えていいのか解らんくなったので、ノエルをくすぐり地獄の刑に落としてやろかと思った瞬間、隣に座るユリリアが笑って説明してくれた。



「このお店はラーメンっていうスープに入った麺料理を出すお店なんですよ。いつも大人気でお客さんも連日並ぶんです。だから、注文も急かされる感じで答えさせられるから、初めてくるとちょっと驚いちゃいますよね」


「え? う、うん。そうね。ハハハ」



 汗を拭う。ノエルめ、知っているからってニヤニヤしよってからに。オレは、こんなラーメンなんて食べ物、初めて食うんだぞ。言うまでもない事かもしれんが、エルフの里にもラーメン屋なんてなかったんだからな。



「ノエルさんが言った硬め、濃いめ、多めっていうのはそのラーメンの麺の硬さ、味の濃さ、油の多さなんですよ。硬さに関しては、一番硬いバリ硬なんてものも注文できます。それを好みでリクエストできるんです。因みに私は、油を少なめで注文しました」


「へえーなるほど、そういう事かー!! ユリリアは物知りだなー。博識だなー。誰かさんと違って……」



 チラリとノエルを見ると、ノエルも目を細めてこちらを見ていた。ムムム……た、対抗してきよる。



「じゃあ、オレも硬め、濃いめ、多めで! あと麺大盛でな!」


「かしこまりましたー!」


「おい!! あたしのマネすんなよー! このマネマネエルフ!」


「いいじゃーん、いいじゃーーん!! ノエルは、ちょっと心が小さいぞ! もっと、大きな心、大きな愛をもってして人と接しないと駄目なんだぞ。普段からそれができていないから、比例して背もこんなにちっこいんだぞ!」


「やめろって!! こんな所で頬ずりするな、このバカエルフ!!」


「バカってゆーな! あのな、バカってゆーもんが、バカなんだぞ!」


「なんだと!!」



 再び始まったオレとノエルの小さな喧嘩に、メールが見かねて間に入る。



「もうもうもう、これから美味しい料理を食べるんだから、喧嘩はやめて!! あれだけ並んで、これから折角とびきり美味しいラーメンを食べるんだから、少し落ち着いて気持ちよく食事を楽しみましょうよ」


「は、はい」


「お、おう」



 メールに叱られしゅんとするオレとノエル。

 

 すると、間もなく注文したラーメンがオレ達の前に運ばれてきた。湯気。そして、なんとも食欲を刺激しまくる美味しそうなかおり。もう、辛抱たまらん。


 オレは、カウンターテーブルに置いてある箸とレンゲをとると、まずはラーメンのスープから味わってみた。啜る。


 …………ずずずず、なんじゃこりゃ!! 


 美味い!! 美味すぎる!!


 オレは慌てて隣に座るノエルとユリリアの顔を交互に見て、「これ好きなんだけど!」っと言ってアピールした。すると、ノエルが今度は意地悪しないで教えてくれた。



「ストンベーブっていうノクタームエルドに生息している魔物がいるんだけどよ。そいつは背や頭の一部が石化している世にも珍しい豚なんだ」


「え? なにその豚? しかも、なぜその話を今? もしかして、ラーメン喰って食欲に火がついたから豚肉が喰いたくなったとかだな」


「違うよ、てめえと一緒にすんな! それでそのストンベーブの骨は、物凄く美味いエキスがでるんだけどよ……」



 オレは、はっとした!



「まさか、まさかその豚の魔物の骨をダシにして、この素晴らしいスープを作り上げているのか?」


「それだけじゃない。ストンベーブの骨に加え、コッコバードの骨も一緒に煮込むんだそうだ。骨はその中身の髄までかき出してその全てをトロトロになる程に圧力鍋で時間をかけて煮込む。更にそれにあった洞窟内で採れる薬草、生姜、葱なども足して1日かけて煮込むらしいぞ。すると、どうだ? この黄金のスープが完成するって訳だ」


「ふえええーーー!! こいつはすげえな」


 

 もう一度自分の食しているラーメンの器の中へ視線を落とす。確かに、スープが黄金に輝いているように見える。こいつは、すげーぞ!

 


「このヨルメニア大陸にはな。他にも、色々な拘りのラーメン屋があるんだが、この味のラーメンはこのドワーフの王国のこの店でしか味わえないんだぜ」



 ノエルのその言葉を聞いて、オレはすっかりラーメンの魅力にハマってしまった。美味い、美味すぎる。オレの知らないこんな美味い食べ物がまだこの世の中にあっただなんて……世界は広いなと再び思い知らされた。


 オレは、ラーメンを夢中になって貪り、汁の一滴まで大事に味わって平らげた。


 これは、確かに並ぶ価値があると改めて思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ストンベーブ 種別:魔物

ノクタームエルドに生息している豚の魔物。頭部や背など身体の一部が石化しているが、そういう魔物で特に状態異常ではない。石の部分は食べられないが、肉はとても美味しくて骨からも最高にいい出汁がとれる。大きさは通常の豚とそれ程変わりはない。特徴があるとすれば、身体に石化している部分があるという事と家畜として飼育する事は非常に難しいという事。なのでこの魔物を食材として取り扱っているドワーフの王国にあるお店は、冒険者ギルドに野生に生息するストンベーブの狩猟依頼をして材料を入手している。


〇コッコバード 種別:魔物

鶏の魔物。鶏よりも肉は美味しくて、卵も実に濃厚で美味い。ストンベーブとは違って、飼育する事も難しくないので家畜にもされている。アテナは、コッコバードの卵を使った料理が好物で、よく準備してキャンプで卵焼きにしたりハムエッグにしたりスクランブルエッグにしたり、オムレツにしたりと食を楽しんでいる。

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[一言] 「あたしは、硬め、濃いめ、多めだ!! あと麺大盛な!」 「えい、かしこまり」 「ええ、えっと……そ、そうだな。オレはあれかな。強め、面白め、ちょい斜めで頼むわ」 爆笑やばいwwwwww…
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