第276話 『列に並ぶ楽しみ』
店に着いた。
その店は、小さいながらも大繁盛していて客で溢れていた。
店の外には、その店でなんとしても食事をしたいというような客達が順番に並んで列ができていた。
「ルシエルさん、ノエルさん! 早く並びましょ!」
「先に並ばれちゃいますよ。ちょっとでも早く入店できるように、並ばないと」
「さあさあ、いきましょうよ。……すいません! ここ、最後尾ですかー?」
「ああ、そうだよ」
オレ、メール、ミリー、ユリリア、そしてなんだかんだでついてきたノエルも含めて5人でその店の最後尾に仲良く並んだ。
「それにしても、物凄い長蛇の列だな。これ、いったいどのくらい待つんだ?」
ミリーが笑って答える。
「そうですね。これだけ並んでいるんですから、普通に1時間以上は待つんじゃないですかね」
「い、1時間!! ふへーー、まいったなー」
ただ飯を食うだけなのに、そんなに時間をかけて並んで食べた事なんて今まで一度も無い。それ程なのか? それ程の事なのか? この店で飯を食うという事は!!
それ程にこのミリー達が食べたいと言っているこの店の料理は、価値があるのか?
……いや、しかしあのワーム丼は絶品だった。だからミリー達のそういうグルメ情報は決して侮れない。それを考えると……これは仕方がないのかもしれない。
やはりここは、ぐっと我慢して1時間待ってみる事にした。
そんな事を考えて頭を巡らせ、眉間に皺がよっていたのがバレたのか、ユリリアがくすりと笑った。そして、ユリリアが購入したばかりの使い魔、ウイングカイトもクエックエッっと鳴いた。それはまるで、オレを笑っているかのようだった。
「こら! 鳥!! お前まで笑うんじゃない!」
「あはは。ちょっと、1時間って長いですよね。でも、こうしてこういうお店の列に並んで待つのも、こういったお店で食べる醍醐味の一つだったりするんですよ」
「だ、醍醐味? なんか、待っている間に腹も減ってきて地獄なんだけど」
オレのその言葉にユリリア達が笑った。その横でノエルも笑っていたが、鼻で笑っていた。
「フンッ! エルフと言うのは、精霊魔法を得意とすると聞いたが、お前はどうやらメンタルが全く鍛えられていないようだな。魔法っていうのは、メンタルも大きく関係するのだろ? じゃあ、未熟だな」
「なんだとーー!! ノエル!! その言い方はないだろ!」
「なんだ? やるのか? もしかして今ここで、あたしにブチのめされたいのか? いいぞ、なんならあの続きをやるか?」
「くっ!! またその事を蒸し返しよってー!! 悪いと思ってるって言ってんのにー、このー!!」
「ちょっと、ルシエルさん!」
メール達が止める。止めずとも解っているけど、くっそー腹が立つ。もう肉の件は散々謝ったのに。なぜノエルはこうもオレを挑発してくるのだろうか。
「あん? なんだ、やんのか?」
「やんねーよ! やんねーよ! 大事な事だから二回言ってやったわ!」
ムッキーー!! くっそーー!! どうしよう、めちゃ腹が立つ。でも我慢だ。何てったってオレの方が遥かに年上なんだからな。ここは、メール達の手前もあるし、ひとつ大人の余裕ってのを見せつけねばならん。
オレはどうすればいいか、一生懸命に考えた。そうだ、アテナならどうするか? アテナはこういうのん上手いんだよなー。アテナが凄いみたいで少ししゃくだがこの際見習ってやる。よし!!
「こうなったら、こうしてやる!!」
「うっ!! なんだ、よせこのバカエルフ!!」
オレはノエルに思いきり抱き着いた……というか、ノエルの小柄な身体をハグするようにぎゅっと抱きしめた。そして、ノエルの顔に自分の顔を近づけて頬ずりする。ビクビクビクっと痺れるように震えるノエル。拒絶?
「うおおおお!! なんだ、やめろ!! 気持ち悪いな、離れろ!!」
「はっはっはっは!! このへそ曲がりドワーフがああ!! ノエル、お前がなぜそんなにオレに対してそんなトゲトゲしいのか解った。これは、反発していたんだろ? きっとお前は人の暖かさや優しさに飢えているんだ。だけど、ちょっぴりへそ曲がりな性格もあって、そういうトゲトゲしい態度をオレにぶつけていたんだろ?」
「な、なにを言っている!! 離せよこのバカエルフ!! ゾワワワワ……うえ、やめろ!! 気持ち悪い!!」
「おい、こら!! 暴れるな!! オレっちの愛をたっぷりと入魂してやっからよー!」
「やめろおおおお!!」
頬ずりするついでに、ノエルの匂いも嗅いでやった。なんだか、ミルクというか甘い匂いがした。
オレはこんな匂いのするハーフドワーフの少女が悪者ではないと確信した。なんてったってミルクの匂いがする女の子だからな。……って馬鹿な事をして騒いでいると、並んでいる店の店員がやってきて怒られてしまった。
「あの、他のお客さんもいるんでもうちょい静かにしてもらえやせんかね」
「はい、すいません」
「う、すんません……」
ノエルも一緒に頭を下げて謝ったあと、お前のせいで怒られたぞと言わんばかりの目つきで睨まれる。オレは、口笛を吹いてそっぽを向いた。メール達は苦笑い。
「それで、この店でいったい何を食うんだ? これだけ人も並んでいるし、さぞかしめちゃくちゃ美味しい料理なんだろ?」
メール達は顔を見合わせて笑って答えた。
「そうですよ。他の国でも、こういったお店はあるんですけど、面白い事にそれぞれに味が違うんですよ」
「ええええ。気になるなあ。いったい、なんなんだその料理は? ノエル、お前も気になるだろ? なんとか言ってくれよ」
「あたしはこの店を知っているからな」
「おいおいおい!! なんだと、このスットコドッコイ!! ここへきて、とんだ爆弾発言だぜ!!」
「そりゃあそうだよ。ノエルさんはこの国の住人なんだもん。ねえ、ノエルさん」
ノエルは頷いた。
列がまた動く。いよいよ店の入り口が近づいてきた。何ともいえない食欲を掻き立てられる匂いが漂ってきた。
もうだめだ! ぐーーっという腹の音と共に、どうにも食欲を我慢できなくなっていた。




