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第275話 『灰色のドワーフ ドゥエルガル その3』



 くそっ!! オレがアテナのような体術を使えればこんな奴らに負けやしなかった。


 そう思いながらアビーのパンチを耐えるべく歯を思いきり噛み締め喰いしばった。


 もうオレの腹もそろそろ限界で、これ以上は耐えられないだろう。だが身体が限界でも、オレの心を折る事はできない。なんせ、オレはチャンピオンなんだから!!



「これで終わりだ!! 反吐ブチまけなああっ!!」



 思いきり下からえぐる様に襲ってくるアビーの超低空アッパーが、オレの腹目掛けて飛んできた。着弾に備えてオレは、目をぎゅっと閉じて歯を喰いしばる。



 バスウウウウッ!!



「ぐっ!!」



 パンチの炸裂音!! 


 …………しかし、衝撃は無い。痛みも。……これは、どういう事だ?


 恐る恐る目を開いてみると、目の前には小柄な少女。そしてその細い片腕一本で見事にアビーのパンチを受け止めていた。



「お、お前は……」


「よう、泥棒エルフ。また肉でも奪って、リンチでもされているのか?」



 見るとそこには、髪の毛をサイドテールに結った褐色の少女が立っていた。背中には、その小柄な少女とミスマッチな巨大な戦斧――バトルアックス。


 オレはこの子を知っている。ロックブレイクにいた時に、大量のアシッドスライムがそこへ雪崩れ込んでくるという事件があった。その時にオレ達は、ロックブレイクに残った冒険者皆で力を合わせアシッドスライム共を討伐した。


 その時に、出会った女の子。ミューリやファムの知り合いで、ヒュームとドワーフの血を持つハーフドワーフなのだという。確か、ノエル・ジュエルズという名前。ミューリが言っていた。


 オレはその時に、うっかりこの子……ノエルが丹精込めて育て上げた、こんがりした肉を食べてしまったのだ。そして、それが原因で戦う事になってしまった。


 悪いのはオレだけど、やられたくない一心で反撃した。すると、逆に倒してしまった。だから気絶したノエルをテントに寝かせ、お詫びに金貨を1枚を置いてきた。


 その時の子が、今オレの目の前にいる。そして、オレの喧嘩の相手の攻撃を代わって受け止めてくれていた。



「泥棒エルフは、リンチされるのが趣味か? それなら、あたしがもっとどつき回してやろうか。忘れた訳じゃないだろ? いつかのお詫びにな。」



 グサリ……言葉が突き刺さる。オレはナハハハと笑って見せて謝った。



「あの時ノエルは、気絶していた。でもオレは悪いと思って、気絶しているノエルに何度も謝ったんだ。金貨も1枚、代金として置いてきた。本当に申し訳ないと思っているし、そろそろ許してくれてもいいんじゃないか?」


「勝手な事を言うな!! あたしは、気絶なんかしてねーっし!! あんたなんかに負けてもいねーーっし!! いいか、勝手な事をぬかすなよ!! 調子ぶっこいてると、ぶっ殺すぞ!!」


「ごめんよーー、でも本当に悪いと思っているんだってーー。悪いのは、オレなのに逆に肉を喰った上に気絶までさせてしまってよー」


「だから、気絶してねーっつってんだろ!! てめー如きにあたしがやられる訳なんてある訳ないだろが!!」



 ノエルは、ムキになって叫んだ。そして、息を大きく吐くとオレを羽交い絞めにし、拘束している3人のドゥエルガルに殴りかかり倒してしまった。



「ぐへえっ!!」


「き、貴様!! ノエル、この野郎!! 喧嘩の邪魔しやがって!!」


「喧嘩? こんなのがお前らドゥエルガルの喧嘩なのか? たった一人に多人数で襲い掛かってリンチ。自分達の事をドワーフの戦闘種とか言っているようだが情けないものだな」


「なんだと!? てめえノエル!!」


「1対12は卑怯だって言ってんだよ!! わかんねーか? ああ?」


「隊長!!」



 突如乱入してきたノエルに対してアビーが不服の目で、場を取り仕切るドワーフの隊長に訴えるように言った。しかし、隊長は顔を横に振った。周りに集まっている者達も大盛り上がりだ。



「アビー。1対7っていうのはそもそもそのエルフにとって不利な喧嘩だった。それでも、エルフはその喧嘩をかった。そしてそこへ更にダグベッド率いる5人が、勝手に加わって1対12になった。それでも、エルフは勇敢にも一人で戦っている。……エルフに一人、助っ人が増えたからって泣きつく程、ドゥエルガルっていう種は脆弱なのか?」



 隊長の言葉にアビーの灰色の顏が真っ赤になった。道の横に置いてあった斧を拾い上げ、それをノエルに向かって振り下ろした。



「危ない!!」


「フンッ!」

 


 ノエルはアビーが振り下ろす斧の柄を掴むと、そのまま腕を捻り上げて投げ飛ばした。チャンスだ。オレも反撃に出る。


 オレとノエルは、ダグベッド以外のドゥエルガルを全て倒した。



「くっ!!」



 後退するダグベッドの前にドワーフ兵の隊長が割って入る。



「この喧嘩、ここまで。この勝負はこっちのエルフの勝利だ。理由は、見て明らかだがあえて言うなら、アビーが武器を使用した。納得がいかないなら、これから先は治安維持として我らドワーフ兵もこの喧嘩に加わるが……それでいいか?」


「ああ! 解った、俺達の負けだ。負けだよ、謝るよ!! 突き飛ばしてすまなかった」



 そう言って、ダグベッドはノックダウンされて転がっている仲間を文字通り叩き起こすと、早々に何処かへ退散していった。



 ワワーーーーーッ!!



 隊長がオレの腕を掴んで掲げると、周囲は悔しがる声と歓喜する声に包まれた。きっと賭けをしていた連中が騒いでいるのだろうと思った。


 メール達もオレが全財産オレに賭けろと言ってその通りにしたので、飛び上がってはしゃいでいた。フフフ、大きな臨時収入になったようだな。



「お前、名前は?」



 ノエルが詰め寄ってきた。身体がぶつかりそうな近い距離、下からオレを睨み上げる。



「ルシエル・アルディノアだ。ハイエルフだ。あんたの事は、ミューリやファムに聞いた。ノエル・ジュエルズ。ハーフドワーフだろ?」


「違うね」


「え?」


「あたしの名はノエル・ジュエルズ。ハーフドワーフだ」



 え? 一緒なんだけど……何が違うんだ?


 ノエルはプイっと横を向くと、話を続けた。



「それで、ルシエル。あの時の喧嘩の続き……今この場で、このまま始めるか?」


「おいおい、だから謝っているだろ? もう勘弁してくれよ。悪かったよ。どうすれば、許してくれるんだよ」


「…………」



 こういう時、アテナは上手い事話を進める。でも、オレはこういうのは苦手だ。うーーん、困った。すると、メール達がかけよってきた。



「ルシエルさんのお陰で儲かっちゃった!」


「うんうん、だから次行くお店は良かったら私達が出しますから」


「おおー! そうか、それでどこに行くんだ?」


「それは行ってからのお楽しみですよ」



 ノエルを見ると、不機嫌そうにそっぽを向いている。だから、オレはノエルにも声をかけてみた。



「これからオレ達、美味いものを食いに行くんだ。良かったら奢らせてくれ」



 睨みつけてくるノエル。



「おいおい、詫びのつもりじゃないよ。単純に、一緒に美味いものを食べないかって誘っているんだけどな。なあ? 行こうよ」



 そう言って微笑みかけると、ノエルは「ケッ!」っと言って更に向こうをむいた。


 オレは苦笑いすると、メール達とお目当ての美味しいものを食べに行くのに歩き出した。それに合わせて周囲に集まっていた野次馬たちも何処かへいなくなった。


 店に向かいながら、ふと後ろを振り向くと、オレ達の後をつけてくる褐色の少女、ノエル・ジュエルズの姿がそこにはあった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ドワーフ王国の警備隊長 種別:ドワーフ

三度の飯より、ギャンブルと喧嘩が好き。あとお酒も……警備隊長という立場上、喧嘩はできないのでたまにダグベッドやアビーのようなドゥエルガルが問題を起こすと、飛んで行って周囲のドワーフ達を巻き込んで賭けをする。


〇ノエル・ジュエルズ 種別:ハーフドワーフ

髪をサイドテールに結っている褐色の可愛い少女。いつもムスっとした感じを出しているが、背も低く少女にしか見えないので可愛い。だが、恐ろしい剛腕とタフネスを持っていて身体能力も凄まじい。ロックブレイクにいた頃に、彼女がこんがりと育てていた肉をルシエルに食べられてしまい喧嘩をした。ミューリやファムやギブンと、かつてパーティーを組んでいたらしく、アース&ウインドファイアというユニット名を名乗っていた。背中に背負う大きなバトルアックスは、彼女のお気に入り武器。

読者 様


当作品を読んで下さいました読者様、ありがとうございます。

ご感想、ブクマ、評価、イイネ下さいました読者様には重ねてお礼申し上げます。

凄まじく、励みになっております(^o^ゞ


この度は、読者様にご指摘頂きまして初めて気づいたのですが、274話を重複投稿しておりました。

誠に、お恥ずかしい限りで申し訳ありませんでした。


投稿分はもちろんありましたので、即投稿し直しました。


多くの人に読んで頂いて、沢山の方々に楽しんで頂ければいいなと思って励んでおりますが、助けてまで頂いて、気持ちがあつくなっております。


本当に感謝感謝でございます。

ありがとうございます。m(_ _)m

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[一言] 第274話が2つ投稿されてますよー
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