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第271話 『ウイングカイト』




 ウイングカイト――ノクタームエルドの連なる大山脈に生息する鳥系の魔物。


 見た目は鳶そのものだが、成長すると風属性魔法を使用する個体も存在する。使い魔にして訓練すれば、狩猟犬などと同様にビーストテイマー(主人)の心強い相棒になる。


 ユリリアは、いくつも商品として並ぶ使い魔の中から、このウイングカイトと言う鳥系の魔物を見つけた。そして、運命の出会いのように既に気に入っている様子で真っ直ぐに見つめていた。っていうか、見るなりもう一瞬でこの子にしようって決断していた?



「ルシエルさん。……実はですね」


「お、おう?」


「メールは攻撃魔法と補助魔法が使えるんです」


「え? おお。オレも精霊魔法は使えるぞ。特に風の精霊魔法は得意だ」


「はい、今はルシエルさんやアテナさんのような、魔法も使えるけど武器も扱えるというような冒険者が増えてきてますよね。――なんでもできる、オールマイティーな感じで」


「おお、そうだな。例えばアテナなんか、典型的なそれだもんな」


「ミリーも攻撃魔法が使えるんですが、レイピアも上手に使えてて……でも、私はそんなに役に立たないような初歩的な回復魔法しか使えなくて」


「いや、回復魔法が使えるのは凄いことだぞ。逆に、オレは回復魔法は覚えてないからな。怪我したらいっつも、アテナに治してもらっているぞ」


「アハハ……アテナさんと私じゃ、レベルが違いますよ。私のは、役に立たないようなレベルです。ルシエルさんやアテナさん、それにミューリさんやファムさんなんて物凄いレベルの魔法使いじゃないですか」



 うーーん。確かに、ミューリやファムの魔法はそれぞれの得意分野である火や風に限って言えば、凄まじいレベルだ。


 でも、冒険者のレベルっていうのは別にそれだけでもない気もするが。


 現に、オレやアテナは腕っぷしはあるが、ガンロック王国に最初入国して荒野を何も考え無しで彷徨い歩いた時には死にかけた。


 あの強烈な容赦のないガンロックの大地での生きる術は、持ち合わせていなかった。あわやという所で助けてくれたナジームにオレ達は遠く及ばなかったのだ。



「剣闘士や武道家なら解るが、冒険者っていうのは、なにも剣や魔法の強さだけじゃないと思うぞ。ユリリアには、ユリリアにしかできない事があるんじゃないのか?」


「はい。だから私もそう思って。剣や槍、魔法ももっと使いこなしてみようと頑張ってみました。だけど、私にはあまりそういう才能は無いみたいなんだと気づいたんです。でも私、昔からちょっと動物や魔物の子供になつかれやすいっていう事を思い出して」


「ほう、なるほど。それで使い魔をか?」


「はい。興味がありますし、動物は可愛いと思いますし、今は【ビーストテイマー】になれたらいいなって思っています。その分野なら、メールやミリーにも負けない自信があります」


「うん!! いいと思うぞ! オレも、ユリリアには、なんとなくその才能があるんじゃないかって思う。じゃあ、思い切ってここで使い魔を購入するか」



 ユリリアは嬉しそうに頷いた。オレにとってカルビは、仲間……ナジームの連れていたクルックピーのピッチーは友達だった。相手が魔物でも動物でも、互いに求め合えば心を通わせる事は可能なのだ。


 ユリリアが目の前の檻にいる1匹の鳥の魔物を、見つめていたのでオレも覗き込んだ。


 クエックエッ



「いいじゃないか! なかなか面構えが気に入ったぞ。それにハンサムだ」


「フフフフ。ルシエルさんもそう思いますか? じゃあ、思い切って購入しちゃおうかな?」



 すると、ターバンを巻いたドワーフの店主が声をかけてきた

 


「いらっしゃい。こちらのウイングカイトは、昨日捕獲したばかりのもので威勢もいいし、まだ子供だから調教もしやすいよ。今なら、この調教専用魔装具もつけよう」


「調教専用魔装具? それはなんだ?」


「もしも、使い魔が主の言う事を聞かなかったり、逃げ出した場合に魔装具に宿った魔力で、潜んでいる居場所を探知し、電流を流して言う事をきかせる事ができる便利グッズだよ。より速く、使い魔を服従させる事ができるぞ」



 ――服従。


 手っ取り早く、使い魔にする為にはその方がいいかもしれないが、それではきっと本当の信頼は築けないだろう。ちらりと、ユリリアの表情を見るとユリリアもオレと同じ考えのようだった。


 そう言えば、地底湖でもユリリア達はカルビとも楽しそうに遊んでいた。使い魔にするならきっと、俺達とカルビのような関係を築きたいのだろうな。



「私はルシエルさんとカルビのような信頼ある関係を使い魔と築いていきたいです。だから、その魔装具はいりません。そのままでいいので、この子を売ってくれますか?」


「それならそれでいいが……じゃあ、リードはつけさせてもらうよ。流石に売った途端どこかに羽ばたいていって逃げてったら、折角売ったもんとしても悲しいからね」


「ありがとう、じゃあそれでお願いします」



 クエエーーッ


 金貨6枚。ユリリアはそのお金を店主に支払った。店主はウイングカイトの首に首輪を取り付けると、それにリードを付けて檻に戻し、ユリリアに手渡した。



「えええ!! ユリリア! 何買ったのー?」


「うそ!! 信じられない!! それウイングカイトでしょ! 凄い!!」



 若い娘二人の仰天する声。振り返るとメールとミリーがいて驚いていた。



「うん。この子、なかなかハンサムでしょ?」



 ユリリアが使い魔を買った事と、これから自分の使い魔として育てていくつもりだという事を二人に話すと、二人とも新しい仲間が増えたと喜んだ。


 ウイングカイトはまだ子供で、檻もそれにあったサイズだった。だからそれ程大きくも無く邪魔にもならず、それを持って歩く事に関しては、ユリリアは苦にしている様子は微塵も無かった。


 そんな事よりも、可愛い相棒ができた事に対する喜びの方が大きいみたいだ。歩きながらも何度も何度も手に持つ檻に目をやる。フフフ。



「やりました、これで私にも使い魔ができました。ルシエルさんとカルビに負けない位、いいコンビになれるように目指して頑張ります」


「よーし、じゃあパートナー結成記念として、オレが魔装具をプレゼントすよ。丁度、ここのバザーにも売っているみたいだしな」



 そう言ってオレは4人と1匹で、再びバザーに並ぶ商品を見て回り、ユリリアが手に入れたウイングカイトに似合う魔装具を探してプレゼントした。


 正確にはオレは、魔装具代を出しただけで、どれが似合うかあーだこーだ言って探して選んだのは、メールとミリーだった。オレは、それでいいと思った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ナジーム・フムッド 種別:ヒューム

ガンロック王国を中心に活動している行商人。アテナ一行がガンロックに始めて入国した時に、その荒れた灼熱の大地に命を失いかけた。その時にナジームが救った。ルキアは、ナジームに今は亡き父親を重ねていた。


〇ウイングカイト 種別:魔物

ノクタームエルドの連なる大山脈に生息する鳶の魔物。虫や木の実だけでなく、兎や栗鼠程度なら襲って餌にする。知能が高く、ビーストテイマーなどにも、使い魔にできる人気の魔物。

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