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第268話 『三人の食べたかった物、それは……』



 ――――流石のオレも、驚愕した。


 メール達仲良し三人娘に連れていかれたお店には、大きな看板が掲げられていた。


 そしてそこには、『ワーム丼』という衝撃的なワードが書かれている。


 ワーム? ワームってあのでっかいミミズみたいなやべー奴じゃないのか? え、それのどんぶりってこと? え? 冗談だろ?


 うっかり見間違いかなと思って、目をコシコシと擦ってもう一度、両目を凝らして看板に書かれた文字を凝視した。すると、どうだ?


 ――やっぱりワーム丼と書かれていた。



「ええええ!! ワームってあのワームか?」


「え? ワームってどのワーム?」


「ワームって言ったらあのワームだよ」


「地中に潜んでいるワーム!?」


『ヘイ! イエーー!』



 オレがビビった感じで質問すると、メール達はそれに合わせてリズミカルに答えてくれた。


 美味しいものを食べられるからか、ノリノリじゃねーか。


 オレも、なんでも食う方だし、好き嫌いは無い方だとは思うけど……


 ワームっていうのは、オレの記憶が正しければ地中に住んでいる魔物で、目が無く大蛇みたいな大きな身体をしている。まさに巨大ミミズ。艶かしい巨大ミミズ。


 そして、更にオレの記憶が正しければ口の中には、放射状にいくつもの歯というか牙があったような気がする。なんとも悍ましい生物。おぞましさと艶かしさと、切なさと。急にそんなフレーズが浮かんできた。


 しかしなぜ、そんなにもオレはワームという魔物に詳しいのか? 


 それと言うのも、昔オレが住んでいたエルフの里近くでワームに遭遇した事があったからだった。


 エルフの里の近くにある洞窟には、珍しい薬草が生えていて、里のエルフ達がこぞってその薬草を採取しに行っていた。


 しかし、ある日その洞窟に行ったエルフが帰らないという事件が起きたのだ。それで里の者達は、魔物の仕業だと恐れた。その洞窟に決して近寄ってはならんと言って、洞窟を封鎖した。


 しかし、その頃からすでに好奇心が爆裂しているオレは、どうしてもその帰らなくなったエルフを捜索するとともにその原因をはっきりと知りたくて、その洞窟に調査に行ったのだ。


 そこで見たのが、ワームだった。その時はまだワームなんて魔物知らなかったんだけどな。


 ワームは、オレと遭遇するなり問答無用で襲い掛かってきた。


 まあワームなんだから、問答無用も何も喋る訳はないんだけど。兎に角、狂ったように襲い掛かってきた。


 オレは、そいつと戦闘になったが、持ち前の戦闘力で退治する事ができた。


 洞窟も調べたが、体半分になって死んでいるエルフの死体があった。帰らないエルフ達は皆、ワームの餌になってしまったのだろうと悟た。


 その後、里に戻りワームを退治した事を里の者に知らせ、このデカいミミズがなんなのかと聞いてみて、オレは初めてワームと言う魔物の名前を知ったという訳だ。結構、グロい系モンスターだった記憶がある。


 つまり、何が言いたいのかと言うと、メール達三人娘は、そのでっかいミミズ丼を食べるというのだろうかという事だった。


 え? だって、こんな可愛らしい女子三人がわざわざノクタームエルドのドワーフ王国まで来て食べるものなのか? ワームってさ。


 ミリーがオレの険しい顔に気づく。



「あれ? ルシエルさん、もしかしてワーム丼あんまり気が進まないですか?」


「え? だって、あれだぞ? ワームって巨大ミミズだぞ? あれを自分の栄養にして身体の一部としていいのか? 躊躇わないか? ほら、見ろ! 例えばミリーの可愛い指先、この一部がワームによって生成されるかもしれないって事だぞ!」



 ミリーが爆笑した。相当、ツボに入っているようだ。まあ、ウケたならいいや。



「アッハッハッハ。ルシエルさんは、そういうの気にしない人だと思っていました。結構、女の子なんですね」


「ち、ちがわーーい! ぜんぜんそんな事ねっし! ワーム丼とか、余裕だっし! 美味ければおかわえりとかすっし!」


「ええーー、本当ですかー?」


「本当だっし!! ぜんぜんいけっしー!!」



 ミリーだけでなくメールとユリリアも爆笑する。おのれー、ちょっと変わったエルフだと思って、からかいよってからにー!



「じゃあ、ルシエルさん! 苦手でなければ一緒に食べてみましょうよ! 有名なんですよ、実はここ!」


「いいぞ! ぜんぜんオレ、ワーム丼なんて平気だし、余裕だっしドンとこいですよ!! ワーム丼だけに、ドンとこいですよー!! ゆーーてな!! あはは……」



 勢いに任せて飛び切りのダジャレを放り込んだつもりだったが、三人はオレのその渾身の一撃に顔を引きつらせた。


 あれ? さっきまで、あんなに笑っていたのに……


 アテナだったらこんな時、全力で突っ込んでくれるんだけどな。そう思った瞬間、ユリリアに背中を押された。



「さあ、ではお店に入りましょう!」


「お、おう」



 なんか意地になってしまう時や、抗いたくなる時がある。これが、噂に聞く反骨精神という奴だろうか。単なるへそ曲がりのような気もするけど――――勢いで、どんな味がするか解らないワームに対して反発してはみたものの、これでオレも未知の体験……ワーム丼を食べる流れに乗ってしまったようだ。


 店の入口まで来ると、結構な人が順番に並んでいた。


 えーー、本当にワーム丼、人気があるんだ。これには驚き。メールが列の最後にささっと移動すると、こちらに手招きする。オレはミリー、ユリリアとその後に続いた。



「最初あの巨大ミミズか! って思っていたけど、こう実際に店の列に並んでいるとちょっと段々楽しみになってくるなー」



 ミリーが苦笑する。


「巨大ミミズって言わないでください。ワーム丼ですよ」


「ミリーの言う通りです。あと、このお店、凄く人気があるんですよ。私達、結構前からワーム丼が美味しいっていう話は噂には聞いて知っていたんですが……それで冒険者になって旅を始めてすぐに、このお店の事を知っていつか三人で行こうねって楽しみにしていたんですよ」


「へえ、そうだったのか。それじゃ、これで夢がかなうな」



 三人は顔を見合わせて笑った。そして、メールが人差し指を自分の唇の前に立てて囁いた。



「実は、もう1店舗行く予定のお店がこのドワーフの王国にはあるんですよ」


「ほう、それはまた興味深いな! じゃあ、ワーム丼を召し取ったら次はそこへ行こうじゃないか!」


「流石、食いしん坊エルフのルシエルさんですね」


「むっ! 食いしん坊エルフって!! それ、アテナからそういう風に聞いたなー!」



 メール達三人は、笑った。そんな他愛のない話をしている合間にも、列はどんどん進んで行く。


 そして、ついに店の中にまで案内されると、店内は食欲を凄まじく掻き立てられるような美味しそうなにおいが充満していた。これが、噂のワーム丼のかおりなのか? だとしたら、もうこのにおいだけで、美味いと断言できるぞ。


 店員のドワーフが声をかけてきた。



「お待たせさーん! お客さん、何人さーん?」


「あ、えーと……」



 答えようとしたら、咄嗟の事だったので慌ててしまった。それに気づいたメールが代わりに答えてくれる。



「四人でーす」


「四人さんねー、じゃあ奥のテーブルにお座りくださんせーー!!」



 案内されたテーブルに座る。隣のテーブルに座っている他の客を見ると、ワーム丼を本当に美味しそうにかき込むように食べていた。


 当初はワームと聞いて、気持ち悪! って思っていたのに――今は、途轍もなくそれを食べるのが楽しみになってきてしまった。


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