第265話 『合成素材 その5』
たまたまマグマンド鉱石を採掘しにやってきた地底で、この国の王子とか公国の伯爵とかいう集団と遭遇してしまった。
私は面倒にならないように身を隠し、こちらにやってこないかドキドキしていた。すると、王子達はこっちでは無く別の方へ歩いて行った。
話している内容を聞いたけど、マグマンド鉱石の採掘エリア59番にいくらしい。私が行きたいのは51番だから、離れていて良かったと思った。
でも、やはりあの連中が気になる。このままこっそりと近づいて、もう少しだけ話を聞きたいという気になった。
だってなんだか、気になるし……これも私の第六感がそう言っている。
私は汗を拭いながら、通路から岩陰、そしてその先の岩陰とできる限り気配を消しつつ、こそこそと集団に近づいていった。
「ギリム戦士長! 先に行って見てこい」
「御意!!」
ガラード王子と呼ばれていた男が見えた。ドワーフだった。
……やっぱりそうだった。やっぱり、目前にいる王子とか殿下って呼ばれている男は、このドワーフ王国の王子で間違いない。
でも私の勝手な印象としては、マントをして偉そうな感じに見える上に、やはり髭を蓄えており王子というよりはどちらかというと王様に見える。どう見てもおじさんだよね。
……って、いや、そんな事はどうだっていいよ。こんな所になぜ、この国の王子がいるのかという方が気になる。
「じゃあ魔物が潜んでいるかもしれんので、ギリム戦士長に先に採掘エリアに入ってもらう。伯爵とご令嬢は、少し待って安全が確認できれば中へ入ればいい」
ギリム戦士長と呼ばれたドワーフは、かなり重装備だった。重量感のあるごっつごつのフルプレートメイルに身を包み、ドワーフの体格も合わさってか鋼鉄の塊がそこにいるかのように見える。
例えるならまるで、アイアンゴーレム。そのアイアンゴーレムは、ズシンズシンと前に進み出る。
「ゆけ!! 戦士長ギリム!! 例え魔物がいたとしても、アイアンゴーレムの異名を持つギリムにとっては、物の数ではないわ」
えええ! 嘘!! 本当にアイアンゴーレムって異名だった!!
見事に予想的中させちゃったって、皆の前に躍り出たい所だけど、それはできない。我慢よ我慢!!
「魔物? それなら別に怖くはありませんわ。別にそこまでお気を使って頂かなくても、わたくしが倒して差し上げますわ」
「そうでございますよ! シャルロッテ様であれば、大抵の魔物なんて足元にも及ばないでございますよ。ウオッホッホッホ」
――!!!!
嘘!! 見覚えがありまくりの貴族令嬢がそこにいた。シャルロッテに加えて、ちょび髭のポール男爵もいるんだけど!! これには流石に声をあげそうになった。でも、我慢! うっかり飛び出してしまわないように気を付けないと!
シャルロッテ達にぴったりとついて、護衛をしていた男が進み出て言った。
「スヴァーリ伯爵、シャルロッテ殿。そしてポール・パーメント男爵。ここは、ギリム戦士長に任せた方がいい。絶対的な安全なんてものは、無い。ここはドワーフ達が作り上げた採掘場だと言っても、凶暴な魔物も生息しているし、溶岩に囲まれている危険な場所だ。ダンジョンであるという事にも、間違いはないのだから一番慣れているものに任せるべきだ」
なんと、キョウシロウだった。
「えっ!! キョ……!!」
「誰だあああ!!」
しまった!! 流石に驚くべき事態が畳みかけてきていたから、ついに声をあげてしまった。慌てて両手で口を押さえたけどもう気づかれちゃったよね……
だけどシャルロッテに続いて、キョウシロウまでいるんだもん。これで、驚くなって言う方が、無理だよ。
「誰かいるのか!! 出てこい!!」
ちらりと見ると、ギリムというごっつごつのドワーフが、何人もの部下を連れてこっちに近づいてくる。
その後ろに見える金棒を持った大男は、この国へ入る前に吊り橋で戦った男――ドルフス・ラングレン男爵。こんな所で、こんなにも知っている顔に出くわすだなんて驚きを隠せない。
「な、なんだ? なんかいるのか? 魔物か?」
「陛下お下がりください!! このギリムより、前には出ないように!!」
スヴァーリ伯爵と呼ばれていた男が、ラングレンに指で指示する。ラングレンは頷いて、金棒を振り上げるとそのままこちらに近づいてきた。ヤバい、見つかっちゃう!!
シャルロッテは兎も角、ポール達とは敵対関係にある訳だし、それに加えてあの伯爵と呼ばれる人や王子までいたんじゃ、もしも見つかったら面倒な事になる。
どうしようと思っていると、ラングレンはまるで私の方に引き寄せられているかのように、どんどんと近づいてきた。
――!! 見つかっちった!!
そして、岩陰に隠れている私と目があった。
「…………」
「…………」
「にゃ、にゃーーん……」
「……こんな溶岩が煮えたぎっている所に猫なんていないぞ。……それにこんな所で、何をしている?」
「え? ちょっとお使いに?」
「お使いだと?」
「デルガルドさんのお使いで、マグマンド鉱石を採りにきたのよ。でも、あなた達と鉢合わせしたから……」
「……デルガルドっていうのは、あの伝説の鍛冶職人デルガルド・ジュエルズか。その使い……なるほど、理解した。……ここで、大人しく隠れていろ」
あれれ? もしかして……
どうやら、ラングレンは私をかばってくれるらしい。それにしても、なんで?
「なんで助けてくれるの?」
「クラインベルトの第二王女だと聞いてはいるが、この際アテナと呼ぶぞ。アテナ、お前はなぜ吊り橋で戦いになった時に、自分の足を痛めてまで俺を助けた? 下手をすればお前の足は、吊り橋のワイヤーに切断されていたかもしれないのだぞ」
なるほど。あの時の借りを返すっていうのね。そう言えば、男爵って言っていた。この人には、貴族としての誇りみたいなものがあるのかもしれない。
私はありったけの感謝のつもりで、猫の手をイメージすると両手を丸めて頭の上に当てた。そして、満面の笑みでラングレンにお礼を言った。
「ありがとニャン! ラングレン!」
キョトンとするラングレンを見て我に返り、顔が真っ赤になった。
そして一瞬、エスカルテの街の友人、ミャオを思い出した。
「ドルフスでいい」
「ドルフス……」
そんなやり取りをしていると、戦士長ギリムの部下とキョウシロウが近づいてきた。
「おい!! 何かいたのか?」
ドワーフの王子も近づいてきた。
「いや、なんだか解らないが猫系の魔物の子供だったようです。向こうに駆けて行きました」
「なに? 本当か?」
ドルフスが指示した方を、ドワーフの王子と兵が見ると、キョウシロウもそっちの方を目で追った。
今のうちにと思って身を乗り出しかけたけど、ドルフスはまだ隠れていろっていうふうな目をして見せた。
「魔物の子供ならもういい!! しかし、なんでこんな所に猫系の魔物が!! いや、もう逃げたんならいい!! ここは暑くてかなわん!! さっさとマグマンド鉱石を確認して、城へ戻ろう。戻ったら、冷たいエールでも飲んで一服しようじゃないか!! ドワーフ王である親父には、内緒だがな! ワーッハッハッハ!! さあ、いこういこう伯爵」
ドルフスと王子の言葉で、警戒は解かれた。そして、王子達全員がエリア59採掘場と書かれた立札の奥へ歩いて行った。
完全に王子達の姿が見えなくなってから、「ドルフス、ありがとう」っと呟き、彼に感謝しつつもこそこそと素早くデルガルドさんから聞いていたエリア51採掘場へと向かった。
しかしここは、なんだか色々な汗が止まらない場所だと思った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄〛
〇ギリム 種別:ドワーフ
ドワーフの王国の、戦士長。ドワーフ兵達のトップ。背丈は小さく一般的なドワーフの大きさだが、どんなドワーフよりも筋肉が物凄い。また前進鋼鉄の鎧兜に身を包み、鉄の塊に見える。アイアンゴーレムとの異名もある。ドワーフ王国の行く先を見据え、ドワーフ王国王子のガラード派に属している。
〇キョウシロウ 種別:ヒューム
クラインベルト王国よりも遥か東方に位置する国からやってきた侍。ロックブレイクでアテナ一行と出会い、一緒にアシッドスライムの群れと戦った。刀という武器を使用し、アテナの得意技である【居合】も使用する。ヴァレスティナ公国のルイ・スヴァーリ伯爵に恩があり、それに報いる為に彼のもとに馳せ参じた。




