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第26話 『馬車の積荷 その1』





 眩いばかりの光の膜がドーム状に私を包んだ。男が私目がけて近距離で放った火球魔法(ファイアボール)は、ノーダメージ。残念でした。



「マ……全方位型魔法防壁(マジックシールド)だと⁉ キサマ、魔法も使えるのか?」



 驚愕する男に私は、えっへっへっと自慢げに笑って見せた。



「それは、こちらのセリフよ。ちょっと強めの賊だと思ってたけど、まさか魔法を使えるだなんてね。こういう時、こう言うんでしょ?」



 私は賊に指を指して言ってやった。



「いっちょまえ!」



 そう言われた賊の額に、みるみるうちに青筋が浮かび上がっていく。



「このクソ女!!」


「クソ女って…………言い方! ふんぬー!」



 私も青筋を浮かび上がらせてしまった。って挑発にのっちゃだめでしょ。



「まあ、いいわ。さて……続ける? このまま続けてもいいけど、馬車の中が気になるし、なんとなくなんだけど、もしかしたら緊急性を要する事態のような気もしているんだけど。――――だからここからは、遠慮なく本気でいくよ」



 そう言うと、男は先程と同じように手を馬車へ翳した。詠唱している。まさか、今度は馬車に火球魔法(ファイアボール)を放つ気⁉ やっぱりあの馬車に、何かヤバイものが積んであるんだ! それで、証拠隠滅というところね!



「おらあ! 馬車を粉々にしてやるぜ!! 今度は全力で放つ!!  防げるもんなら、防いでみな! 《火球魔法(ファイアボール)》!!」


「させないっ!!」



 私は、最速で馬車の前に移動し男が放った火球魔法(ファイアボール)を受け止めて、馬車の盾になった。



「《全方位型魔法防壁(マジックシールド)》!!」



 ――――直撃。爆炎。しかし、防御魔法でしっかり防いだのでやはりダメージはない。私は、魔法はあまり得意ではないけれど、冒険者になる前、王宮で爺にしこたま魔法の修行をさせられている。全方位型魔法防壁(マジックシールド)なんかもう、無詠唱で咄嗟に反応して発動してしまう位だ。勿論、その強度も王国トップレベルの魔法使いの爺直伝である事は言うまでもない。



「さあ、今度はこっちのターンよ。大人しく、観念しなさい」



 決め台詞を言う。だが、火球魔法(ファイアボール)が弾けた後の砂煙が収まり辺りが見えると、男はいなくなっていた。



「え? しまった! 逃げられた!!」



 気づいた時には、遅かった。しかも、さっきまで転がって呻いていた男や息のあったものは、全員首筋にナイフを突き立てられ絶命している。…………口封じか。ここまでするなんて、組織的なものを感じる…………



「はっ! そんな事よりも、馬車の中!!」



 慌てて馬車に駆け寄り中を、調べた。



「うっ!」



 中に入ると、まず悪臭が鼻を突いた。ハンカチを取り出し、口と鼻を覆う。


 見回すと、馬車には子供が7人も押し詰められるように乗っていた。服装は、ボロボロに破けた汚れた服。そして、子供達の身体には無数の鞭や棍棒で殴られたような痣があり、手枷と足枷――それに加え、首枷もされていた。


 臭いの元は、子供たちが糞尿を垂れ流しているが原因だと気づいた。香を焚いて、誤魔化そうとしているがそれも合わさって馬車の中はとんでもない環境になっている。虚ろな目の子供達。横になって全く動かない子供も2人いる。



「大変だ!! あなた達、すぐに助けてあげるから言うとおりにしなさい!!」



 手を強く握る。子供たちは、変わらず虚ろな目。



「この子達をとりあえず、馬車の外…………表に出さないと」



 急いで、5人の子供を馬車の外に連れ出した。そして、横になっている2人も表に出す為に声をかける。



「大丈夫? しっかりしなさい! 今、助けるから――――」



 身体を揺すって声をかける。しかし、その横になっている子供達は2人ともすでに事切れていた。



「ひどいっ!! なんてことなの⁉ まさか、そんな…………」





 ――――死んでいる――――



 

 ――――うそ?




 うああああああああああああああああああーーーー!!!!




 私は、あまりの惨状にその場で崩れ落ち、大声で泣き叫んだ。涙が溢れる。このままにしておけない。泣きながらもその2人の亡骸を、馬車の外へ運び出した。その光景を見て、今まで虚ろな表情だった子供たちは、初めて驚いた表情を見せた。


 運び出した2人の子供を、道の傍らに並べて寝かせ、毛布を被せる。やっと気持ちが落ち着いてきた。



「ひどすぎる……こんなこと……いったいなんのために……こんな事、許されるはずがない…………」




 ………………




――――近くで、川の流れる音がする。


 子供達を川まで連れて行くと、まず水を飲ませた。そしてザックから、干し肉を取り出して子供たちに分け与えた。子供たちは夢中で干し肉を貪った。長い間、水や食べ物も満足に与えられておらず、極限だったのだろう。



「これからまだ、美味しい物を作るからゆっくり食べてね。急いで食べると、お腹がびっくりするから」



 にっこり笑って言うと、子供たちは頷いた。顔色も少し赤みがさしてきたようだ。


 焚火の準備に取り掛かる。その間、子供達を川に入らせた。物凄い悪臭がするからだ。それに小川は底も浅く流される心配もない。その際に足枷なども外した。


 グレイトディアーの肉ブロックをザックから全て取り出した。焚火で、網焼きにする。ブロックを食べやすいようにカットして、網にのせる。網には、一緒に水を入れた鍋ものせる。薬茶を飲ませるのに、湯を沸かすのだ。


 まず、湯が沸騰すると子供たちに薬茶をあたえた。ふうふうしながらも、美味しそうに飲んでいる。



「私が採取して集めた薬草を調合して作った薬茶だから、美味しいし効き目も抜群よ。熱いから、ゆっくり飲んでね」


「うん」



 子供たちが返事をするようになった。だいぶ正気を取り戻して来た証拠。頭を撫でてあげると嬉しそうに耳を寝かせた。――――そう、子供たちは全員獣人だった。賊は、獣人の子供達を奴隷のようにして、馬車で何処かへ運んでいたようだ。



「私達は……」



 一番、背の高い女の子。恐らく、一番年長者だろうと思える女の子が、何があったのか喋ろうとした。しかし、私はそれをあえて遮って答えた。



「うん、あとで何があったのか聞かせて。まずは、傷の手当てとかしないとね。大事な事からだよ」



 そう言っても、子供たちはきょろきょろしている。きっと、さっきの賊……追手がくるかもしれない事を知っていて恐れているのだろう。



「心配しないで。大丈夫だよ。あなた達を拘束していた男達は、全部私がやっつけたんだよ」


「え?」


「うそ……」

 


 ふふふ。驚いている、驚いてる。



「ホントだよ。そうでなければ、とっくにここから逃げてるもん。つまり端的に言うとね、私は凄く強いの! あなた達全員を守れる位にはね。だからもしも追手がやってきても、全員返り討ちにできるから安心して。その代わり、皆私からは絶対離れないでね」


「…………信じられない」



 皆それを聞いて、驚いていた。特に一番後ろにいた猫耳の小さな女の子は目を丸くしている。確かに私のような娘が独りで、あんなガラの悪い男達に勝てるとは普通思えないだろう。でも、ホントだよ。


 やがて、辺りに肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。子供たちは、お腹を鳴らして今にも肉に齧りつきそうな様子で我慢して、待っている。



「《癒しの回復魔法(ヒーリング)》!」



 最後の子に回復魔法をかけ、治療も全て終わった。


 

「はい! これで、全員治療おしまい! さあ、じゃあこれから皆で肉を貪ぼるわよー」



 ワーーっと声が上がり、はしゃいでいる。もう、これだけ元気がでれば大丈夫だろう。


 その辺でとってきた、大きめの丈夫な葉を皆に配る。それが皿替わり。続けて簡単だけど、枝で作った箸も配った。

 


「じゃあ食べましょう。頂きますって言ってからね! 頂きまーーす!」


「い……頂きまーーーーす」

 


 皆、きちんと頂きますと言った。それからは、皆、とりつかれたように物凄い勢いで肉を貪った。近くに食べられる野草も見つけたので、それを使ってスープも作った。味付けに胡椒も使う。子供たちがピリリとして美味しいというので、高級品の香辛料を使っていると説明すると震えていた。フフフフ。


 一番後ろにいたさっきの目を丸くしていた可愛い女の子は、身体が小さく特に痩せていたので、心配になって肉を皿に取ってあげて、スープもよそってあげた。



「あなた、猫の獣人ね。可愛い耳と尻尾。――――名前は?」


「……ルキア」


「ルキア。とても、可愛くて素敵な名前。私の友達にも猫の獣人の女の子がいるんだよ。普段、お金の勘定ばかりしているけど」



 そう言って、くっくっくっと笑った。



「お姉さまのお名前は、何ていいますか?」



 ルキアがそういった途端、他の子たちも食事する手を止め注目した。



「私? あははーー、………そう言えば、言ってなかったっけ? 私の名前はアテナ。こよなくキャンプを愛する冒険者。ほんとは、キャンパーって言いたいけどそれ言うとややこしくなるからね」


「アテナ……」



 皆、私の名前を声に出した。そして、他の子達も名前を教えてくれた。


 クウ、ルン、ミラール、ロン。そしてルキア。死んでしまった2人は、レーニとモロと言う名前。



「皆の事をもっとよく知りたい。食事が終わったら、何があったのか話してくれる? きっと、力になれるから全部話して」




 陽が落ちかけて辺りは、どんどん暗くなってきていた。今日は、ここでキャンプを張って、明日起きてからどうするか考える事にした。

 

 








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。父であるセシル王に王都へ連れ戻されるが、冒険者の活動を許可され再び出立。仲間のルシエルとニガッタ村で合流する為、そこへ向かう。その途中、ただならぬ雰囲気の荷馬車に遭遇。その馬車には獣人の子供達が奴隷にされて乗せられていた。


〇バンパ 種別:ヒューマン

ただならぬ雰囲気を帯びた馬車をアテナが調べようとすると、豹変し襲い掛かって来たゴロツキの仲間。ナイフを二刀流で扱い、中位の黒魔法まで使いこなす事から只者ではない事が伺える。攻撃も急所を狙ってくるという、手練れで、絶対的な自信を持っていたがアテナに勝てないと解ると仲間を始末して口を塞いで逃げ去った。


〇馬車の子供達 種別:獣人

バンパ率いる賊に馬車に押し込められて、奴隷のように鎖で繋がれていた。7人中、レーニとモロという子供は馬車内の酷い環境で既に息絶えていてアテナは助ける事ができなかった。残った5人は、下記参照。

ミラール = 狼の獣人の男の子

ロン   = 犬の獣人の男の子

クウ   = 狐の獣人の女の子

ルキア  = 猫の獣人の女の子

ルン   = 狸の獣人の女の子


〇ミュゼ・ラブリック 種別:ヒューム

アテナの教育係で爺と呼ばれているクラインベルト王国の宮廷大魔導士。クラインベルト王国よりも遥か東、砂漠を越えた地にオズワルト魔導大国という魔法が盛んな国があり、そこでもう一人の大魔法使いと共にオズワルトの双璧と呼ばれていた。アテナとは、血も繋がっていないがお互いに爺と孫のように思っている。


〇グレイトディアー 種別:魔物

鹿の魔物。癖が無く美味しい鹿肉。肉が食べられるものなら、誰にでも好まれる。だけど危険な大きな角を持っているので、狩猟には注意が必要。


〇干し肉

グレイトディアーやビッグボア等の肉を干し肉にしている場合が一般的。塩と水と時間があれば簡単に作れ、携帯保存食としても優れているので旅人にも人気。街や村でも売っていて、酒場でも酒のつまみとして好かれている。


〇薬茶

ネバーランの森やギゼーフォの森など、クラインベルト王国にある薬草採取に適した場所でアテナが一生懸命に薬草を採取して、ブレンドしたお茶。美味しいだけでなく、身体を内側から温め傷を癒す。アテナはこのお茶をいつも多めに作ると、エスカルテの街で店を経営している友人ミャオのもとへ運んでは路銀稼ぎに売っている。


全方位型魔法防壁(マジックシールド) 種別:防御系魔法

強力な防御系上位魔法。自分の周囲にドーム状(実は球体)の光の幕を張り、物理攻撃や炎や冷気などの攻撃も防ぐ。とても強固な防御魔法で、なんとアテナはこの魔法を瞬時に発動できる。アテナは魔法は得意ではないらしいが、王宮にいた頃に教育係の爺にスパルタで教えられて扱えるようになった。


火球魔法ファイアボール

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。


癒しの回復魔法(ヒーリング) 種別:神聖系魔法

黒魔法とは異なり、怪我など癒すことができる魔法。クレリックやプリースト、シスターなどの聖職者が一般的には使用できる。





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