第259話 『強暴なおつまみ その1』
ドワーフの王国の西、少し行った所にデルガルドさんの求める、おつまみがいるらしい。
あるじゃなくて、いる……っていうのが、色々と良からぬものなど連想させるけど……でもデルガルドさんに剣を作ってもらう為には仕方の無い事だと思った。
ジボールの話では、デルガルドさんはその巨人のような大きな身体もドワーフの王国で一番だそうだけど鍛冶職人としても、最も優れているらしい。そんな人に武器を作ってもらうのだから、お酒の調達もそうだけど多少の事は覚悟しないとね。
「……着いた。この先で、いいつまみが獲れる」
「い、いいつまみが獲れるって……そんな言葉ある? 初めて聞いたんだけど」
ドワーフの王国は巨大な大空洞にあって、南側は大きくて深い崖がある。
最初私達は、その崖に架かる吊り橋を渡って王国に入った。ここは、丁度その辺りから西側に位置する。
そしてその周辺には、またいくつもの大小様々な洞窟があり、その一つの前で立ち止まった。
……こ、この奥におつまみがいる!! 私はごくりと唾を呑み込む。
これから、ここに入るんだけど、その前にデルガルドさんが言うおつまみが、なんなのか聞いておかないと不安でしょうがない。なんだかんだずっとついてきてくれているジボールも知らないようだしね。
デルガルドさんに質問しようとした所で、逆に唸るような野太い声で質問された。上から見下ろされている為、ただの会話をしているだけなのに圧が凄まじい。
「ところで、アテナ。お前は、それでつまみを狩りに行くというのか?」
「え? これ? そうだよ、だめ?」
「お前がいいならいいが……」
デルガルドさんは、荷運び蜘蛛のモークの事を言っていた。
そう、デルガルドさんの家を出てこの場所へ向かっている時に、街の中でジボールの言っていた荷運び蜘蛛のレンタル屋さんを見つけたのだ。
私はチャンスとばかりに、そこで1匹の荷運び蜘蛛を借りて騎乗した。名前はモーク。だから今私は、そのモークの背に乗って移動をしている。
ガサガサガサガサ……
隣を歩くジボールが、怪訝な顔をする。
「ワシらドワーフには馴染みのある魔物やけど、ヒュームにはこの蜘蛛は気持ち悪いんとちゃうんか? しかもノクタームエルドも初めてくるお嬢さんなんか、皆ビビって寄り付かんはずやのに!! ホンマ、けったいなお嬢さんやで!! アテナは!!」
「ええーー、だって可愛いよ。モークはちゃんと私の言う事も聞いてくれるしね。ねーー、モーク」
そう言って、モークの背を優しく撫でた。モッサモッサしている。
「それで、さっき狩りって言ってたけど、今更だけどそのおつまみって生き物なんでしょ? いったいそれ、なんなの? 先に聞いておきたいんだけれど」
デルガルドは私をずんっと見下ろして、言った。
「ワームだ、ワームを酒のあてにするんだよ。さあ、行こう」
ワーム!? ワームってあの、地中を移動するミミズみたいな魔物!?
地中を自在に移動し、大蛇並みの大きさがある身体って聞いた事がある。っていうか、ルキアにプレゼントした色々な魔物を記した本にも乗っていた。
「ほら、ついてこい」
デルガルドさんはそう言って、目の前にあるワームが生息しているという洞窟をどんどんと奥へ進んで行った。私はジボールと顔を見合わせて、慌ててその後ろについて行く。
「こんな事になってしまって、本当にごめんね、ジボール」
「好きでやっとるねん!! だから、謝んなや!! 謝る位なら礼を言えや!!」
「あはは。ありがとう、ジボール」
にこりと笑いかけると、ジボールは照れ臭そうに向こうを向いた。ドワーフって、変わり者ばかりだけど、皆いい人ばかりだなと思った。
洞窟内――ずんずんと先に歩いていくデルガルドさんを先頭に、モークに騎乗した私とジボールが続く。
途中、岐路に差し掛かった所で、ゴブリンの集団に出くわした。
私はモークの背から飛び降りると、剣を抜いてジボールと一緒にデルガルドさんの横へ移動しようとした。
しかし、ゴブリン達はデルガルドの巨躯を見上げると、怯えて動けなくなっていた。そして、デルガルドさんが睨みつけると、悲鳴をあげ武器を放り出して逃げ去ってしまった。
うーーん。これは便利で良い。デルガルドさんがいるだけで、魔物との戦闘が避けられる。まあ、ある程度の知能がある魔物にしか効果は無いかもしれないけど。それでも、凄い。
「さあ、ついてこい。もう着くぞ」
重くのしかかるようなデルガルドの声。
「はーーい。今、ついて行きまーーす」
「くっそ!! デルガルドめ!! 一歩がデカイねん!! デカすぎやっちゅーねん!! ついてくんがしんどいわ!!」
私達は返事をしてデルガルドさんの言葉に従って、後をピッタリとついていくとちょっと拓けた場所に出た。壁や地面が岩では無く土だ。如何にもここに生息していそう。
「デルガルドさん。そのおつまみになるワームがいる場所ってここなの?」
「ああ、そうだ。ここはワームの住処かだ。ワームは恐ろしく貪欲で、凶暴。人を丸のみにする大ミミズだ。だが、ミミズは土を喰らうがワームは肉食だ。お嬢さんなんて、丸ごと一呑みにされちまうだろう。だから、今来た道を少し戻ってそこで隠れて待っていろ」
「でもデルガルドさんは、戦うんでしょ?」
「そりゃあそうだ。儂は、そのワームを狩りに来たんだからよ」
デルガルドさんは、杖がわりにしていた柱のような大きな金棒を洞窟の壁に立て掛けると、腰に差していた私の身体よりも遥かに巨大な鉈を抜いて構えた。
「ほら。さっさと行け。ここにいると、喰われるぞ」
「で……でも、私……」
「おい、こら!! アテナ、こっちこいや!! 危ないって!! 向こうに行ってよーや!!」
ジボールが私の手を掴んで引っ張った。
デルガルドさんは大きいし強そうだけど……
デルガルドさんに一人で任せても大丈夫だろうかという思いと、ワームを見た事がなかったので、ちょっと見てみたいという気持ちが交わってぐるぐるしていた。
だけど、ジボールが何かを察して私の手を引いてくれたのでそれに従った。
デルガルドさんの方を一度振り返ると、元来た道に少し戻って様子を見る事にした。しかしその時、私達の足元の更に下――地面の中を大きく長いものがズズズズズっと這って動いている何かを感じた。
ワームが今、私達の歩いているその下で蠢いている。
私は、ジボールと顔を合わせるとデルガルドさんへここにワームがいると視線で伝えた。
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〚下記備考欄〛
〇モーク 種別:魔物
アテナが気に入った荷運び蜘蛛に名前を付けた。大人しく、優しい蜘蛛さん。アテナは、モークと名付けたが決してクモという名前にかけてつけた訳ではない。……っとアテナは言っているが真相は不明。ふと名前が頭に浮かんだらしいよ。
〇ゴブリン 種別:魔物
人間の子供位の背丈の小鬼の魔物。人間のように剣や棍棒などの武器を持ち、冒険者を襲う。
〇ワーム 種別:魔物
巨大ミミズの魔物と言われているが、ヒルのようにも見える。目はなく地中を移動する。そして、獲物を見つけると大きな口をあけて喰らいつく。歯は口の中に放射線状に生えていて恐ろしい。しかし、巨大なドワーフのデルガルドにしてみれば最良のおつまみみたいだ。




