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第257話 『酒樽配送方法』




 美味しいお酒であり、尚且つ巨人のような巨体のデルガルドさんを満足させる程のお酒を何処で手に入れるか。その入手法に頭を悩ませているとジボールが私の肩を叩いた。


 ジボールの普段の粗々しい喋り方から、思いきり叩かれたと思ったけれど、その叩き方はポンっといった感じで非常に優しかった。



「アテナ!! 酒屋やったらこの王国になんぼでもあるわ!! やが、デルガドはよう飲むからな!! 酒買うてやるなら、何度もここと店を往復するはめになるで!! めんどくさい!!」


「デルガドさんは、あの大きな身体に比例してよく飲みそうだけど」


「そりゃ飲むがな!! あの巨体やから大量に飲みよるで!! そないなったらクソめんどくさいし、ワシとアテナの二人やと運ぶだけでもとんでもない時間かかるで!! めんどくさ!!」



 ジボールが意外な事を言ったので、聞き返した。ワシとアテナの二人? それって……



「え? ジボール……もしかして、手伝ってくれようとしているの?」


「あん? そんなんしゃーないやろが!! ここまでくりゃ、もう乗りかかった船やろが!! めんどくさいけどな!!」



 顔を赤くしながら言って、そっぽを向くジボール。私はにこりと笑ってジボールの肩をポンと叩き返した。



「ありがとう、ジボール」


「ぐっ!! じゃかましい!! あー、めんどくさ!! 息をするのもめんどくさいわ!!」



 ルシエル相手なら、思わずペシリと突っ込む何処かで聞いたようなセリフ。


 私がにこりと笑うと、ジボールの顔は更に真っ赤になった。そのせいで、顎髭につけたブルーのリボンが余計に際立って見えた。



「それで、どうすんじゃ!! 行くんか? 酒を買いに行くんか? ええ?」


「じゃあ、お手数をおかけして申し訳ないんだけど、ここから一番近い酒屋さんへ案内してもらえるかな? そうそう、それと小さいお店じゃなくて大型店がいいわね。そうすれば、きっとすぐにデルガルドさんにお酒を届ける事ができるかもね」


「なんやて!? すぐに酒を届ける事ができるやて!?」



 私はジボールの案内で、デルガルドさんの家から一番近い大型店の酒屋へ行ってみた。


 酒屋もやっぱり、石造り。


 看板は、鉄板でできていて細工は全て、ドワーフの職人による見事な職人技術で作られている。そういう知識の浅い私でも、それが優れたものであると解る程の出来前だった。


 早速店に入ると、店員を呼んでお酒を大樽で10樽分購入した。


 量も量なので、結構な金額になってしまったけれど、そこは大量購入って事でいつかのニガッタ村でライスを購入した時のように、得意の交渉術でまあまあ負けてもらった。


 そして、もう一つ――店員のドワーフ店長に言った。



「大樽10樽も購入したから、これを指定の場所まで運んでもらいたいんだけど。私達だけじゃ、これ持ち運べないし……もちろん、いいよね」


「そうだな。沢山買ってもらったし、遠くへは駄目だがこの王国内か周辺までなら、運んでやってもいいぜ。丁度、何人か手が空いている者もいるしな」



 やった!! 大口のお客さんだから、やっぱりある程度の融通が利く。



「鍛冶屋のデルガルドさんの、うちまでなんだけど」


「ほう、デルガルドさんの所か。あんたら、デルガルドさんの客だったのか。なるほど。それなら、楽勝だ。これで、交渉成立だな」



 でも、ちょっと心配になった。


 大樽は私なんかの腕力じゃ、とても一人で持ち上げる事のできない程のものだったのだ。


 いくらドワーフが力持ちでも、こんな大きな酒樽を10樽も数人で運べるのだろうか。


 もしも運べるとしても、かなりの時間がかかる。


 夜には、ルシエル達と宿で合流する事になっているし、剣はそりゃ一日で作れるもんじゃないけど、今日中にデルガルドさんに仕事を受けてもらうって所までは話を進めておきたい。


 ドワーフ店長が、従業員たちを呼び出して購入した大樽を外へ運び出し始めた。1樽に4、5人掛かりでちょっとずつ運ぶ。与太ついている者もいるので、心配は更に加速した。


 ドワーフは背丈が低いので、それで大きな樽を持ち上げて、安定させて歩く事ができないのかもしれないけど……。


 それにこの店から、デルガルドさんの家までは30分以上はかかる……本当に運び終える事ができるのだろうか。


 やはり、不安になってドワーフ店長に聞いてみた。


 すると、ドワーフ店長は大笑いし、店の外に出て確かめてみろと指さした。ジボールは、もう表に出ていて私とドワーフ店長の会話を聞いていたのか手招きしている。



「お客さん、冒険者だろ? だったら折角ドワーフの王国までやってきたんだから、どうやって酒樽を運ぶのか自分の目で見てみればいい。それも、ちょっとした冒険だぜ」


「考えられるとすれば、荷車だけどそれなら馬か何かに引かせるでしょ? この王国はかなり大きいからぜんぜん、全て見たってわけじゃないけれど、少なくとも私は入国してから馬や牛を1頭も見ていない」


「だから、店の外に出てみなって」



 そう、普通に考えれば荷車で運ぶっていうのが順当。


 なら、何がその荷車を引くかって事だわ。まさか、ドワーフが何人かで、えっちらおっちら引いていくなんて事はないだろうし。あれこれと考えてしまう。



「早くこいや、アテナ!! 出てきて見てみろや!!」

 


 ジボールが手招きしながら、更に急かしてきた。私は返事して、いざ店の外に出てみた。


 すると、そこには荷車が2台あり、それぞれに私が購入した酒樽が積み込まれていた。


 視線を荷車から、その先頭の方へ移す。すると、そこにはやはり荷車を引く為の見たこともない生物がいた。荷車一台につき2匹。つまり系2匹もいる。


 ここでの要点は2頭ではなく、2匹という事。



「どや!! アテナ!! こんな生き物初めてみるやろ!! っな!!」


「う、うん……でも、これって……」



 私がその生き物を目にすると、店内からドワーフ店長も顔を出し、酒樽を運んでいた従業員達も手を止めて「くくく」と一斉に笑いを堪えながら、私に注目した。


 荷車を引く生き物――それは、魔物だった。


 頭と胴体があり、その胴には8本の足がある節足動物。もっさりとした体毛に黒と白の縞々模様、牛程の大きさをしたその生き物は、大きな蜘蛛だった。


 …………辺りを見ると、ドワーフ店長や従業員達、それにジボールまでもがちょっとニヤニヤしている。


 なるほどねー、皆、私がこの大きな蜘蛛を見て飛び上がって悲鳴をあげるか、もしくは白目をむいて気絶するかとか思っているのね。


 ドワーフという種族は、男性は皆いい歳のおじさんに見えるけれど、その内面は意外と悪戯好きな少年なのかもしれないと思って面白くなって私の方が笑ってしまった。


 だけど、残念。


 驚きはしたけど、私は別に蜘蛛は平気だった。しかも荷物を運んでくれるような利口な蜘蛛なら、尚更だった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇荷運び蜘蛛 種別:魔物

正式名称は、ソイルスパイダー。毛がモッサモサの大きな蜘蛛。蜘蛛の魔物と言えば、凶悪なイメージが強いがこの種は、やっさしくて力持ち。気性も大人しいので、ドワーフの王国では荷運びなどに利用されている。あくまでも荷運びに利用している為、騎乗しようとするドワーフはいない。


〇息をするのもめんどくさい

何処かで聞いた事があるような言葉。

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