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第255話 『ブルーリボン』




 長い顎髭にブルーのリボンをしているドワーフは、私から目を逸らすと吐き捨てるように言った。



「それで! それで、何処にいこーとしとんねん、おどれは!!」



 おどれって……でも……あれ? あんなに悪態をついていたのに、どうしてこんな事を聞くんだろ? もしかして、親切にしてくれようとしている?



「とりあえず、何処かいい工房が見つかったら、そこでオーダーメイドで剣を作ってもらおうかなって思って」


「はーん! おどれ……剣士か?」


「うん。こう見えて、剣士です」



 ドワーフは、横目でちらりと私の帯刀している二振りの『ツインブレイド』を見た。



「それ、おどれのそれ!!」


「え? これ?」



 ツインブレイドに目を落とす。



「そんなんあったら、なんもいらんやろーが!! ごっつい剣やど、それ!! 何を欲かいて新しい剣、作ろうとしてんだ、おめえ!!」



 相変わらずの、攻撃的な喋り方。最初は、びっくりしたけど、不思議な事に少し慣れてきたようにも感じた。


 しかしドワーフという種族は、酒付きで頭に血が上りやすく気が荒っぽいって聞いた事があるけど、ロッキーズポイントで見たドワーフはいたって普通な感じだった。


 ロックブレイクで話しかけたドワーフも、なんだかほんわかして優しい感じだったし、冒険者を生業にしているギブンさんだって特に気が短い感じには見えなかった。


 って言う事は、この青いリボンのおじさんがたまたまこういうキャラだったという事になる。



「今欲しいと思っている剣は、私が使う剣じゃないよ。でも、途中で欲しくなったら自分の分も作ってもらおうかなっていうのは、考えているけど」


「自分のじゃないなら誰かにやるんか? 剣を作ってやって誰かにやんのか!! コラ!!」


「うん、プレゼントだね」



 ドワーフは少し考える仕草をすると、私の顔を睨みつけて言った。



「しゃーない!! じゃあワシがええ店を紹介したるわ!!」


「え? いいお店に連れて行ってくれるの?」


「うるせー!! 忙しいけど、こないなってもーたらしゃあないやろ!! これもそれもお前のせいじゃ!! ワシに案内される気があるなら、ついてこいや!!」



 ドワーフは怒りながらも頷くという器用な芸当を見せてくれると、手招きして職人街の奥へと私を誘導した。


 すると、いい匂いがした。この匂いは……


 匂いの漂ってくる先を見ると、お茶屋さんがあった。職人街のお茶屋さん。


 そこでは如何にも職人のドワーフ達がゆったりと団子を食べて、お茶をすすり休憩している。うう、私も食べたい。



「ちょ、ちょっと!! ちょっと待ってくれる?」


「あん? なんやねんな!!」



 ドワーフが振り向くと、私はお茶屋を指さした。



「ここで、ちょっとお茶していきたいんだけどいい? もちろん、あなたの分もご馳走するよ」


「なんやと、コラ!! えらそーに、言いくさってからに!!」



 すぐにでも突っかかってきそうなドワーフの背中に手を回すと、後ろから優しく押して一緒に店内へ入った。


 そして店員さんを呼んで、お茶と串団子を二人分注文した。


 うわーー、お団子なんてすごい楽しみ。こんな所、ルシエルに見られなくて良かった。もし見られたら、普段食いしん坊食いしん坊って言ってるからきっと、大騒ぎするに違いない。


 串団子は一人前、お皿に5本も載ってやってきた。食欲をそそる焦げがあり、表面を焼いている事が解る。


 もしかして、ほんのり香ばしい匂いが漂ってきたのは、お茶とこのお団子を焼く匂いだったのかもしれない。



「…………」


「遠慮しないで食べてね、えっと……」


「ジボール。ワシの名前はジボールや!! ジボールでええ!!」


「じゃあ、ジボールって呼ばせてね、ジボール」



 そう言うとジボールは、プイっと向こうを向いた。そして、少しするとこちらを向いて、お茶を飲んで団子を食べ始めた。



「ところでジボールがこれから紹介してくれる所って、鍛冶屋なんでしょ? 有名な職人がいる所?」



 ジボールは、ニヤリと笑った。


 会って間もないから、こんな事を言うのは昔からの知り合いみたいでおかしいのかもしれないけれど、ジボールはずっと怒っている感じだから、笑ったのがなんだか新鮮に感じた。



「デルガルドというドワーフ鍛冶師の店に連れてったるわ!! デルガルドの鍛冶屋としての腕は、間違いあらへん!! ドワーフ王国一の鍛冶職人や!!」


「そんな凄い鍛冶屋に合わせてくれるんだ。嬉しい」


「かなり偏屈な変わり者のジジイやけどな、腕は確かやで!!」



 変わり者? へんくつ?



「おい!!」


「へ?」


「今、お前……ワシの事を、変わり者やとか偏屈やと思ったやろーが!!」


「あははは、思ってません! 思ってませんって。変わり者だとは、思ったけどね」


「なんやと、コラアア!! このアマ!!」



 ジボールの前のお皿を見ると、団子は全部食べていてお茶も飲み終わっているようだった。


 なんだかまた怒り出したジボールの髭を見ると、団子のタレがついていたのでハンカチを取り出して、拭いてあげる。その行為にジボールは、顔を真っ赤にさせて慌てた様子で言った。



「なんや!! 何をするんやあああ!! 反撃してきたな、おどれ!! 反撃してきたやんけ!!」


「ひーーげ!」


「ひーーげ?」


「ジボールのその素敵なお髭に、お団子のタレがついていたの。だから拭いてあげたのよ。じゃあ、そろそろ行きましょうか?」


「お、おどれ……」


「おどれでなく、アテナと呼んでくれると嬉しいな。ジボール」



 ジボールの目をしっかりと見つめて、にっこり笑って言った。すると、ジボールはまた顔を背けた。


 でも顔を背けたまま、小声で私の名前を呟くと、その凄い職人技術を持つデルガルドという鍛冶職人のもとへ案内してくれた。


 職人街を更に奥に歩いていくと、だんだん家が少なくなってくる。人も……



「そろそろかな? そのデルガルドさんって人の工房?」


「そうや!! もう着く!! ほら、あれや!!」



 ジボールの指した先に、大きな石造りの家があった。その横にはいかにもという形状をした工房がある。


 井戸もあるし、デルガルドという職人はここで仕事と生活をしているのだろうという事は推測できた。


 私はジボールと一緒に、そのデルガルドという鍛冶職人の家の扉の前に立った。


 すると、その家の扉がなんと城門のような大きさである事に気づいた。家も大きすぎる……


 え? 巨大? もしかして、巨人が住んでいるの?


 兎に角、私はこういう時に高い確率で当たりを引いてしまう。色々な意味で。



 




――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ギブン 種別:ドワーフ

ノクタームエルドを中心に活動している冒険者。ミューリやファムとも仲が良く、ノエルも加えて一緒にパーティーを組んでいた事もあった。今でも、ちょくちょく一緒に冒険者の仕事をする事もあるらしい。アテナ一行がロックブレイクに寄った時に、ミューリとファムの依頼を受けてキノコ採取に出かけた。その時にマイコニッドの毒にやられていたギブンを見つけ助けた。見た目は、白い髭の典型的なドワーフって感じだが、筋肉は凄い。


〇ジボール 種別:ドワーフ

長い髭に青いリボンをしているドワーフ。自分の髪と瞳の色と一緒だからというだけの理由で、アテナが話しかけたドワーフ。気性が激しく、口も悪い。常に喧嘩ごしで、気が短いと言うとんでもないドワーフ。しかし徐々に……え?

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