第254話 『いざ、噂の職人街へ』
――――ドワーフの王国。
ノクタームエルドの北西に位置する。その場所に巨大な空洞があり、石壁と崖に囲まれた街があった。そしてその中央にはドワーフ王のいる城が聳え立っていた。
城は、私のいたクラインベルト王国や、ミシェルに案内されていったガンロック王国の城とは、かけ離れたデザインをしていた。
一事で言うと、巨大な岩山。
巨大空洞の中央に聳え立っている岩山に、門や窓、外にはバルコニーまでもがついている。それこそが、このドワーフ王国の城だった。
ドワーフ王国の城から更に北へ、街中を歩いて行くと、ミューリの言っていたベップさんというドワーフが営む宿があるらしい。
そこは一応、このドワーフの王国の街のエリア内という事にはなっているけど、凄く辺鄙な場所になると言っていた。
夜になったら皆そこへ集合して宿に泊まる予定。それまでは、皆それぞれ別行動をして楽しむ事となった。
するとドワーフ王に会わないといけないらしいミューリとファムは、「ちょっと行ってくる」と言って、さっさと城の方へ行ってしまった。
さあ、私もこれからちょっとこの国を冒険しよう。
夜までなので、小さな冒険ではあるだろうけどちょっとワクワクする。
そんな訳で私は、ルシエル、それにルキアとカルビとも一旦分かれて、久々に一人になって街を歩いていた。
周囲を見回すと大勢の街を行きかう人達に、道に立ち並ぶ色々なお店が目に入る。早速、あちらこちらのお店で商品を物色して回った。すると綺麗なものや不思議なもの、珍しい色々なものがお店には溢れていた。
そして色々なお店を見ながらも、ドワーフの王国に来たら一度行ってみたかった職人街へと足を踏み入れてみた。
職人街という場所は、クラインベルトの王都にもある。例えば鍵屋さんだったり、鎧や兜、靴の修理屋や、自分のイメージ通りの武器を特注できるお店、工房などが並ぶエリア。
しかし、この王国の職人街は、私の知るものとはぜんぜん違っていた。
まず、このエリアにいる職人さんのほとんどがドワーフだという事。そして、そのほとんどが鍛冶屋だという事。
武器や防具などをメインで作っているが、よく見るとさっき皆で食べたお好み焼きを焼くような鉄板や、鍋、フライパンなどそう言った道具も作っていた。
そして、ここには面白いルールがあるのだとファムには事前に聞かされていた。。
基本的に、ここにある職人街の工房では作って並んでいる商品を購入する事ができないのだ。
ここで仕事をしている人達は、卸売業であって街にあるお店の方へ商品を流している。だからもしここで、商品を購入できるのであれば、もちろん店で買うよりも作っている工房で買った方が安くなってしまう。そうすると、皆こっちの安い方で商品を購入する事になり、街にあるお店が商売するのに立ち行かなくなってしまうのだ。
なので、それに関する【契約】があって、職人街で職人から直接商品を購入できない事になっているのだ。
でも、例外があって、この国の王様――王族やその関係者は、直接売買をすることができる。あと、私達でも直接できる事があって、職人に物を売る事とオーダーメイドで何か作ってもらう事は合法となっている。
オーダーメイドなら、量産をもとに商売をしていないし、掛かるコストも高額になるのでOKという事らしい。だから、ちょっと何か新しい剣でも、作ってもらおうかなって思ってやってきたんだけれど――――
辺りを見回すと、もう沢山の工房が次から次へと目に飛び込んでくるし、ドワーフ達だらけで何処からどういう風に見て行けばいいのか解らない。うーーん、どうしようか。
「あっ! あの人がいいかも」
道行くドワーフ達の中に、長い顎髭に可愛いブルーのリボンをしたドワーフを見つけた。あの人なら、優しそう。だって、髭にあんなにも可愛らしいリボンをしているのだから。
私はそのドワーフを見失わないように、素早く移動して近づいた。そして声をかけてみる。
「すいません、ちょっといいですか?」
「あん? なんじゃワレ!!」
え? めっちゃ怖い人だったんだけどー!!
いや、でも別に私は悪い事なんて何もしていないしね。
大丈夫、声をかけただけ。もしも、このドワーフのおじさんが先を急いでいて、それを私が声をかける事によって引き留めてしまっているのだとすれば、それは非常に申し訳ない事だけど。
「いきなり声をかけてしまって、ごめんなさい。私、アテナっていいます。旅の冒険者です」
「あん? なんやワレ! そのアテナが、このワシになんの用があるんじゃ!!」
怖い怖い!! このおじさん、ドワーフだからまあ小さくて当たり前なんだけど、それに反して凄い迫力。でも、私だって結構物怖じしない性格だって言われ続けているからね。この位じゃ、引き下がらない。そりゃ、断られれば諦めるけど。
「私、クラインベルト王国からガンロック経由で、初めてノクタームエルドにやってきたんですけど、このドワーフの王国に初めてやって来たから何が何処にあるっていまいち解らなくて。この職人街にもなんとか、これたって感じなんです」
「あん? だからなんなんや! もう、来とるやん!! じゃあ、もうええやん!! それが、ワシとお前になんの関係があるんじゃ、コラ!!」
「いや……だからね、私よくここの事も知らないし、この職人街に来ることも楽しみにしていたんだけど、よく解らないから、誰かここの事を教えてくれないかなーって」
「あああん!? それで、ワシに声かけたんか、ボケ!!」
「ボ、ボケって……なんて、口の悪い……」
「それじゃなんでワシがお前にわざわざ色々と教えてやらなアカンのじゃ!! 勝手にせーや!! 他にもたくさん、おるやろ? なんでワシに声かけた? こいつなら、マヌケそうやしなんでもしてくれるわーみたいに思ったんか!!」
「い、いえ、そんな……」
「ほれみろ!! ムカつくわー、この女!!」
とんでもないドワーフに話しかけてしまった。そう思った。でも、話しかけたのは、私からだし……うーーん、困った。
「違いますよ!! 本当に他意はないんです! ただ……」
「ただ……なんや?」
「ただ、あなたのそのお髭のリボンが可愛いなと思って、それでこんな素敵なリボンしている人なら、きっといい人だろうなって?」
「はあ? リボンやと? それで、どーや? ワシはええ人思うか? ああ?」
「うん。思いますよー。それに私の髪の色、ブルーでしょ? あなたのリボンと同じ色ですね。だから、ほら……親切にしてください」
「…………」
あれ? ドワーフは、急に押し黙ってしまった。
ただちょっと、辺りにいる優しそうな人を捕まえて、この辺りの事やおすすめの鍛冶屋を聞いたりしようと思っただけだった。そしたら、いきなり色々な意味で当たりを引き当ててしまったようだ。
こういう時の私の引きって、奇跡的に面白い方を引き当ててしまう。うう……
でも、世界には色々なものが溢れている。それは、人も同じだと思った。
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〚下記備考欄〛
〇ドワーフ王国の職人街 種別:ロケーション
ヨルメニア大陸でも、有名な場所。一流の腕を持つドワーフの鍛冶職人達が集まっている。ノクタームエルドは、価値のある鉱物資源も豊富で、一般的な物から貴重な物までこの場所に送られ今日も武器や防具などが作られている。修理の腕も一流。




