表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/1340

第25話 『分かれ道の馬車』





 ――――ありがとう、ローザ。



 ローザは、私の無事を確認後、また王都に戻らなくてはならなかった。だけど、できるかぎりギリギリまで見送ってくれた。心配かけてごめんね、ローザ。


 見送ってくれた事は、物凄く嬉しかった。


 でも……これでローザとは、暫くまた一緒にパーティーを組んで、冒険やキャンプなんかができないだろうし。そう考えると、寂しくてしかたがない。


 …………またすぐに一緒に冒険できればなあ。


 ………………


 だけど、国王直轄の騎士団になるなんて、凄いよ。大出世だよ。


 ローザが、一緒にいてくれて私を守ってくれた事や、色々力になってくれた事は、ちゃんとお父様に話した。だからきっと、それを考慮してくれての、お父様の計らいなのだろうけど。でも、ちゃんと実力が伴わなければこんな出世は、ありえないだろうし。


 勝手に任務を放り出して、ついてきちゃった事も、咎められるんじゃって心配していたけど、私を見つけて護衛してくれていたって事で落ち着いたし。まあ、それは事実だし。ローザにとって、全ていい方向に向かって良かった。


 まあでも、ローザは本当に優秀な騎士だから、ほうっておいても出世はしていくんだろうけどね。それでも、親友が出世した事は素直に嬉しい。


 そう言えば、気になってローザに聞いたけど、ローザの新しい騎士団名『青い薔薇の騎士団』。その名前の由来は、私の青い髪色とローザの名前からお父様が名付けたそうだ。ローザという名前の由来は薔薇。薔薇と言えば、変わらぬ愛や変わらぬ友情と言った意味があるらしい。まさに気高いローザには、相応しい名前だと思う。


 そのうち、またローザと一緒に冒険したりキャンプしたりするのが、楽しみだよ。






 ――――街道。ルシエルとの合流場所、ニガッタ村。そこへ向かってはいるが順調にいけば明日には付きそうだ。待ち合わせより1日早く、到着予定だ。


 …………フフフ。


 確かニガッタ村は、美味いライスの産地として知られていると以前、本で読んだ事がある。普段、旅ではパンを食べる事が多いけど、実はライスも大好きなんだよね。そして、とびきり美味しいライスを手に入れたらいくつかやりたいことがあるのだ。フフン。



「楽しみだなあ、ニガッタ村。1日早く到着したら、入手するライスなどを色々と見て回ろう」



 ニヤリと笑う。


 街道――――進んでいると、岐路に出た。右の道へ進むとニガッタ村方面のはず。なので、そちらへ進む。すると道の脇に1台の荷馬車が止まっていた。五十代位の男が頭を抱えている。立往生していると言った感じかな。



「あれ? どうかしたのですか?」



 声をかけると、男は一瞬ビクッとして驚いた。だが、すぐに気を取り直して言った。



「や……やあ。見た通り、ちょっと車輪が地面の窪みにハマってしまってね。でも大丈夫だ。馬に力いっぱい引かせながら、後ろから目一杯押せば、抜け出せるだろう」



 馬車の車輪を見ると、確かに後輪が地面の窪みにハマっている。それによくよく見るとかなり大きな馬車。よほどの積荷を運んでいるようだ。そして、先頭には4頭の馬。綺麗にというか――――見事にスッポリと車輪が窪みにハマって動けなくなっているが、確かに馬4頭に全力で引かせ後ろから押せばいけるかもしれない。



「わかりました。私も手伝います。一緒に後ろから押しましょう。っせーのっせって」



 困っている人がいたら、助ける事は当たり前。そう笑って答えると、不思議な事に困っている男は更に困ったような表情を見せた。



「いいよ、いいよ! ありがとう。君みたいな女の子に手伝ってもらっても、もし怪我でもさせたら責任持てないし…………それに、もう少ししたら相棒が仲間を呼んでくるから、そうすれば馬車を押し出せる。だから、大丈夫。気持ちだけ頂いておくよ」


「え? だって押すだけですよ? 仲間が戻ってくるんでしたら、それはそれでいいですが折角なんで試してみましょうよ。私こう見えて、見た目より力あるんですよ」



 力こぶを作るポーズをとって見せたが、スルーされた。むう。


 遠慮する気持ちも解るけど、私だってまあまあ力はある……と自負している。それに、もうやる気になってしまっているのだよ。



「とりあえず、押すだけなんだし試してみましょう。上手くいけば、それに越したことはありませんし――――それにそれで、報酬をよこせとか言いませんから。あはは」



 冗談を言ったつもりだったのだが、男は相変わらず顔が強張って手伝いはいらないと言う。なんで? 


 背負っていたザックを地面に置いて、馬車の後ろに回って手をかけ踏ん張る体制になった。



「さあ。押してみましょう!! 試して良かったって思うかもしれませんよ」


「むう……わ……わかったよ。すまねえなあ」



 男は渋々といったような様子で横に並び、馬車を押す体制をとった。



「しかし、こんな道脇で窪みに落ちるなんて、よそ見でもしていたんでしょう? 可愛い女の子を、見つけたとか言って。ぷぷぷ。気を付けないと危ないですよ」


「ははははは。そーだよなあ。急に、物凄い勢いで馬が走ってきてなあ。慌てて避けたら、このありさまだ。なんともたまんねえ」


「あはは。そうだったんですね。しかし、凄い勢いで馬が走ってって……それは野生の馬なんですか? この辺って野生の馬なんていましたっけ?」

 

「いや……まあ、そうだなあ」





 …………なんだろう? この感じ…………





 両手を馬車にかけて、押す体勢になった。



「じゃあ、1・2の3で押しますよ!」


「ああ」


「1・2の…………」



 全力で馬車を押そうとした瞬間だった。呻き声? 馬車の中から、呻き声のような声が聞こえた。



「え? なんか、今馬車の中から? 呻き声のようなものが聞こえたんだけど、もしかして中に病人とか……」



 咄嗟の事に驚き、男の方に振り向くと男はこちらに向けて短刀を突き刺してきた。



「え⁉」



 素早く身をかわし、距離をとる。



「いったい何のまね? どういう事?」


「手伝わなくていいって言っているのに、全く馬鹿な女だ!」



 …………なるほど。理解した。道端で困っているので助けようと思ったけど、どうやらその助けようと思って手をかした男は、ろくな奴じゃなかったって事ね。



「馬車の中……うめき声のようなものがきこえたけど、誰が乗っているの? 病人か怪我人……そうでないのなら……」


「うるせえなあ!! だまれよ、てめえ!! さっきから、うるせえんだよ!! これから死ぬおまえには、関係ないだろ!! 死ねええええ」



 男は、真っ直ぐに突っ込んできた。短刀を突き出し真っ直ぐに突進してきた。避ける。懐に入りその突いてきた腕を、そのまま掴んで一本背負いを見事に決めた。投げる時に掴んだ腕は、逆に極めて投げ、男の肘を挫いた。挫いた腕は、武器を使う事はできないし、動かそうとするだけで激痛が走る。男は、腕の痛みに悲鳴をあげている。



「おいおいおいおい…………なんだ? これはどういう事だ?」



 振り返ると、4人の男達が立っていた。男達は見るからに、ゴロツキのような顔をしており、もう私に向かって武器を構えていた。もしかして、盗賊――――



「仲間が戻ってくるって言っていたけど、あなた達のことね。馬車の中を検めさせてもらいたいんだけど? いい?」



 それを聞いて、男達が顔を見合わせる。そして、武器をこちらに向けて囲んできた。


 私も、剣を抜いて構える。その後ろでは、先ほど投げ飛ばした男が腕を抱えて泣き叫んでいた。



「その女に腕を折られた!! 殺せーーー!! その女を殺すんだ!!」



 まず、一人が手斧をこちらに向かって投げて来た。避ける。続けて二人が同時に剣を向けて斬りかかってくる。剣が振り下ろされるよりも早く、二人を斬り倒しすり抜ける。またも手斧。それもかわし打ち倒す。


 あっと言う間に残り、一人。残った男は、2本のナイフで構えた。―――――二刀流。この男……できる。



「あなた達、いったい何者なの?」



 そう言った刹那、男は距離を詰めて左右のナイフを交互に勢いよくふってきた。早くて鋭い。その攻撃は、高速で的確に急所を狙ってくる。だけど、避ける事はできる。男は、更に勢いをつけ、思い切り踏み込んできた。ナイフ。狙いは喉。



「あまいっ!」



 踏み込んできた男の攻撃を避けて、最初に襲ってきた男同様に背負い投げれば終わり。そう思って、避けた。しかし男の攻撃は、おとりだった。ナイフで突いて避けられるやいなや、すぐさま手をこちらに翳した。その翳された手は、魔力が集められて光を放っている。まさか――――


 男は、ニヤリと勝ち誇った顔で笑い、魔法を唱えた。



「ワハハハ、これでも喰らってろぉ!! 《火球魔法(ファイアボール)》!!」



 ――――直撃。私は、爆炎に包まれた。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。父であるセシル王に王都へ連れ戻されるが、冒険者の活動を許可され再び出立。仲間のルシエルとニガッタ村で合流する為、そこへ向かう。その途中、ただならぬ雰囲気の荷馬車に遭遇。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国内にある村。アテナのパーティーメンバー、ルシエルと合流する待ち合わせの場所。なぜ、ここを選んだのだろうか? そう! ここには、とても美味しいライスがあるからだった。以前からこの村のライスを食べてみたいと思っていた。


〇バンパ 種別:ヒューマン

ただならぬ雰囲気を帯びた馬車をアテナが調べようとすると、豹変し襲い掛かって来たゴロツキの仲間。ナイフを二刀流で扱い、中位の黒魔法まで使いこなす事から只者ではない事が伺える。攻撃も急所を狙ってくるという、手練れで、ただのゴロツキにも到底思えない。


〇ライス

米。ライスは基本的に主食としてパンのように流通しているが、ライスを特産品とするニガッタ村のものは更に特別美味しいようだ。かつては、東方の国の食べ物で、それが商人によって伝えられ一般的になったのだ。


火球魔法ファイアボール

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ