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第249話 『ドルフス・ラングレン その1』




 吊り橋の上は大乱戦になっていた。


 ルシエルの心配はいらないけど、ルキアの方を注意しながら戦った。でも、ルキアの方も心配はなさそう。


 驚くべきことにルキアは、ポールの部下達をカルビと上手なコンビネーションで翻弄していた。


 しっかりと、相手の攻撃をよく見て、ナイフで弾いたりかわしたりしている。不意な攻撃は、カルビが襲い掛かってくる男の足に噛みついたり、転ばせたりしていてなんとも息の合った見事なチームワーク。


 キャンプすると、晩御飯の後に暇さえあれば戦闘の稽古をしているルキアだったけど、こんなにも戦えるようになっていたなんて。


 私は、師匠としても友人としても、お姉ちゃんとしてもルキアの目覚ましい成長に心がぐっと熱くなった。


 私もルキアに負けてられない。



「よそ見すんなあああ!!」


「よっと! そりゃあ!」


「うげ!」



 ――戦槌。それを避けて、一人二人と打ち倒す。


 攻撃は、全て峰打ちだった。


 ルシエルも、敵の攻撃を持ち前の身のこなしで回避しつつも弓矢で、反撃して倒していく。


 狙っている個所は、主に足や肩。確かに、足に矢が突き刺さればそれだけでも戦闘力を挫く事ができる。まさに理にかなった攻撃だった。


 ポールの部下は、全部で五十人程いたがその半分以上を倒した所で、私の前にさっきのラングレン男爵と呼ばれていた大男が金棒を持って立ち塞がった。


 ルシエルの方も、ポールが二人のメイドと共に取り囲んでいる。


 あのメイドも覚えている。ガンロック王国でシャルロッテを追おうとした時に、私達の前に立ち塞がり魔法を放って、足止めしてきたメイド。



「ルシエル! 気を付けて、そのメイドさん達、ガンロック王国であったメイドさんだよ」


「お? おおー。そう言えば会った顔だ。確か魔法使いなんだっけ?」



 ルシエルがそう言うと、二人のメイドは魔法を詠唱し始めた。こちらは吊り橋内で魔法を封印しているのに、なんと容赦がない。



「おいこら待て!! こんな所で魔法なんて使ったら、危ないだろ!! 落ちたらどうすんだよ!!」


「うるさい! 《斬撃風(エアスラッシャー)》!!」


「喰らえ! 《氷の針(アイスニードル)》!!」


「うおおおっと!! 危ねえ!! だから、こんな所で魔法を使用するなっつってんだろ!!」



 二人のメイドが、それぞれ風属性と氷属性の魔法でルシエルを攻撃する。


 ルシエルはその攻撃に、慌てふためきながらも避けていた。それは傍から見れば、必死になって避けているように見て取れるけども、ルシエルの事を良く知る私とルキアにとっては全くピンチでもなんでも無い状況だという事が解っていた。


 ――あれは、ルシエルの演技。面白がってピンチを装っているのだ。


 そんなルシエルの事より、心配なのはやっぱりルキア。カルビと一緒に上手に戦ってはいるけど……一度に何人ものポールの部下達を相手に戦っている姿を見ていると冷や冷やする。



「ここまでだ、お嬢ちゃん!!」


「やっ!! 話してください!!」



 ワウワウ!!  ガルウウウウウ!! 


 ガブッ!!



「ぎゃああ!! いってーー!! このウルフめ!! 噛みつきやがった!!」



 ルキアを後ろから羽交い絞めにしようとした男の腕を、カルビがかぶりついた。ルキアはその隙に、ころんと転がって態勢を立て直す。


 ふうっと口から息が漏れた瞬間、殺気がして身をかがめた。次の瞬間、私の頭の上を轟音とともに何か棒状の鉄塊が通り過ぎた。



「一撃で楽に終わらせようと思ったが、そう上手くはいかないか。それにしても、死角から放った俺の金棒をあっさりと、感だけで避けるとはな」



 振り返るとそこには、何十キロもあるような金棒を軽く振り上げて肩にポンポンと乗せる大男の姿があった。


 私は剣を抜くと、その男へ向けて、変わらず峰打ちで打ち込んだ。金棒と剣が交差し、金属音が鳴り響く。



「やるわね。ラングレン男爵……でしたっけ?」


「おっと、そう言えば名乗ってなかったな。申し遅れたが、俺はドルフス・ラングレン。爵位は男爵。ヴァレスティナ公国の使いでここへはやってきているが、成り行き上、剣を交えさせてもらう」


「け、剣って言うけど金棒でしょ?」



 ドルフス・ラングレンは、それを聞いて笑みを浮かべた。


 そして、更に早いスピードで私目掛けて金棒を振り回して打ち込んできた。


 こんなたっぷりと重量の乗った攻撃、とてもじゃないけどまともに受け止めれない。避けながらも、ラングレン男爵の腕を峰打ちで打った。



「小手ーー!!」


「うっ!!」



 ラングレンの顔色が変わる。


 でも、意地になっているかのように、金棒をぶんぶん振り回してくる。私はその攻撃のことごとくを避けて、剣を腕だけでなく、肩や脇腹、そして手の甲に打ち込んだ。


 手の甲や足の甲の骨は緻密で、剣のような硬いもので打ち込まれると簡単に骨折する。



「くそっ!! なんて奴だ!! 俺の金棒にビビりもしないし、こんな箇所ばかり打ち込んできやがって!! うっとうしい!!」


「確かにあなたの金棒の破壊力は物凄いし、打ち込む速度も凄い。だけど私には当たらない。当てるには、攻撃速度の他に技術が必要よ」


「な、なに!? 技術だと?」



 剣を何度か振った所から、ラングレンの顎のあたりを目掛けて急に剣を振り上げた。


 ラングレンは咄嗟に避けたが、それはラングレンにそうさせる為の私の技だった。


 ラングレンが仰け反って無防備になった所を詰める。そして、素早く金棒を握っている腕と手を高速で2回づつ打ち込む。



 ガランガランッ



 ラングレンはたまらず、金棒を下に落っことした。

 

 絶対に金棒を握った手を離さないと強い心を持って臨んでいたとしても、その手が痺れればどうにもならない。


 これで勝負はついた。そう思った刹那、ラングレンは、そのまま歯を食いしばって私に体当たりをしかけてきた。



「ぬおおおおおお!! いくらあんたが剣士として達人でも、怪力自慢の俺の腕力にはかなうまい!! このまま押し倒してお終いだ!!」



お決まりのパターンだと思った。


 腕力を誇る者程、追い込まれるとその腕力でなんとか起死回生を狙おうとする。この攻撃も、一気に間を詰めて私を押し倒して拘束してしまおうというのだろう。


 私は素早く持っていた剣を鞘に納めると、ラングレンの体当たりを真正面から受け止める形で懐に潜り込んで腕と襟首を掴んだ。



「せいやっ!!」



 そしてラングレンの体当たりしてくる力を利用しつつ、勢いよく腰を跳ね上げる。


 すると、ラングレンの巨体は、弧を描いて高らかに宙を舞った。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ドルフス・ラングレン 種別:ヒューム

ヴァレスティナ公国の男爵。子供の時から身体が大きく、力の強かったドルフスは幼い頃から喧嘩で負けた事がなかった。成長するにつれて、貴族として恥ずかしくないようにと勉学にも励む。その甲斐があって、エゾンド公爵にも気に入られるようになった。公国には色々な貴族がいるが、ラングレン家はエゾンド派の貴族となる。


〇魔法を使う二人のメイド

ポールに付き従っている戦闘メイド。黒魔法を得意とする。ガンロック王国でも、アテナ一行に魔法を放って攻撃した。


〇金棒 種別:武器

ドルフスが特注で作らせた武器。見た目もゴツイが重量もある為、この武器の一撃は物凄い。たまに金棒で見たりするイボイボはついていない。


斬撃風(エアスラッシャー) 種別:黒魔法

下位の、風属性魔法。ブーメラン状になった風の刃が対象を襲う。


氷の針(アイスニードル) 種別:黒魔法

下位の、氷属性魔法。氷の針を飛ばせる。魔力次第で貫通力も高められ、突き刺さるとその個所を凍らす事もできる。氷矢(アイスアロー)に非常に酷似した魔法。

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