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第245話 『お人良し』




 グレイトディアーの身体に、ヴァスドが渾身の一撃を入れる。


 そこへ続けてオルンが、氷の針(アイスニードル)の魔法を放つ。氷の針が、グレイトディアーの身体を貫いた。ゾンビ化しているので、出血はしなかったが動きを止めるのにはかなり効果的な一撃だった。


 硬直した瞬間を捉えたサミュエルと、ジェムズが走る。



「これで終わりだあああ!! せーーーーい!!」



 サミュエルがグレイトディアーの首を刎ねると、続いてジェムズがケルピーの方の首も刎ねた。


 二つとも首が無くなったグレイトディアーは、よろめいてその場に横たわったので、オルンがここぞとばかりに爆炎放射(フレイムバースト)の魔法で、その身体を焼き尽くした。


 トロルの方も同様に――


 



 戦闘が終わると、メロの姿は消えていた。

 

 事が片付いたので、ボクはメロの事をサミュエル達冒険者に話した。


 サミュエル達は、メロがなぜこんな物を作りだし、無責任にも徘徊させるような事をしていたのか問い詰めると言った。


 しかし、ゾンビースト化したグレイトディアーやヘルハウンド達を全て焼き払った所で、周辺を見回ってみたが、白衣を着たメロの姿を見つける事はできなかった。


 解りやすく言えば、皆に責任を問い詰められる前に、戦闘の最中どさくさに紛れて逃げ出したという所だろう。


 結局、彼女は危険なゾンビーストを大量に作り出した上に、無責任にもそれを倒す為に協力するという事もしなかった。

 

 自分で作り出しておいて、他人に後始末をさせるというメロの行動には、彼女へ対してのボクの心の闇が一層濃くなった。


 なぜ、こんな事をするのか理解できない。えらい人に以来を受けたみたいな事を言っていたような気もするが――


 ロッキーズポイントに戻ると、迫り狂うゾンビースト達を退治した事を店主に報告した。


 すると、店主は歓喜の声をあげてボクの座っているテーブルに、ご馳走を次々と並べた。



「さあ、これは店からのおごりだ。じゃんじゃん食ってくれ。他の勇敢な冒険者達、サミュエル達も遠慮しないでくれ。あんたら7人は、凶悪なゾンビーストからこのロッキーズポイントを守ってくれたんだからな。だから、これはせめてもの感謝の印だよ」



 そういう事なら、遠慮はしない。ボクの口から何か液体が滴った。すると、それを見ていたウェイトレスの女の子が、微笑んでボクの口を拭いてくれた。



「この店の料理は飛び切り美味しいし、ボクは大飯喰らいだ。だから、とても嬉しいよ。ありがとう」


「お礼を言うのは、こっちさ。魔物共を倒してくれてありがとう! もちろん、サミュエルやジェムズ達もだぜ!」



 店内にいる客全てが、ボク達を讃えてくれた。



「ここは酒場だから、お礼に食事など出させてもらったが、他に何かできる事があったら遠慮なく言ってくれ」


「それなら、ロックブレイクという場所について教えてくれ。人を探しているんだ、ロックブレイクという場所へ行きたい」


「ああ、それなら地図を……」



 店主が地図をくれようとした所で、レインが割り込んできた。



「地図は、必要ない! あたしが連れて行ってあげよう」


「レイン! おめーがか? お前は、昨日ノクタームエルドから帰ったばかりだろう? いいのか?」


「いいのいいの。どうせ、一仕事終わった所でちょっと休業するつもりだったからね。一緒に戦った縁もあるし、あたしがロックブレイクまで道案内してあげるよ」


「いいのかい? それなら、助かるが」


「それなら、拙僧も同行しよう」



 【モンク】ヴァスドだった。もしかして、結構皆暇なのだろうか。いや、好意には違いないのだから、素直に感謝するべきだと思った。



「じゃあ、レイン、ヴァスド。ロックブレイクまでの案内をお願いするよ」


「オーケー。ロックブレイクまではよく行く事があるから、お手のもんさね。あたしに任せて」


「ノクタームエルドには、様々な魔物がいるからな。【ウィザード】と【アーチャー】なら、他に前衛で戦えるクラスがいた方がよかろう?」


「それは……確かにそうだね。ありがとう、二人とも」



 正直、道案内さえしてくれれば良かった。


 ノクタームエルドに生息している魔物なんて知らないけれど、どんな魔物が現れても倒す自信はある。


 でも、仲間とパーティーを組んで……というのは嫌いではない。


 かつては、それに関してあまり良い思い出は無かったけれど、テトラやセシリアとパーティーを組んで旅したのは楽しかった。



「俺達の分も頼んだぜ。マリンを無事にロックブレイクまで送り届けてやんな」


「解ってるって」



 同じテーブルにレインとヴァスドが座り、一緒に食事をすると、ジェムズとオルンとサナリスがからかいにやってきた。


 この者達は以前から顔見知りのようだが、今回はたまたまこのロッキーズポイントにいて、たまたまゾンビーストの襲撃で手を組んで戦った仲間。


 例え一時的にでも、一緒に協力して戦った仲間だ。この心地よい雰囲気に、またもやテトラやセシリアの事を思い出した。



 あの二人は、今も無事に旅をしているのだろうか。ボクの助けが無くても平気だろうか。寂しがってはいないだろうか。


 そんな事を考えている自分に気づくと、自分自身があの二人の事を本当に好きだったのだと気づいた。リアもそうだけど、ボクの大事な友達。


 陽も落ち、店主が宿もお礼に無料で泊めてくれるというので、今夜は酒場の隣にあるモーテルへ泊って明日の朝、ロックブレイク目指して出発する事にした。


 



 

 ――早朝、起きて準備を整えモーテルを出て酒場へ向かうと、レインとヴァスドが既に旅立つ準備を終えて待っていた。



「おはよう、レイン。ヴァスド」


「おはよー、マリン」


「おはよう、すぐ出るか?」


「まあ、意外にもゆっくりしてしまったからね。すぐに出るとしよう」



 店主に、3人分のお弁当を作ってもらった。

 

 お弁当を受け取り、店主に別れを言って店を出ると外で一人のドワーフが立っていた。



「ノクタームエルドはワシらドワーフの庭じゃ。ここで会ったのも、何かの縁。ワシも行こう」



 ボクを待っていたのは、サミュエルだった。確かにボクはドワーフの事もノクタームエルドの事もよく知らない。……なら、ここは素直に感謝しよう。


 ボクはもう一度3人に「よろしくお願いします」と言って頭を下げると、サミュエルは右手を出して握手を求めてきた。


 ボクは微笑んでそれに応えた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ロッキーズポイント店主特性のお弁当  種別:食べ物

めっさ美味しい。だけど、事前に予約が必要。今回は、予約などしていなかったがロッキーズポイントの為にゾンビーストを退治してくれたマリン達を労って、特別に普段よりもスペシャルなお弁当を店主が作ってくれた。


氷の針(アイスニードル) 種別:黒魔法

下位の、氷属性魔法。氷の針を飛ばせる。魔力次第で貫通力も高められ、突き刺さるとその個所を凍らす事もできる。氷矢(アイスアロー)に非常に酷似した魔法。


爆炎放射(フレイムバースト) 種別:黒魔法

中位の火属性魔法。爆発させる魔法ではなく、手の平から爆発により発生する強烈な炎を放つ魔法。低位の魔物ならこの魔法で、こんがり焼ける。

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