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第244話 『アンデッドキメラ』



 グレイトディアーの突進自体は、真っ直ぐに突っ込んでくるという単調なものだったが、そこから驚くような攻撃を繰り出してきた。


 突進を全員が避けたと思った刹那、グレイトディアーにもう一つある頭、ケルピーの口から水圧ビームが放たれた。その水圧ビームは、ボクの得意魔法であるアクアレーザーそっくりで、一番近くに接近していたジェムズの脇腹を貫いた。



「ぐふううっ!!」



 ジェムズは、そのダメージと痛みで地面に転がった。手に持っていた斧も同時に地に落ちた。



 グオオオオ!!



 地面に転がっているジェムズ目掛けてグレイトディアーが、大きな角を向ける。突進。まずジェムズから仕留める気か。だが、そう簡単にはやらせない。



「水壁よ、盾となりて仲間を守りたまえ! 《噴水防壁(ウォーターウォール)》!!」


「この者の傷を癒せ! 《癒しの回復魔法(ヒーリング)》!」



 いつの間にか、いい感じの連携になっていた。ボクの噴水防壁(ウォーターウォール)がグレイトディアーの突進を受けとめると直ぐに、【クレリック】のサナリスがジェムズに駆け寄って、貫かれた脇腹に回復魔法を唱えて癒す。


 しかし、今度はトロルの方が持ち前の怪力で、大きな棍棒を力いっぱいに振って殴り掛かってきた。


 その攻撃を掻い潜って迎え撃とうとした【モンク】のヴァスドは、完全には避けきれず吹き飛ばされた。



「デカブツめが。儂の魔法で粉々にしてやるわい!! 炎よ、奴を焼き尽くせ!! 《火球魔法(ファイアボール)》!!」



 【ウィザード】のオルンが火属性魔法を放った。


 火球が飛んで行き、トロルの上半身辺りに着弾すると、爆発し炎が燃え広がった。しかし、トロルは身を焼かれながらも一切動じることもなく棍棒を掲げ、オルン目掛けて振り下ろした。



「なにいいい!? 全く動じないじゃとおお? うわああああ!!」


「させない!! 《水球強弾(ウォーターボール)》!!」



 トロルが振り下ろす大型棍棒が、オルンに直撃する寸での所で、ボクは水球強弾(ウォーターボール)を唱え放った。


 魔力で生成された、水でできた大きな球体が勢いよく飛んでいき、襲い狂うトロルの身体に衝突。ノックバックさせる。


 「今のうちに!」とオルンに目配せすると、オルンは慌てて立ち上がり後方へ退いた。


 トロルは本来、並外れた再生能力と体力を誇っている。しかし、ダメージが無い訳でもないし、痛みもちゃんと感じる。


 なのに、このトロルはそういった痛覚が全くないように見える。


 ゾンビ化しているからか、今もオルンの火属性魔法火球魔法(ファイアボール)に身を焼かれながらも全く動じていない。


 しかもその炎はトロルの持つ棍棒にまで燃え広がり、その棍棒は『炎の剣』さながら、『炎の棍棒』と言った感じになっていた。


 ボクは、この状況を作り出したと思われるメロを睨みつけた。



「ヘルハウンドだけじゃなく、あんなものも君は作ったのかい? 人の事をとやかく言える程ボクは立派ではないけれど、それでも君はかなり異常だよ」


「やーー、ごみんごみん。本当に申し訳ないと思っているんだよ。自分は【サイエンティスト】でもある訳だけれど、その性質は研究者であり探求者なんだ」


「なんだそれ? まったく言っている意味が解らないよ」


「これは、人類の発展の為の使命なんだよ。知識を追及する事は、少なかれこういう代償はつきまとうものなんだよなー。でもそうやって人類は、新たなる知識を得て進歩を遂げるんだね、きっと。因みにこういった複数の魔物を特殊な方法で合成し、誕生した魔物はキメラと言ってね」


「そういう事を聞きたいんじゃないよ。こんな危険な魔物達をなぜ作ったのかって事と、なぜ野放しにしているのかっていう理由を知りたいんだよ。解答によっては、君は許されないよ、メロ」


「いやいや、待って。違うって。これは自分の仕事なんだよ。キメラを作る研究をしてねって頼まれちゃったんだよ、えらい人にね。自分も生活するためだからね、しょうがないよ。食べていく為だもん」



 やっぱり、この元凶はメロか。マッドサイエンティスト、メロディ・アルジェント。



「そんなの知らないよ。ボクは、他の者に危険が及んでいると言っているんだよ。君はこの事態どう責任を取るつもりなんだい」


「そんな事言われても、自分だって依頼主にさ、急かされてさ、キメラを作り方と蘇生の研究も思いって一緒にやっちゃえってやってしまったから、こういった想定外の危険な生き物が誕生してしまったんだよー。それでも一応安全対策はしたんだよー。こいつらが逃げ出したり、人を襲ったりするって事は計算外だったんだよ。むしろ、急かした自分の依頼主が悪いと思わないないかい?」


「まさか、ビーストアンデッド……つまりゾンビーストっていうおかしな魔物を作り出したのは、メロ……君じゃないよね? 君がゾンビーストなんて、この世に存在もしなかった呪われた魔物を作った」


「違う違う! そんな訳ないよーう。自分はそんなの知らないよー。ホントだよ。ゾンビーストはゾンビーストで、きっとそういう魔物がいるんだよー。自分が作ったアンデッドキメラは、また別ものさ。似ているけど、別ものさ。アハハ」



 また新しい名前――アンデッドキメラ。


 そんな魔物の名前は聞いた事がない。


 それにヘルハウンドに至っても、ボク達が認識しているゾンビーストと同一のものにしか思えない。それならやっぱりゾンビーストは、メロが生み出したものだ。



「ほら! ほら! そんな事より、マリン! グレイトディアーが再び突進してきたよう! ほら、くだらない話に気を取られてないで、前を向いて!!」



 このメロという女は怪しすぎる。よく騙される事があって、人を見る目が無いかもしれないボクが言うのもなんだけど、この女を信用はできない。


 だとしても、今はこのロッキーズポイントを狙って襲ってきているゾンビースト達をなんとかする方が先決だと思った。



 グオオオオオオ!!



 二つの頭を持つグレイトディアーと、燃え盛るトロルが再び突進してきた。


 サミュエルが、ジェムズ、ヴァスドと共に雄叫びをあげて、グレイトディアーの前に飛び出した。



「いっくぞーい!! ジェムズ! ヴァスド!!」


「おう!! 任せろ!!」



 サミュエルが背負っていた大きな盾を3人がかりで支えて、前に押し出す。


 ――衝突。


 3人掛かりでグレイトディアーの一撃を、見事に受け止める。


 その横からレインが矢を射かけ、オルンが攻撃魔法を放って援護する。サナリスは、守備力上昇魔法を味方へかけて、バックアップした。


 なんとか6人掛かりでグレイトディアーを抑え込んでいる。


 だが、もう一方の火達磨になったトロルは、こちらの都合などお構いなしに真っ直ぐに突っ込んできた。グレイトディアーを、必死で押し返している6人目掛けて猛進してくる。


 サミュエルが叫んだ。



「マリン!! トロルを何とかしてくれ!! できるか?」


「ああ、任せて。水よ、襲い来る魔物を打ち抜け!! 《水大砲(ウォーターランチャー)》!!」



 手を翳す。全身が燃え盛るトロル目掛けて、大量の水を強烈な勢いで発射した。


 その水は、火達磨になったトロルを消化すると共に、思いきり殴りつける様に後方へ吹き飛ばした。


 轟音。トロルは、後方にある岩まで飛ばされ叩きつけられる。そして、口に入った水を吐き出すとその場に崩れ落ちた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ゾンビースト化したトロル 種別:アンデッド

巨体の棍棒を持った人型の魔物トロルがゾンビースト化したもの。既に死んでいる為、再生能力は失っているが痛みを感じず真っ直ぐに襲って来る。火が弱点だが火をも恐れない。そして、パワーは通常よりも増幅しているようだ。


〇アンデッドキメラ 種別:アンデッド

アンデッド化したキメラではなく、人工的に複数の魔物を掛け合わせ誕生させた魔物。大型のグレイトディアーにケルピーの頭部を移植している。それぞれが行動し、グレイトディアーの突進に加えてケルピーはその口から水圧レーザーを発射する。水圧レーザーの貫通力は物凄く、当たり所が悪ければ即死に繋がる可能性がある。


噴水防壁(ウォーターウォール) 種別:黒魔法

中位の、水属性魔法。目前足元から水を横一列に魔力で作った水を吹きあがらせて壁を作る。水の壁であるが、魔力で生成しているためその強度も術者に比例する。


火球魔法(ファイアボール) 種別:黒魔法

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。


癒しの回復魔法(ヒーリング) 種別:神聖系魔法

黒魔法とは異なり、怪我など癒すことができる魔法。クレリックやプリースト、シスターなどの聖職者が一般的には使用できる。


水球強弾(ウォーターボール) 種別:黒魔法

中位の、水属性魔法。大きな水の球を生成し目標へ投げつける。魔力を帯びた水球は岩をも砕く。


水大砲(ウォーターランチャー) 種別:黒魔法

下位の、水属性魔法。下位の水属性魔法の中では強力。勢いある放水で、目標を撃つ。

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