第242話 『迫り狂うゾンビースト その1』
食事を終えると、店主にルキアの事を聞いてみた。
すると、やはりこのロッキーズポイントに立ち寄っている事が解った。
二振りの剣を腰に差し、青い髪のボブカットの美しい少女アテナ。それと黄金の長い髪に立派な弓を持つハイエルフのルシエル。最後に可愛い猫娘。
バラエティに富んでいるパーティーなので、案外捜索はし易いと思っていた。その証拠に、この店の店主や従業員の記憶にもはっきりと残っている。
「それで、そのバラエティとんだパーティーは、何処へ行くとか言っていました?」
「うーーん、そうだね。そういえば、ドワーフの王国に行くとか言ってたような気がするな。たまにここによる商人の、モルト・クオーンとも知り合いだったみたいだから、モルトさんが今この場にいれば、もと詳しく色々と聞けるかもしれないが……今は生憎な」
「いないのか……それじゃ、そのドワーフの王国への行き方を、教えて欲しい」
「いいだろう、結構沢山注文してもらったしな。俺も貢献しないとな」
ガハハと笑う店主。
「だが結構、遠いぞ。旅になる距離だし、お嬢ちゃん一人でノクタームエルドの大洞窟を歩くのは危険すぎる気もする。大洞窟には魔物共がわんさといるしな」
心配ない、大丈夫です……っと言おうとした時だった。メロがしゃしゃり出る。
「それなら自分が同行してあげよう。なーに、気にしないでくれーい。お礼はいらないよ。でも、どうせなら、マリンのその凄まじい魔法の数々を、自分の研究の為にも色々と見せて欲しいなーーっつって」
「嫌だよ。ついてこなくていい」
「そんなー! いっけずーーん! いけいけいけいっけずーーん!」
まったくなんなんだ、この白衣の女は! 周囲の目も痛い。
「あっ。そーーいえば……」
カウンターに座っていた男が急に喋り始めた。どうやら、ボクと店主の話を聞いていたようだった。
「少し前に、ロックブレイクがアシッドスライムの大群に襲われたそうだ」
「なんだと!? ラコライや皆無事なのか?」
ロックブレイクとはなんなのだ? なんだか名称から言って凄く固いものを連想するけど……でも、この場合は、そういう場所があるという事だろう。
つまり、店主はその場所を知っておりラコライという知り合いもいる。それがボクの話と何か関係がある。
店主は続けて、男に更に詳しい事を問うた。
「それが大丈夫だったらしい。とんでもない量のアシッドスライムが雪崩れ込んできたうえに、キングアシッドスライムも出現したそうなんだ。だけど、その時たまたまロックブレイクで待機していた凄腕の冒険者達が、撃退してしまったらしい」
「おお! それなら俺も聞いたぜ!! ウインドファイアや、ドワーフのギブンがいたんだろ? ノエルはいなかったようだがな」
別の客も割り込んできて話した。
ウインドファイア? なんだそれは? ドワーフのギブンやノエルっていうのは解る。話題に出るくらいだから、相当な腕の冒険者か何かなんだろう。
「それで、なんだ? お嬢ちゃんとの会話に割り込んできたんだから、なんかあるんだろ?」
「そうなんだ。このノクタームエルドの冒険者、ウインドファイア達の他にもすっげー強い、よその国から来た女冒険者達がいたんだがよ。それが確か、青い髪の少女と、金髪のエルフ……そうそう、アテナとかルシエルって名前だったはずだ」
何!? すると、ルキア達はそのロックブレイクって場所にいるって事なのか。これは極めて有力な情報だ。
「なるほど、これは実に有難い情報だ。助かるよ」
「どういたしまして。役に立ったようで良かった」
店主をはじめ、色々と教えてくれた男達が親指を立ててニカリと笑う。ボクは店主に言って、色々と教えてくれた男達にお酒を一杯奢らせてもらった。
そして店でカンテラを購入した。先は、暗黒世界。辺りを照らせるものがいる。
「それじゃ、ロックブレイクという場所へ向かおうか」
いざロックブレイクへ旅立とうとした時に、店の扉を勢いよく開けて慌てふためいた男が駆け込んできた。店主が声をかける。
「どうした? 何かあったのか?」
「ゾ、ゾンビだ!! ゾンビーストだ!! ヘルハウンドのゾンビーストの群れが、荒野にいる動物を襲いながらここへ向かってきている!!」
「なんだってえええ!!」
「ゾンビーストがここへ向かってくるって? ふーむ。あれにはまだ目的を与えていないんだよなー。つう事はだねー、今ここへ迫ってきているゾンビーストは、ヒビってここへ逃げてきた君が引き連れてき……」
喋っている途中のメロの口を、慌てて塞いだ。
ゾンビーストがここへ迫って来ているのは、この死に物狂いで逃げてきた男のせいであると、メロは言うつもりだったのだ。
恐怖で悲鳴をあげながらも、ゾンビーストを見事にこの場所まで誘導するように逃げてきたこの男が原因だと――
ボクも推察するに、間違えなくその通りだと思った。
だが、悪気があった訳ではないし、自分がこの場所に亡者共を引き連れてきてしまうという事を考える余裕もなかった事だろう。それは明白だ。
だから、この男をわざわざ吊し上げるような事をする必要もないのだ。
寄ってたかって、この死に物狂いで逃げてきた男に、自分が何をしたのか晒して責めたとしても、今迫ってきているゾンビーストは撃退できないし、解決する訳でもないのだから。
ボクは、肩にかけていたサイドバックをカウンターに置くと杖を持ち椅子から腰をあげた。
「なんだ? どうかしたか、お嬢ちゃん」
「ゾンビーストはボクが、退治しよう。その荷物は、その間ここで預かっていてくれるかい?」
「え? お嬢ちゃん一人でかい?」
メロを睨んだ。
この女は、さっき余計な事を言いかけた時に、自分自身にとっても余計な事を言ったのだ。
あれにはまだ目的を与えていないと……
……やはりボクの見立て通り、メロディ・アルジェント。信用できない女だ。
「あのーマリン? 自分はあまり戦闘向きではないんだけどね」
「……君、あれにはまだ目的を与えていない。そう言ったね?」
「え? え? 何のこと? 参ったなー、自分結構忘れやすいたちなんだよねー。昔から友達にもメロって忘れん棒さんだねって言われてさ。困ったなー、困ったよねー」
「そうなのかい? ふーーん。それなら、それでいいけどもう君との仲間ごっこはここでお終いだ。これ以上、ストーカー行為を続けるようであれば、ボクは容赦なく君を攻撃して動けなくする。君がボクの事……つまりあのルリランの森近くの古代の墓場での一件や、クライド・ゴート等の冒険者達と、ボクの間で何があったかって事を知っているのなら、このボクの性格も知っているだろう? ボクは敵だと認識した相手には、容赦がないよ」
「う、うう……わ、わかった! わかったからそんなに凄まないでよう! 怖くておしっこ漏らしちゃうよ!」
「じゃあ、退治してくる。他の人達は腕に自信があってもボクにとっては戦闘の邪魔だから、ボクがここに戻ってくるまで誰も店からは一歩も出ないでほしい」
頷く店主を横目に、メロの白衣を掴んで引きずりながら店の外へ出た。
すると、向こうから何十匹もの腐ったヘルハウンドが、こちらへ向かって駆けてきていた。
いっそ、このままメロをヘルハウンドの方へ放って、彼女が餌になっている間に仕留めてやろうかと思った。
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〚下記備考欄〛
〇モルト・クオーン 種別:ヒューム
行商人。以前、オークに襲われていた所をアテナに救われて良き知り合いとなる。その後、ロッキーズポイントで偶然の再会を果たし、アテナは彼から超便利アイテムを購入した。
〇ラコライ 種別:ヒューム
ノクタームエルドにある旅人たちの休憩所(拠点)に駐在している冒険者ギルドの関係者。彼のもとに訪れれば冒険者ギルドの依頼及び、依頼達成の報酬を受け取る事もできる。以前、ロックブレイクに毒を含むスライムの魔物アシッドスライムの大群が押し寄せた時に、アテナ達に防衛を依頼し討伐してもらった。
〇ウインドファイアとギブンと、ノエル
ノクタームエルドでは有名な冒険者。この4人でパーティーを組んでいた時もあった。その時は、ユニット名にギブンの名前的なものは含めず、アース&ウインドファイアと名乗っていた。因みにウインドファイアとは、ミューリとファムという姉妹の事で、現在アテナ一行と共にパーティーを組んでドワーフの王国へ向かっている。
〇ゾンビースト 種別:アンデッド
ゾンビ化した魔物。しかし、最近ロッキーズポイント周辺で目撃されているゾンビーストと言われている魔物のゾンビは、通常のゾンビとは何か異なっている。マリンは、メロが人為的に作り出したものだと予想をしている。目的は不明。
〇ヘルハウンド 種別:魔物
ウルフの上位種。ドス黒く逆立った体毛に、狂気を帯びた赤く血走った眼が特徴的。ウルフ同様に群れで行動するが、その勢いは凄まじくまるで地獄からやってきた魔犬。危険な魔物で、村や街の近くで目撃されると即時に討伐依頼が張り出される。




