第240話 『ローザの戦い その2』
目が覚めた。
――天井。
何処だ、ここは?
「やっと目が覚めた! うわわーーん!! 本当に良かったです!! 私……私このままローザが目を覚まさなかったらって……」
「ほんと、一時はどうなる事かと思ったわ! 本当に心配させてー!!」
いきなりテトラとミリスが抱き着いてきた。その反動で、ベッドが大きく揺れる。
二人の頭を同時に優しく撫でた。
「どうやら、随分と心配させたようだな」
「兎にも角にも、取り返しのつかないような事にならなくて良かったわ」
「本当でやんすよ」
セシリアに、メイベル。周囲を見ると、私の事を心配して皆集まってくれているようだった。……いや、ボーゲンの姿はないか。
フフ……彼らしいと言えば、彼らしいが。
「それで、メイベル。奴らの事は、皆に話したのか?」
メイベルは頷いた。
昨日の夜の出来事、メイベルが不審に思って声をかけていた村にいた男は、ドルガンド帝国兵だった。そしてその男を追いかけた話。
「あっしがディストルとローザのもとへ駆け付けた時には、ローザは完全に気を失っていやした。いったいあの後、何があったんでやんす? まさか、あの帝国兵にやられちまったって事はないでやんしょ? あんな奴にローザがやられるとは、とても思えないんでやすがね」
私は首を振った。首を振って、何があったか昨日の出来事を説明した。
あいつを追って村の端にある畑の辺りまで追い詰めるたが、そこに突如現れた薄汚いローブを着た二人に阻まれ、見事にやられた事。
そしてそのうちの一人は、がっしりした筋肉質な体格で、『女盗賊団アスラ』のエイティーンや今ここにいるディストルのような怪力パワー型だった事。
更に私へのとどめとして、二人同時の合体技……いわゆるツープラトン技で地面に大きく叩きつけられた時に、そのローブの二人が叫んだ言葉。
その技名だが、【ビッグザマウンテンボム】。それを放ちながら発した声は、魔道具か何かで変化させていた事。そして、二人とも女だったという事だ。
「怪力女の身体の大きさは、エイティーンっていうよりはディストルに近いな。うん、丁度ディストル位の大きさだった」
「まさか……」
そう言ってディストルの方へメイベルとダルトンが振り向くと、それに対してディストルはとても不愉快そうな顔をして頭をかいた。
テトラが私の手を握る。
「どちらにしても、ローザは怪我をしています。肩や太腿に傷を負って出血していた所は、ミリスが回復魔法で傷口を塞ぎました。それでも、かなりのダメージだと思います」
「だから? だから、なんだ? 何が言いたい」
そう言って、身体を起こそうとした。すると、全身に激痛が走った。頭も割れるように痛い。
小屋を突き破った時のダメージに、あの二人がかりで地面に叩きつけられた大技をまともにうけた代償。そして、頭痛はあの顔面への蹴りか。
今負っているダメージの原因自体は分析できる。だが、そのダメージ。ダメージが大きく残っている。
「あの、その……」
私の質問に答えようとするテトラを遮って、代わりにセシリアがこたえた。
「テトラは、その身体ではこの先、すぐに戦うのは無理だっていいたいのよ」
「何が無理なんだ? 私は大丈夫だ、剣を握ればすぐにだって戦える」
「ローザ。あなたの身体はボロボロだわ。ミリスの回復魔法でも回復しきれない程にね。だから、このまま私達と旅を続けられないし、連れてもいけないわ」
「それで?」
「この村の村長さんには話をつけてあるわ。あなたはここで、身体の傷を癒して」
「はっ! 馬鹿な! 私はこのメルクト共和国を救うためにやってきたんだぞ。この村のベッドで眠る為に、わざわざやってきたんじゃない。もう朝だろ? 私は大丈夫だ、出発しよう」
「ローザ……」
再び起き上がろうとした。しかし、激痛が身体を駆け巡り身体も上手く動かない。くそっ!!
部屋の扉が開き、中にボーゲンが入ってきた。私に一瞥すると、メイベルの方を向いて言った。
「準備ができた。食糧など物資をここの村人達に言って補給してもらった。そろそろ出発しようぜ」
「待て!! 誰か肩を貸してくれ! 私も行く!!」
セシリアは大きく溜息を吐いた。そして、メイベル、テトラの方へ向いて言った。
「ローザは回復するわ。でも、時間がもう少し必要よ。だから、それまで私がここでローザと共に残って彼女を看護するわ」
「え? セシリアがですか?」
「そうよ。必ず後から、ローザと追い掛けるわ。だから、テトラはメイベル達と先行してくれるかしら」
「で、でも私セシリアと……」
「私がいなくても大丈夫。それに、後から追い掛けると言っているでしょ? コルネウス執政官の保護は、急いだほうがいいわ。『闇夜の群狼』に先を越されればきっとコルネウス執政官は殺害される」
確かにそうだ。ここで、こんな事をしている場合ではない。
私の意地を貫き通して皆をここで足止めし、その間にコルネウス執政官保護に間に合わなかったという結末何て、目も当てられないだろう。くそっ! なんて私は不甲斐ないのだろうか。
「わ、わかった。確かにそうだった。取り乱してしまってすまない。皆は先に行ってくれ。私も回復次第、後を追いかける。セシリア、お前もだ」
しかし、セシリアは顔を横に振る。
「ローザを襲った二人が何者か解らない以上、またローザの命を狙ってここへ現れる可能性も否定できないわ。そしてローザに、これ程までのダメージを負わせる事のできる手練れなら、今のローザなら襲われれば数秒で始末されてしまうんじゃないかしら」
セシリアの言葉を聞いて、ぎゅっと拳を握る。しかし、力が完全には入らない。
「だから、私が残るわ。私がローザについているから、皆は先に行って頂戴。それでいいわね、メイベル」
「あっしは、何もございやせん。っていうか、むしろその考えに賛成でござんす。国王陛下直轄の王国騎士団長の実力は相当なものと考えておりやした。今もでやんすよ。だからその力を今のうちに取り戻しておいてもらって、これからくるここぞという所で活かしてもらいたいでやんす」
「そう、なら良かった。じゃあ、コルネウス執政官の保護はあなた達に任せたわよ」
セシリアはメイベルにそう言った後、全員の顔を眺めて最後にテトラの顔を見つめた。
「テトラ。任せたわよ」
「セシリア……私、セシリアがいないと凄く不安です。だけど、頑張ります。セシリアが追い掛けてきて、再び合流するまで頑張りますね」
「テトラ……」
セシリアはそう呟いた途端、テトラの豊満な胸を触った。
テトラは驚いてガードするように、自分の胸を押さえたが、セシリアは今度はテトラのスカートを両手でつかんで捲り上げた。
次の瞬間、テトラの可愛いパンツは仲間全員に晒されてしまい、私の休んでいるこの部屋は、テトラの大きな悲鳴で包まれた。
「あら? アレアス、ダルカン、顔が真っ赤よ。ウフフフ」
ミリスが部屋を出て行きながらも笑いながら二人にそう言った。
「まあ、今のはアクシデントだからな。しょうがない。しょうがない事だった、うん」
「いいものを拝ませてもらった。素晴らしい選別だった。気合も入った事だし、行くとしよう」
「っもうー!! セシリア!!」
怒ってもぜんぜん怖くない可愛らしいテトラと、それに対して楽しそうに笑うセシリア。
二人を見て、無意識に私も微笑んでいた。
そう、アテナやルシエルとの旅、そしてキャンプをしていた時の事を思い出して――




