表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/1340

第24話 『ゾルバ・ガゲーロ』






 ――――クラインベルト王国。


 私は、旅の仲間であるルシエルと合流を果たすべく、王都からニガッタ村方面へ向かっていた。


 ルシエルの事、ローザの事、これからの事など色々な事に思いを巡らせて、街道を歩いているといくつもの蹄の音が近づいてきた。王都の方からだ。振り向いて見ると、物々しい重装備の男たちが馬で接近してくる。


 騎士団? 11人。そのうちの髭を蓄えた偉そうなマントの男が、私の前に回り込んできて馬で行く手を遮った。



「お初にお目にかかります、アテナ王女。私は、クラインベルト王国――――鎖鉄球騎士団長ゾルバ・ガゲーロと申します」



 ――――鎖鉄球騎士団? そんなふざけた名前の騎士団あったっけ? まあでも、鎧にクラインベルト王国の紋章が刻まれているので、私が知らないだけなんだろうな。



「ご苦労様です。ガゲーロ騎士団長。それで、何か私に何かご用?」


「あなた様を連れ戻しに参りました。王都にお戻りください」



 は? どゆこと? 理解できないんだけど?


 確かに、お父様との3つの約束のひとつに王国から連絡があった場合、戻るというものはあったけど……。そんなすぐに呼び戻される? 怪しい…………



「エスメラルダ王妃がお待ちです」



 !!



 はっはーーん。そういう事ね。



「陛下からの命令でなければ戻りません。あなた達も立場があるのでしょうけど、諦めて帰ってください」



 そう言うとゾルバ・ガゲーロは、剣を抜き部下へ合図した。騎士団に囲まれる。どうやら、言う事をきかないのならと、力づくで、私を拘束する気のようだ。ぷっぷー。果たして、それができるかな?



「ガゲーロ騎士団長」


「ゾルバで結構」


「ゾルバ。王女と知って剣を抜くっていうのは、いいのかしら? 後で、きっと問題になっちゃうよ。それが嫌なら、大人しく通してもらえる? 今なら無かった事にするけど」


「我ら鎖鉄球騎士団は、エスメラルダ王妃直轄騎士団。王妃には、多少強引にでも連れ帰ってかまわないと言われております。もう、お解りいただけたでしょう? 大人しく一緒に、王都へお戻りになられませ」



 はあーーー。もう! めんどくさい! どうして、あの王妃は!


 私は、溜息を吐いて剣を抜いた。ゾルバは、ゾルバで立場があるのだろうけど、こちらは正式に王の許しも得て旅立ったばかり。ルシエルとの待ち合わせもあるのに。



「解ったわ、もう。面倒くさいから全員でかかってきなさい。運が良ければ、私を拘束できるかもしれないわよ。まあ、無理だけどね」



 ゾルバが笑う。その瞬間を見逃さない、ゾルバがいる所へ突っ込んだ。こっちは一人で、一度に11人も王国騎士団を相手するのだ。悪いけど、先手必勝。



「ぬっ!! 話には、聞いていたがとんでもなく素早い動きだ!! 多少、怪我させてもかまわん! 貴様らさっさと王女を拘束せよ!」



 ゾルバの目前に踏み込んだ所で、騎士二人がゾルバを守るように立ちはだかる。襲われているとはいえ、王国騎士団。殺生は、まずい。



「ぐはああっ!!」



 剣の柄で下から顎を打ち上げ、相手が頭上を見上げた所で足をかけて押し倒す。そこから息つく間もなくもう一人の騎士も打ち倒した。体重があろうが、腕力があろうが重心を崩せば簡単に転がせられる。



「かかれ! ボサッとするな!! 束になってかかるんだ!!」



 今度は9人が一斉に襲い掛かる。って言っても、人一人に一斉に襲い掛かるにしても限度がある。一度にかかってくるのは、四方からせいぜい3~4人。しかも重い甲冑を着込んでいる者の動きなど、私なら容易にかわせる。


 そして明らかに数に頼って、束になって襲い掛かる騎士の攻撃は、逆に読みやすかった。同じように足をかけ、剣の柄で打ち付けて倒す。相手の後ろに回り込み、引っ張って後ろへ転がす。倒れ込んだ騎士の兜を剣で弾くと、衝撃で気を失ったようだ。そんな感じで、瞬時に5人倒した。



「11人いたのに、あっと言う間に4人だね。どうする? 続ける? 続けるなら、暫く追ってこれないようにゾルバ団長には気絶してもらうけど」


「…………」



 ゾルバは、自分の馬に乗せていた荷から武器を取り出した。――――鎖鉄球!!他の3人の騎士も剣をしまい鎖鉄球を取り出してブンブンと風音をたてて振り回しはじめた。



「エスメラルダ王妃には、許可を頂いている。こうなってしまっては、もう骨の2~3本は覚悟してもらいますぞ」


「ここからが本気という訳ね。面白い、かかってきなさい!」



 ゾルバはニヤリとした。刹那、鎖鉄球。鉄棘のついた鉄球が物凄い勢いで飛んでくる。避ける。っが、避けた所でゾルバは鎖を引っ張った。避けて通り過ぎた鉄球が軌道を変えて、再び後ろから襲い掛かる。再度、避ける。



 ――――っが、



「っく!」



 鉄棘付きの鉄球が腕をかすめる。肉を少しえぐられた。



「おや、出血していますな。アテナ王女。無駄なあがきはやめて、ここらへんで降参なされてはいかがですかな?そうしましたら、すぐにでも、手当てを致しますので。それにもう、十分暴れて気もすんだでしょう? 嫌なら、他の騎士も加えて今度は、4方向から鉄球が襲ってきますぞ」



 勝ち誇りいやらしく笑みを浮かべるゾルバ。こうなったらもうしょうがない。



「降参はしないわ。だって、負けないのに降参するなんて可笑しいでしょ? 勝てる勝負なのに、降参する理由がある?」



 そう言って、もう一振りの剣も抜く。ゾルバの顔色が変わった。



「二刀流――――王家の宝刀、『ツインブレイド』か。面白い。こちらも、本気で行こう」



 ゾルバは、再び鉄球を振り回し始めた。他の騎士達も鉄球を振り回し始める。来るぞ。鉄球が発射される前に、動くしかない。



 ――――全力で、踏み込む!!



「そこまでだ!!」



 聞き覚えのある声。なに? 



 突如、ゾルバ達とはまた別の騎士団が現れ、私とゾルバの間に割って入った。その数は、30人程もいる。いったい、誰が…………


 そして、その割って入った騎士団を率いる団長が顔を見せた。赤い髪色。その顔を見ると、自然と笑みがこぼれ、嬉しさが溢れてきた。



「ローザ!!」


「お久しぶりです。っと言っても数日ぶりですが…………とりあえず、間に合ったようで安心致しました。この度は、ゾルバ率いる鎖鉄球騎士団に不穏な動きがあるとの報を受け、参上した次第にございます」


「ローザ・ディフェインか! 下級騎士の分際で邪魔をするな。もしも邪魔するのであれば、ただではおかんぞ」


「ほう。そのような大口…………これはこれは、鎖鉄球騎士団団長ゾルバ・ガゲーロではないか。ただでは、おかんとな? 面白い、試してみよ。そっちは転がっているのも合わせて11人。こちらは30人だ。試しに戦ってみるか?」


「貴様!! 舐めた口を!!私を誰だと思っている!! エスメラルダ王妃直轄騎士団だぞ! 私に対するその態度、王妃に対する反逆だ。もはやただでは、すまんぞ!! 覚悟せい!」


「覚悟せいだと? 覚悟するのは、それはおまえだ。ゾルバ。私の騎士団は本日付で、国王直轄となった。名前も、『青い薔薇の騎士団』だ。俗物っぽくて、余りこういう事は言いたくないのだが、王妃と国王陛下ではどちらの権力が上なんだろうな?」



 国王直轄と聞いたゾルバの顔は、みるみる青くなった。



「…………わかった。この場は、引き下がろう。だが、全て王妃へ報告させてもらう」


「ご随意にどうぞ。私も国王陛下へ、あなたの事も含め報告させて頂きますので」



 ゾルバがローザを睨んだが、ローザも睨み返した。



 ゾルバとその騎士団が姿を消すと、ローザは部下たちに先に戻るように命じて、自分ひとり残った。そして、二人だけになった途端、飛びついてきた。



「ちょちょちょ……ちょと……ちょっと、どうしたの? ローザ?」


「良かった! 良かったーー! 無事で良かったーーー! も……もしも、アテナに何かあったら私は……ふえーーーーん」


「ほら、ローザ。泣かないで! 私は大丈夫だから」

 


 ローザの涙を拭う。よしよし……



「その腕!! 怪我を!! 血が出て…………」


「あはは……大丈夫、大丈夫。かすっただけだから。こんなの、私特製の薬茶であっと言う間に回復よ。回復魔法だって使えるしね」


「あのジジイ!! ゾルバめ!! 打ち首にしてやる!!」

 

「待って待って、私は平気だから。話をややこしくしないでー!」




 ローザの怒りは暫く、収まらなかった。


 もうプンプンだった。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。心配する王と、アテナの縁談を画策する王妃に王都へ連れ戻される。しかし、王に正式に冒険者としての活動を許され再び出立。


〇ゾルバ・ガゲーロ 種別:ヒューム

クラインベルト王国騎士団『鎖鉄球騎士団』団長。でっぷりした身体のおじさんだが、なかなかの強敵。エスメラルダ王妃の直轄騎士団で、エスメラルダがクラインベルトに嫁ぐ時にヴァレスティナ公国からエスメラルダの護衛をし、一緒にやってきた。性格は強欲で、虎視眈々と出世に力を注ぐ。棘付き鎖鉄球を武器として得意とし、巧みに使いこなす。ゾルバ配下の騎士団には、全員に鎖鉄球を装備させている。棘付き鉄球はゾルバのみ。


〇ローザ・ディフェイン 種別:ヒューム

クラインベルト王国、王国騎士団の団長。エスカルテの街で治安維持の任務についていた時にアテナやルシエルと出会い親交を深める。それは、王族や冒険者、騎士といったそれぞれの壁を越えて親友になる程だった。王の計らいで、新たにローザ率いる騎士団を『青い薔薇の騎士団』と改め国王直轄の騎士団になった。新たな任務を受けたが、その前にアテナに別れを告げにやってきた。もちろん、エスメラルダやゾルバの動向も国王から聞いていた。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」で男勝りな性格。特別な弓を所持しており、ナイフと共によく使いこなす。ラスラ湖でのキャンプの際に、アテナが王都へ連れ戻される事態になり、後ほどニガッタ村で合流しようと告げられた。なので、アテナを信じて単身ニガッタ村へ向かっている。


〇エスメラルダ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王妃。政略結婚でセシル王の妃となった為か、冒険者に身をおとすアテナをせめて政略結婚に使えないかと勝手にパスキア王国王子との縁談を進める。それはアテナの知らない所で婚約にまで至っていた。アテナはそれを特に気にも留めず無視したので、自分の直轄の部下ゾルバにアテナを連れ戻すように命令した。アテナの出立は国王の許可を得たものだが、それはあとでどうにでもなると思っている。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国内にある村。アテナのパーティーメンバー、ルシエルと合流する待ち合わせの場所。なぜ、ここを選んだのだろうか? どうもこの村には特産品があるらしいが……


〇ツインブレイド 種別:武器

アテナの腰に下げている二振りの剣。ゾルバはこの剣を王家の家宝と発言するが、それはこの剣が普通の剣でない事を知っている事と、かつてセシル王がそう発言したので、アテナから取り上げる為にそう言っているだけである。その詳細は不明。


〇鎖鉄球騎士団 種別:部隊

ゾルバ及び副官以下騎士団全員、エスメラルダ王妃直轄騎士団。その厳つい騎士団名は、エスメラルダがゾルバが鎖鉄球を得意とする事から適当に名付けた。しかし、ゾルバは案外とその名を気に入っている。クラインベルト王国の騎士団に属しているが、簡単に言ってしまえばエスメラルダ王妃の私兵。団員は全て、エスメラルダと共にヴァレスティナ公国からやってきたので、実は騎士団全員がヴァレスティナ公国の人間。ヴァレスティナ公国は、貴族が支配する大国なのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ後妻である現王妃が継承権第一位の王女を暗殺しようとしたと捉えられない?
[一言] 王妃の反乱ですね。ギロチンにご案内~ アテナ様は鎖鉄球騎士団を斬っても無問題なんだよねぇ、国王陛下の決定を無視してるから
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ