第235話 『秘蔵の酒』 (▼セシリアpart)
『女盗賊団アスラ』『爆裂盗賊団』。私達は、この二つの盗賊団が手を組んで襲撃していた村を救う事ができた。
盗賊団は全て撃退した。結果、盗まれた物は数知れないけれど、歯向かってしまって命を奪われたといったような村人は一人もいなかった。
それどころか、『爆裂盗賊団』頭目のダッガンが、気に入らない村人をリンチしていた所に『女盗賊団アスラ』の三姉妹が出くわし、それを止めたとか。
女盗賊団の方は、メイベルやボーゲンの話では、かなり有名な盗賊団らしいけど、村人など無抵抗な者の命を奪ったりはしないという変わった盗賊達らしい。まあそれでも、盗賊には違いはないのだけれど。
それで私達は、この村の人達を救助した事から彼らに感謝されるとともに、今日はここで一泊させてもらう事になった。
すでに馬車は、アレアスとダルカンが森まで取りにいって、この村まで運んでくれている。
テトラは、ミリス達と先に酒場に行っている。
私は、少し考えたい事があると言って村をうろうろと散策しながらもこうして思いや考えを巡らせていた。
「セシリアかい」
名前を呼ぶ声の方へ目を向けると、クヌギの木の下で座り込んで一人で酒を飲む、メイベルの姿があった。
「メイベル。こんな所で一人でお酒を飲んでいるなんて、あなた随分ロマンチストなのね」
メイベルは、ほくそ笑んで酒をちらつかせた。
「セシリア。ちょっとこっちへ来て、いっぱいだけでもどうだい? これはあっしが最も好きな酒なんでやすよ。一緒に戦う者同士、分かち合おう」
「そうね、それじゃ私も一杯だけもらおうかしら」
メイベルのもとへ行くと、メイベルはポンポンと隣を叩いた。そこへ座ると、酒瓶を渡される。
「これは?」
「あっしの故郷の酒でね、バーボンさ。結構きついかもしれないでやんすが、飲み続けると病み付きになる味でやんすよ。どうぞ、ゴクっとやっておくんなせー」
「……え? グラスか何かはないのかしら?」
言ってはみたものの、メイベルの座っている周りには、グラスはおろかコップのようなものは何もない。
「そのまま口を付けてグイっていきなよ。女同士だし、別にいいでやんしょ? それとも何かい? あんたのその綺麗な顔立ち、結構そういうの潔癖だったりする?」
「いえ、頂くわ。普段、そのままラッパ飲みする事なんて無いから、聞いただけよ」
「なら、何も問題は無いでやんしょ」
瓶の蓋をしているコルクを抜くと、蒸留酒独特の匂いがした。それは甘く美味しそうな香り。瓶に直接口をつけると、一口二口と豪快に飲んだ。
もしも王宮で国王陛下直轄メイドの私が、こんなバーボンをラッパ飲みするなんてしていたら、大変な事になる。だけれど、ここは王都では無いのだし、他の者の目もある訳が無く許されると思った。
「ハアーーー、これでセシリアとあっしは間接チッスをしてしまった関係になってしまったでやんすよー」
「うっ!」
顔を赤らめながらそう言うメイベルのセリフを耳にして、口に含んだバーボンをうかつにも吹き出しそうになってしまった。
「ちょーだい、ちょーだい。セシリア風味のバーボン! いいねー、バーボンも美味しいし、セシリアとの仲もこれで一層深くなったし。あっしは、幸せ者でござんす」
……真面目なのか、ふざけているのか。メイベルという冒険者はちょっとつかめないと思った。
「それはそうと、今のうちにもう一度確認をしておきたいのだけれど、次の目的地はモロロント山の麓にある、トリケット村でいいのよね?」
「そうでやんす」
「そしてその村にいるという、このメルクト共和国の生き残った最後の執政官コルネウスを保護する」
「うん。そういうストーリーになっていやすねえ」
「コルネウス執政官を保護したら、その後はどうするのかしら?」
「トリケット村にもあっしの仲間はいやすが、首都近くのテラネ村には更に仲間がいやす。その者達と合流して、いっきに水かさをあげる事ができやしたらその勢いで、首都へ雪崩れ込んで大掃除する寸法でやんす」
「ウフフ。そんなに上手くいくかしら」
「それは、セシリアやアレアス達、それにローザ騎士団長殿のお力次第でがしょー。あっしらは、その力に大いに期待しているんでやすよ」
「あなたとディストルの力もでしょ? あなたは、Aランク冒険者だと聞いたわ。Aランクと言えば、相当なものなのでしょ? この村での盗賊との戦闘も、あなた達二人の強さはかなりのものだった」
メイベルは大笑いした。そして、酒瓶を咥えてゴクゴクと酒を飲むとそれをまた私に差し出した。
私はそれを受け取ると、ひと飲みした。メイベルの故郷の味とは言っていたけれど、はっきり言って美味しい。アルコール度数は結構ありそうだけど、いくらでも飲めそうな味だと思った。
「その酒が気に入ったのなら、まだあるでやんす。実はいくつも馬車に積んでいるでやすよ」
「私の質問に答えて欲しいのだけれど?」
「へへ。Aランク冒険者だと言ってもピン切りだからねー。だけど、あっしも本気だせばなかなかのもんでやすよ。ディストルだって、Eランクではあるけど力だけなら大したもんだでやすよ。その両の眼で見たでやんしょ? ディストルの勇姿を。くっくっくっく」
メイベルはそう言ってまた酒を飲んだ。
確かにあの『女盗賊団アスラ』の三姉妹。その次女、怪力エイティーンと、真正面から張り合っていた。あの強さでEランクっていうのも、規格外に感じる。
「冒険者ランクっていうのは、その冒険者の強さを推し量るバロメータでもあるけど、何も腕っぷしだけで評価される訳じゃない。あっしなんか、いい見本さ。任務達成率や、その時の状況判断など色々な事を含めてのランクでやんすから、あっしの戦闘力なんてしれたもんでござんす」
なんとなく言っている事は解るのだけれど、それでもランクAっていうのは強いのではないか。そう思ったけれど、どちらにしても私は冒険者になりたいとは思ったことはないし、これまでそれ程冒険者についても考えた事もない。
だからいくら考えた所で、今は栓の無い事なのかもしれないと思った。




