第232話 『賊に占領された村 その3』
村はずれにあるという納屋の方へ駆けて行ったボーゲンは、何を思ったのか再び引き返してくると、私に何か入った袋を手渡してきた。
外側から触って確かめてみると、丁度片手で握れる程度の大きさの玉のようなものがいくつか入っている。
「そうそう。それを渡しておくのを忘れていた」
「これは、なんなんですか?」
「俺様お手製の癇癪玉だよ。敵の気を引くなら、それが一番だろ? 派手だし音も出る。それで、しっかりと賊どもの注意を引いていてくれ」
「ああ、なるほど。確かにこれはいいものですね」
「使い方は、至って簡単だ。点火しなくても地面に思いきり叩きつければ破裂する。それでせいぜい脅かしてやれ! でも、くれぐれも無理はするなよ」
「ボーゲンこそ、気を付けて下さいね」
「アホっ! 小娘にわざわざそんな事を言われんでも、解ってら!」
「あ、あほ……って……」
ボーゲンは捨て台詞を言って、もう一度納屋の方へ駆けて行った。
「じゃ、じゃあ、行きましょうか? ローザ」
「そうだな。それじゃ、試してみるとするか。癇癪玉を叩きつければ派手な音がして、それを聞きつけた賊どもがこの酒場の前に集まってくるだろう。だから、癇癪玉を使用したら即時に今たむろっている奴らをできるだけ速攻で片付けるぞ。できるか?」
「できるかは、やってみないと解りませんが全力でやってみます」
「よし、じゃあやろう。いつでもいいぞ!」
ローザがそう言ったのを確認して、私は3つ数えて隠れていた物陰から飛び出した。
酒場の前でたむろする賊達は、まだ私達に気づいていない。
――よし。涯角槍を握りしめて、賊達のいる酒場の方へ走りだす。すぐ後ろには、ぴたりとローザが剣を抜いてついてきている。
「ん? なんだ? 女?」
「なんだ? お前ら!!」
――気づかれた!!
ボーゲンから受け取った袋から癇癪玉を取り出すと、賊がいる方へ向かって地面に投げつけた。その衝撃で癇癪玉が炸裂。大きな音が周囲に鳴り響き、賊達は慌てふためいた。
「やああああ!!」
「盗賊どもめ! 覚悟しろ!!」
賊達が癇癪玉に気を取られている間に、距離を詰めて片っ端から涯角槍で打ち倒した。ローザも、5人6人とあっという間に斬り倒していく。
「なんだ、この女どもは!! 何処から湧いてきやがった!?」
「正義の味方です! あなた達は、盗賊団ですね。覚悟してください!」
相手を精一杯、威圧したつもりだったが『爆裂盗賊団』の頭目ダッガンは、顔を顰めている。
女盗賊団の首領ソアラが叫んだ。
「相手にしないで、ダッガン! こいつらの狙いは恐らく閉じ込めている村人達よ!」
「なんだとお⁉」
「ダッガン!! ソアラの言った事が理解できねーのか!! 悪いのは顔だけでなく、頭もか?」
「エイティーン!! てめーー、俺様をおちょくってんのかよ!!」
「いいから、ダッガン!! さっさと納屋へ向かえ!」
『女盗賊団アスラ』頭目のソアラと、その妹エイティーンに睨まれたダッガンは、舌打ちすると子分を引き連れて納屋の方へ向かった。
まずい、納屋にはボーゲンが村の人達を助ける為に向かっている。
私はダッガン達を、阻止しようとした。しかし、ローザが私の手を引いて止めた。
「ちょ、ローザ! あの人達を止めないと、ボーゲンが」
「落ち着け。そっちは大丈夫だ」
見ると納屋へ行こうとするダッガン達の前に、セシリアが立っていた。そして、その横にアレアス、ダルカン、ミルスが続けて現れる。
「セシリア! それに、アレアス達も……助けにきてくれたんですね」
皆、私達の事が心配になって様子を見に来てくれたんだ。嬉しい。
この予期していなかった状況に感動していると、アレアス達がダッガンを含む盗賊達に斬りかかった。
アレアスの剣。それにダルカンが斧を振るう。その後方からミリスが、攻撃力、防御力アップの支援魔法を唱えて援護についた。
そしてセシリアが、ソアラ達三姉妹の方へ指をさした。
「賊なんて、どれもろくでもない者ばかりよ。懲らしめてやりなさい! テトラ!」
「ありがとう、セシリア。あの三人は任せて!」
女盗賊団首領ソアラが、私を睨み付ける。
「……お前達、冒険者か!!」
「いいえ。私とセシリアは、ただの通りすがりのメイドです!!」
涯角槍を握りしめ、女盗賊団三姉妹の方へ駆けていき跳躍した。
三姉妹が揃っている頭上から、長女ソアラを狙って涯角槍を振り下ろした。
「この初撃で、リーダーを倒します!!」
――方天撃!!
ガギンッ!!
金属音。三姉妹の次女、エイティーンが私の得意技【方天撃】を両手に装着したアイアンサックで、受け止めた。
王都のスラム街にある酒場で乱闘になった時、この技でリトルフランケという大男を一撃で倒してみせた。それを、この大柄の女の子は難なく受け止めたのだ。強い!!
「どりゃあああっ!!」
エイティーンは、私の渾身の一撃を止めると、今度は涯角槍をそのまま両手で握って、私ごと地面に叩きつけた。
「きゃっ!!」
本来なら受け身をとらなくてはいけなかったのに、涯角槍をそのまま奪い取られる事を恐れて、両手を離せなかった。
武器を奪われる事は回避できたけど、その代償として背中から地面に強く叩きつけられる。
間を置かずに、エイティーンが地面に横たわる私に狙いを定めて足を思いきり振りかぶった。
「砕けろ!! サッカーボールキック!!」
腹部に重量感のある強烈な蹴りを浴びた。私の名を呼ぶローザの声。激痛と共に、私は何メートルも蹴り飛ばされた。
「テトラ!! 大丈夫か!!」
「はっはーー! ゴーーール!! これで決まったな!」
「うえっ……ゴホッゴホッ」
胃の中から込み上げてきたものを、吐き出してしまった。
今度はローザがエイティーンと、戦っている。
ローザの素早い剣撃をエイティーンはアイアンサックで起用に弾いている。そこへ、三姉妹三女のハムレットが鞭を放ってローザを攻撃した。ローザは、その攻撃を避けてはいるけど、3対1じゃ不利だ。う……私も戦わなくちゃ。
まだ腹部の痛みと吐き気がするけど、涯角槍を杖代わりにしてなんとか立ち上がる。
「狐のメイドがまた復活してきたよ! エイティーン、ハムレット! いっきにこの女騎士を畳むのよ!」
「おう!」
「いいわ! 倒れるまでこの鞭でうち据えてあげる!」
「来るか!! 面白い!! だが、お前ら賊どもごときには、洗練されしクラインベルト王国の騎士は、倒せん! さあ、私の剣技をとくと味わさせてやるぞ!!」
三姉妹が一斉にローザに遅いかかる。
なんとか、立ち上がる事ができた私は、ローザに加勢するべくそこへ飛び込むつもりで、駆けて跳んだ。
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〚下記備考欄〛
〇癇癪玉 種別:アイテム
ボーゲンお手製の癇癪玉。地面に勢いよく投げつけると、破裂し破裂音が辺りに連続で鳴り響く。特に魔物などに遭遇し、逃げる時に使うと効果的。戦闘時に意表を突くのにも最適。因みに、ミャオのお店でもミャオの作った癇癪玉が売られているとか。
〇アイアンサック 種別:武器
拳に装着して使う鉄製の武器。敵に文字通り鉄拳を喰らわせることができる。もちろん鉄製の為、剣や槍など相手の攻撃を受ける事もできる。リーチが短い分、素早い攻撃もできるのだ。
〇サッカーボールキック 種別:体術
地面に倒れた相手を、ボールを蹴る様に思い切り蹴り飛ばす。単純なようで、勢いをつけて蹴る分、腹部や頭部を狙われるとえげつない威力がある。




