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第23話 『クラインベルト王国 その3』 (▼アテナpart)





 ――――――クラインベルト王国王宮、玉座の間。



 今日も、お父様に玉座の間に呼び出された。エスメラルダ王妃とエドモンテもいる。…………やだな。あと、ルーニ。ルーニは昨日お父様と中庭でグレイトディアーの肉を食べていたら、突如現れて仲間に入れてと言い出し一緒に食べた。


 エスメラルダとエドモンテがその前に現れて、軽蔑した目で毒を吐いて去って行ったのでルーニには、くれぐれも内緒という事を条件に肉を振る舞った。ルーニは、無邪気に口の周りを油でテカテカさせながら、美味しい美味しいと言ってたっけ。よほど、楽しかったのか目もキラキラと輝かせていた。食べたあとも、暫く一緒に焚火にあたってお喋りをした。眠たくなったら私と一緒にテントで寝ると言い出したので、かなり困ったよ。


 お父様の案で、ルーニをとりあえずテントで寝かせたあと、お父様が部屋まで運んで寝かせてくれた。


 ふふ。しかし可愛い妹だね。とても、あのエスメラルダ王妃の娘で、生意気なエドモンテの妹とは思えない可愛らしさだ。あんな妹なら、誰だってすんなり妹として受け入れる事など容易にできるよ。



「聞いておるか? アテナ」


「はい。お父様。私は、冒険者としての職に戻りたく思います。すでに仲間とは、ここに戻る際、5日後に再会しようと言って、とある村で待ち合わせをしております。今日は、もう3日目なのでそろそろ出発させて頂きたく存じます」


「ふむーー。仲間とは、一緒におったというハイエルフか?」


「はい。ルシエル・アルディノアといいます。ローザは、騎士団の任務があるので暫く一緒に旅はできないと聞いております」



 そう。ローザは、エスカルテの街の近くに盗賊団が出没しているとの事で、ドリスコ副長や他の部下と討伐に向かって王都には同行しなかった。できればもう一度、挨拶をしておきたかった。暫くは会えないのだろうから。



「なるほど。解った。おまえが再び冒険者に戻る事を許そう」




 !!




 え⁉ 



 ――――嘘!! 



 まさかの想定外の答えが返って来た。絶対だめだと、思っていた。だから、今日もう一度お父様にお願いをして、それから城を抜け出そうと考えていた。まさか、お父様が冒険者を続ける事を許すだなんて…………



「駄目です!! 一国の王女ともあろうものが、下賤な冒険者などと。王族として、恥を知りなさい!」



 怒り出すエスメラルダをなだめる様にエドモンテが言う。



「もう、良いではありませんか母上。私は、もう姉上がそれでよろしいのなら、良いと思っています。冒険者になりたいと申すのであれば冒険者になればいい。私は、私でこの国を立派に治めていく事にします。だから、これからこの国は、このエドモンテにお任せ下さい」


「エドモンテ。あなたがこの国を統治する事には、賛成です。ですが王族のアテナが勝手に国中を徘徊する事は別問題」



 ふっ、やはり娘とは言わないんだね。まあ私もお母様って一度も呼んだ事はないんだけれど。



「それにアテナは、パスキア王国の王子との婚約も迫っているのですよ。フラフラと冒険者などしてその辺で野営などと、ありえません。もしもの事があったら、どうするのですか。城の外には、魔物や盗賊などもうろついていたりするのですよ」



 え? 婚約? 婚約ってなに? そんな話は聞いていない。



「ちょ……ちょっと待って! 婚約ってなにも聞いてない! それって私に相談も無く勝手に決めたんでしょ? そんなの……それこそ、認められないわ」


「認められないも何も、あなたはこの王国の王女でしょ。王女であれば王女としての務めがあるのです。あなたはそれを、全うしなさい」

 


 勝手なことを――――こんな事を言う人を母だなんて、やっぱり思えない。まあ、相手も同じ風に思っているんでしょうけど。



「私は何処の誰かも解らない相手と結婚する事が、国の為になるとは思わない! そんな結婚、したってすぐに駄目になるわ」


「それはあなたが何も考えてないからよ。駄目になるというのなら、駄目にならないように努力なさい。この王国とパスキア王国が結ばれれば、互いに今まで以上に強国となる。あなたは、この国の王にはならないのでしょ? では、その他の事で国の為になることをしなさい」



 この!! 私が嫌いなのは解るけど、いったいなんなの⁉ 流石に頭に来た!!



「まあ、待て待て待て! ちょっと、待たぬか! 二人とも、ちと頭を冷やさぬか。余は、アテナが冒険者として戻る事を許した。これは決定じゃ。それに、誤解があるといけないので言っておくが……パスキア王子との婚約は、エスメラルダが言っておる事で、余は正式に認めておらぬ」



 お父様…………



「あなた!」


「もうよい! 余は国王じゃ。決定には従え。じゃがアテナよ、条件として3つ約束せよ。それができるか?」




 ――――3つの約束。



「解りました、お父様。冒険者として活動する事ができるのならば、従います」


「うむ。いい子じゃ」



 国王は、満面の笑みを私に向けた。それは、どちらかというと国王というよりは父親が、娘に向ける表情だった。






 荷物をまとめ、出発。城門を出ようとすると、お父様とルーニが見送りにきた。近衛兵長ゲラルド・イーニッヒもいる。…………だが、エスメラルダ王妃とエドモンテの姿はない。


 ルーニが全速力走って、側へ来た。私の手を、ぎゅっと握る。



「お姉様、ルーニも冒険に行ってみたい」


「これこれ、ルーニ! 困ったもんだ。これは、アテナの影響じゃ。どう責任を取るつもりじゃ。ん?」


「じゃあねえ、もう少しルーニが大きくなったら一緒に冒険しましょ。そしたら色々な森。荒野や砂漠、それに湖畔なんかにも連れてってあげるから。勿論、キャンプもするわ。焚火をして、予め狩った食材を使って美味しい料理をするの。夜は、晴れていれば星を眺めたりもできるんだよ」



 ルーニは、アテナのその言葉に目を輝かせる。



「え? え? 森に砂漠⁉ 湖畔? キャンプにご飯! 星――!! 本当にルーニを連れて行ってくれるの⁉」


「ルーニがいい子にしていれば、いつかね。約束!」


「はっはっはっは。エスメラルダとエドモンテが見送りに来てなくて良かった。ルーニを冒険にだなんて聞かれたら、もう――――」

 


 3人で大笑いした。



「それじゃ、ルーニ。お父様。行ってまいります」


「お姉様!! 絶対にルーニとの約束忘れないでね。ルーニもお姉様と冒険してみたい」


「くれぐれも、怪我をするな。無理だと思った時は無理せず、意地など捨てて、王女としてこの王国に助けを求めよ。それと、余との約束も忘れるでないぞ」


「はい! ご心配、ありがとうございます。お父様」



 私は、二人に手を振ってクラインベルト城をあとにした。二人は、私が見えなくなるまで見送ってくれた。


 ――――目指すは、ニガッタ村。ルシエルとの合流場所。



「これで、晴れて国王直々の許しを得た訳だし大腕を振ってキャンプ……冒険できる。うっふっふっふ」

 


 その代わりの条件。冒険者を続ける為の、お父様との3つの約束。もう一度、思い出した。




1.クラインベルト王国から戻るよう連絡があった場合、即戻る事。


2.何が起きても自己責任だという事。


3.何処にいても王女としての自覚を持ち、家族を愛す事。

  あと――そのうち、城の中庭で無く何処か良いところで、

  皆でキャンプをしよう。




「…………1と2は約束できるけど、3はできるかなあ。お父様とルーニ、それにモニカは愛せても、エスメラルダ王妃とエドモンテがなあ」



 ポリポリと頭を掻く。



 やっぱりそんなの無理――――って思ったけど、お父様との約束。……………とりあえず、保留って事にした。

 








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。王都に連れ戻されプンプンになっていたが、腹いせに王宮中庭で焚火やキャンプをして、少しスッキリ。父、セシル王とも仲直り。


〇セシル・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国の国王。そして、アテナの実の父親。冒険者をどうしても続けたいというアテナの気持ちを押して3つの約束を条件にアテナの冒険者としての行動を許す。一見気弱で優しそうな王だが、この実は豪胆で武勇にも優れている。アテナは前王妃のティアナ、モニカは自分に似たと思っている。


〇エスメラルダ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王妃。政略結婚でセシル王の妃となった為か、冒険者に身をおとすアテナをせめて政略結婚に使えないかと勝手にパスキア王国王子との縁談を進める。それはアテナの知らない所で婚約にまで至っていた。もちろん、アテナはそんなの無視。


〇エドモンテ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王子。玉座を狙う生意気な王子で、事あるごとにアテナに喰ってかかる。野心の高さは、祖父エゾンド・ヴァレスティナ譲りか?


〇ルーニ 種別:ヒューム

クラインベルト王国第三王女。モニカとアテナの妹で、二人の姉が大好き。同じように強くなりたいと思っている。そしてチャンスがあれば、アテナのように冒険して世界に触れてみたいと思っている。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」で男勝りな性格。特別な弓を所持しており、ナイフと共によく使いこなす。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、エスカルテの街で正式な仲間としてパーティーを組む。ラスラ湖でのキャンプの際に、アテナが王都へ連れ戻される事態になり、後ほどニガッタ村で合流しようと告げられた。なのでアテナを信じてニガッタ村へ向かっている。


〇ローザ・ディフェイン 種別:ヒューム

クラインベルト王国、王国騎士団の団長。エスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。しかし、ついに騎士団に戻る様にと命じられ、しょんぼりする。その後は、ゲラルドや王国騎士団と共にアテナの護衛に辺り、アテナを王都へ送り届けた。その後は、新たな任務を与えられ王都を出発する。アテナとは暫く会えないと悟ったが、せめて別れを言いたかったと悔やんでいる。


〇ドリスコ 種別:ヒューム

クラインベルト王国騎士団。ローザの副長。ローザが頼りにしている優秀な部下。


〇クラインベルト王国 種別:ロケーション

現在アテナのいる国。アテナはこの国の第二王女だった。王族のファーストネームは、代々国の名前を名乗る事になっている。


〇パスキア王国 種別:ロケーション

クラインベルト王国から更に北に位置する国。国自体は緑も多く、クラインベルトによく似ていて穏やかな国に見えるが、そのすぐ西には軍事大国ドルガンド帝国があり、常に侵略を警戒している。エスメラルダが進めているアテナの縁談もパスキア王国には願ってもない話なのかも。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国内にある村。アテナのパーティーメンバー、ルシエルと合流する待ち合わせの場所。なぜ、ここを選んだのだろうか? どうもこの村には特産品があるらしいが……





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― 新着の感想 ―
3.何処にいても王女としての自覚を持ち、家族を愛す事。 相手も絡んでくるこれが一番難しいのよ
[一言] >私は、私でこの国を立派に治めていく事にします。だから、これからこの国は、このエドモンテにお任せ下さい こういう勘違い野郎って大抵血縁関係ゼロだったりするんだよなー、王妃が浮気してできた子…
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