第228話 『5人の執政官』
街道から少しそれて森へ入ると、草木の茂みに馬車を隠した。
馬を繋ぎ、水場を探して小川を見つけると、そこで飲み水を汲んで馬達にも与えて休息させた。
私はアレアスさんやダルカンさんと一緒に、馬車からテントなどキャンプ道具を運び出して設営した。
そう――陽はまだ昇ってはいるけど、もう1~2時間で夕方になる。
このメルクト共和国は、現在政府は機能をしていなくて『闇夜の群狼』が国全体を支配しようと首都や他の町村を占拠している。
そんな場所に入国した今、いつ敵と遭遇し交戦状態になるかはわからない。だから休息できる時には、しっかりと休息して備えておかなければならない。
メイベルさんは、この国に長く在籍する冒険者らしく、少しでも早く首都へ向かいたいみたいだけれど、ローザは国を救うために敵と戦わなければならないというのであれば、尚更疲労は抜ける時に抜いておくものだと言って急ごうと焦るメイベルさんを宥めた。
各々のテントが設営され、焚火を作り終え水を汲んでキャンプの準備が整った。そうすると、面白い事にこの9人の中で、チームが3つできていた。だから、焚火も3カ所作ってそれをそれぞれが囲っている。
メイベルさんとディストルさんは、ボーゲンさんと一緒に焚火を囲む。
ミリスさんは同じパーティーのアレアスさんとダルカンさんと一緒に焚火。私はセシリアと、ローザ団長……『青い薔薇の騎士団』団長のローザと焚火を囲んでいた。
「テトラ。お湯が沸いたみたいだから紅茶を入れるわ。皆さんにも配ってきてくれる?」
「紅茶いいですね。丁度、私も何か飲みたいなと思っていた所です」
セシリアが紅茶を入れてくれたので、それを皆に配った。すると、メイベルさんが立ち上がって言った。
「ちょっと皆、いいでございやすかー?」
――全員がメイベルさんに、注目する。
「これからの事について、ちょっと話しておきたい事がありやして――それでまず最初に、これから向かうメルクト共和国首都、グーリエに関しての確認事項でやす」
ボーゲンさんが口を挟む。
「知ってるよ。まず、テラネ村へ行くんだろ?」
今までセシリアに頼って話をちゃんと理解していなかった私に、そういう手はずになっているとミリスさんが馬車で丁寧に教えてくれていたので、私も今は理解している。
「そう、そういうストーリーになっていやす。この国には、クラインベルトやドルガンドのように、王や皇帝などと言った支配者はいやせん。共和制で統治されていやす。しかも、このメルクト共和国は、特殊な国で元首もおりやせん。5人の執政官が、国の中枢にいてそれぞれ政を行っているんでやんす」
「それは知っているわ」
セシリアの言葉に私は驚いた。ミリスさんにだいたいの話を聞いていたつもりだけど、そんな事までは知らなかったからだ。
私が知らない事も、セシリアはいつもそういった大切な事をちゃんと把握していたりする。私も見習いたいとは思っているけど、なかなかセシリアのように上手くはいかない。
セシリアは、人それぞれ長所があると言ってくれたけど、『闇夜の群狼』を倒し、ルーニ様やリア達のように誘拐されて、奴隷や人質にされている子供達がいるから、その子達を救いだしたいと言い出したのは私だ。
もう、悲しい思いをする人達を無くす為、そんな事をしている犯罪組織を潰す。
だから、もっとしっかりしないと。
「ご存じでやんすか。それなら話は早い。現在この国を取り仕切っていた5人の執政官は、一人を除いて皆『闇夜の群狼』によって殺害されてしやいやした」
「じゃあ、その生き残っている執政官を助け出せばいいのね」
「あっしの考える最良のストーリーは、こうでやんす。その唯一生き残っているコルネウス執政官を救出し、テラネ村で集結する仲間達と合流した後に、首都グーリエを占領している『闇夜の群狼』を全部一掃して一件落着したいと思っていやす。上手くいくかどうかは、ここに集まった9人の実力が鍵になるでしょうがね」
この国は5人の執政官が代表となって、国を治めていたんだ。それで5人のうちの4人の執政官は、すでに『闇夜の群狼』によって殺害されてしまった。
だから残った一人、そのコルネウスという執政官を救出することがこの国を救う私達にできる第一歩。
首都グーリエに着くあたりには、味方の水かさを一気にあげて占拠している賊を一気に叩く。
でも、そのコルネウス執政官って何処にいるんだろう? その疑問をアレアスさんが代わりに聞いてくれた。
「メイベルさん。その残った執政官の居所は掴んでいるのか?」
「ええ。ここから更に北西に行った所にモロロントという大きな山が聳え立っていやす。その山の麓にある、トリケット村。
その村も現在『闇夜の群狼』に占領されていて、拠点にされているんでやすが、コルネウス執政官はどうやらそこにおられるようでやんすね。そういうストーリーでござんす」
「なるほどな。まずは、救出作戦からって事か」
「それと、もう一つ。ローザ団長とテトラさん達の会話を先ほど耳にしやして、あっしらも共感したんでやんすが、これからの任務中はお互いに敬称で呼び合うのはよしやしょう。その方が、楽でいいし都合もいい」
ダルカンが豪快に笑った。
「はっはっは! 俺も賛成だ。いちいち、さんや君なんかつけるのも面倒だ。少なくとも今は、一丸となる仲間。同じパーティーだ。それでいいメイベル! そうしよう!」
メイベルは、ダルカンに親指を立ててウインクして見せた。
私も、その方が今から一緒に戦う仲間達が、セシリアみたいに距離が近くなっていい感じがした。何と言っても、これから共に背を預けて戦う仲間なのだから。
「そういうストーリーでやんす。この国の為に、ここに集まってくれた仲間達に、先にきっちりとこれからまず向かう目的地を明確にしておきたかったでやんす。それじゃ、それもちゃんと確認できた所で、食事にしやしょうか」
「その前に俺からも一ついいか?」
ボーゲンだった。なんだろう? さっき斥候に出ていた事と何か関係があるのだろうか?
「さっき斥候に出た時に、この近くで村を見つけた」
「はっ! どうせなら、トロルも見つけておいて欲しかったぜ」
ディストルのジョークに軽い笑い声。
でもボーゲンにはそのジョークが、嫌な感じに刺さったようでディストルを睨みつける。ディストルは慌てて、冗談だと言ったがボーゲンの目は笑っていなかった。
「皆はここで休息しておいてくれればいいが、俺はちょっとその村までいって偵察してくる。どうやら、その村も賊に占領されているみたいな気配だったしな」
メイベルは、それがいい考えではないというような表情で苦笑をして見せた。ボーゲンはそんなメイベルにも、攻撃的な視線を向けた。
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〚下記備考欄〛
〇メルクト共和国 種別:ロケーション
クラインベルトの隣国の1つ。元首がおらず、5人の執政官が行政を仕切り、国を治めている。現在は4人の執政官が賊に殺害され大混乱になっているという。
〇首都グーリエ 種別:ロケーション
メルクト共和国の首都。現在は巨大犯罪組織『闇夜の群狼』に占拠され、大変な事になっているという。グーリエを賊から取り戻せばメルクト共和国の形勢は逆転すると言われているが……
〇テラネ村 種別:ロケーション
メルクト共和国、首都グーリエからそれ程離れていない近郊にある村。現在この村にこの国で暴れまわっている賊を駆逐しようとレジスタンスが集まってきているという場所。レジスタンスは、この村で一気に戦力を集めて水かさをあげて、グーリエを取り戻すという作戦を計画している。
〇トリケット村 種別:ロケーション
メルクト共和国にある村。この村に唯一生き残ったコルネウス執政官がいるという。テトラ一行の目的地。
〇モロロント山 種別:ロケーション
岩肌だらけの大きな山。モロロント山の麓に、トリケット村がある。




