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第224話 『ギー』



 ――あれから1時間経たない位で、ギーが目を覚ました。


 ギーは、目覚めるなり再び私に掴みかかってきた。


 しかし、そうなる事を既に想定していた私は、掴みかかってきたタイミングに合わせて後ろへ引きいれて、小内刈りを仕掛けた。


 できるだけ弱く技をかけた。だけど、片足を痛めているギーに小内刈りという技は効果絶大で、ギーは見事にひっくり返って呻いた。



「ちょっと、どういうつもり、ギー。私はあなたを助けたのに。あなたは、まさかその命の恩人を食べようとするの? そんなの信じられないんだけど!」


「ニンゲンハ、コロスカクウモノダ。シカモ、オマエハトビキリウマソウナ、ニンゲンノメスダ」


「あのねー、何度も言うけど人間の雌って言わないで。私にもギー、あなたのようにアテナって言うちゃんとした名前があるんだから。それに、私はあなたの事をリザードマンの雄って呼んでいないわ。ギーって名前で呼んでいるでしょ。それは、他のリザードマンに無い知識と強さを持っているあなたに敬意を示しているからなんだよ」


「…………」



 地面に横たわるギーに近づいて、大腿部に追っている怪我を見た。血は完全に止まっておらず、今も出血しており見ているだけでも痛そうだった。



「今から、治療するから襲い掛かってこないでね。もし、そんな恩知らずな事をしたら、今度は容赦なくその首を刎ねるからね。私は本気よ」


「…………」


「癒しの力よ! この者の傷を癒せ! 《癒しの回復魔法(ヒーリング)》!!」



 両手をギーの怪我の部分へ翳し、回復魔法を詠唱した。癒しの力を含んだ光が、ギーの怪我を和らげていく。



「これで良しっと! はい、おしまい! まだ痛みはあるだろうけど、すぐに良くなるよ」


「ニンゲンノメス……」



 ギーを、鬼の形相で睨みつけた。



「イヤ……アテナダッタ。マチガエタ。アテナ、ナゼオレヲタスケル? オレハ、アテナノテキ。カラダヨクナレバ、マタアテナヲオソウ」


「そうなの? それじゃあ仕方ないか。ギーが私を食べたいっていう事と、私があなたを助けたいって思った事は完全に別の話だから、いいわよ。でも私、当然死にたくないから全力で抵抗するよ。ものっそい抵抗するよ。知っているでしょ、私の強さ。そしたら、大変な事になるのはあなたよ」



 ギーは立ち上がった。


 最初に所持していた大きな鋸のような形状の剣は、サヒュアッグの巣に置いてきたようだ。武器も盾もないギーは両手とも拳を作り、力いっぱいに握り込んだ。



「ふーーん、どうしてもやるんだ」



 私も剣は抜かず、ギーの方へ素手で構えた。その姿にギーは驚いた。



「ナゼ、ブキヲヌカナイ? アテナノコウドウ、ゼンブナゾダ。リカイデキナイ。コロサレタイノカ?」


「そう? 私も理解できない。私の事を食べ物にしか思えないならなぜ、そんな事をいちいち聞くの? 私が馬鹿な事をしているのなら、この状況はギーにとって好都合じゃないの? チャンスとばかりに、さっさと襲い掛かればいいのに?」


「…………」


「まあでも、素手でも私はギーに負けないけどね。ぷぷぷぷー」



 言った途端、ギーの目が怒りのものへと豹変した。

 

 凄まじいパンチを、私の顔に放ってきた。っが、軽くそれを避けつつ懐へ入る。


 両手で相手を掴むと、同時に片足をギーの腹へ入れて後ろへ倒れ込む勢いで蹴飛ばした。


 ――巴投げ。


 ギーは後方へ勢いよく放り投げられ、硬い岩の地面に落ちた。だがすぐに起きあがってこちらを向いたので、私も再び構える。


 そしてにこりと微笑みかけると、ギーは歯を喰いしばりようやく拳を下した。



「あれれ? どうしたの? 諦めた?」


「イマハ、アテナヲクウコトハ、アキラメタ。ケガモシテイルシ、アットウテキニブガワルイ。ダガ、イツカクウ」


「あははは。いつかは、食うつもりなんだ」



 苦笑する。すると、ギーが近づいてきた。警戒して、手を前に出して身構えるとギーは首を左右に振った。



「シンパイスルナ。ドウセイマハ、カナワナイ。ダカラ、イマハアキラメル。ソノカワリ、アテナノイチブ、オレハホシイ」


「一部? 一部って言ってもこの剣はあげられないわよ。着ているものだって、今は水着だし……これあげたら、裸になっちゃうよ」


「ソレナラ、ソノキレイナ、アオイカミガホシイ」


「髪? で、でも全部は上げられないよ。一応、私女の子だし、坊主はちょっと抵抗あるし」


「カミノケナクテモ、アテナハウツクシイ。デモ、カミノケハ、イッポンデイイ」


「そう。それなら、別にあげてもいいかな」



 剣を抜く。そして、自分の髪の一部を斬った。それを纏めて束にすると、ギーに手渡した。



「アト、ツメモホシイ。ソシタラ、オレウレシイ」 

 

「ダーーメ!! それあげるから、我慢しなさい」


「……ワカッタ。デモソノウチ、アテナヲクイニクル。アテナ、ホントウニウマソウ」


「うふふ。それができればいいけどね。ギー、あなたはかなり強いと思うけど、まだまだよ。私の師匠と戦ったら、きっと秒殺でしょうね。それに、私の仲間のエルフや火と風の魔法使いの姉妹にも勝てない。だから、もっと腕をあげたらまた相手してあげるわ。頑張って強くなって」


「ワカッタ。オレ、アテナガビックリシテ、クチカラゾウモツヲハキダスクライ、ツヨクナル」



 ギーはそういうと振り返り、私達のキャンプがある方とは別方向へ歩いて行った。


 私は、ギーの姿が見えなくなるまでその場で見送るように立っていた。


 そして私も、皆が待つキャンプへ戻る事にした。


 キャンプへ戻ろうとした時、ルシエルの声がふいにした。



「どう? 用事は済んだ?」


「ル、ルシエル!! びっくりした!! どうしたの?」


「迎えにきたんだよ。今日は、蟹鍋だろ? さっさとキャンプに戻ろうぜ。ルキアやミューリにファム。シャルロッテやメール達も食事の準備をしているぞ」


「そうね。じゃあ、急いで戻りましょうか。でも、もうキャンプへ戻ろうとしていたから、わざわざ迎えに来てくれなくても良かったのにー」


「そうか? でもあれだろ? もし、アテナとオレが逆だったら、アテナだって迎えにきてくれただろ?」


「うーーん。ルシエルが大丈夫って言ったんだったら、私は大人しくキャンプでルシエルの帰りを待っているかなー」


「えええーー!! それは嘘だーー!! そこは心配してあげようぜー!! オレがかわいそうだろー」



 私は笑いながら、しがみついてくるルシエルを引きはがして、湖に入った。



「さあ、おふざけはここら辺にして、さっさと戻りましょ」


「おう! もう、腹減ってたまらんぜー! さっさと戻ろうぜ」



 そう言って、私達はギーといた場所を後にした。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナの髪の束 種別:アイテム

アテナが自分の髪を少し切って束にして、ギーにあげた物。青い色で艶やかなその髪の束は、ギーの宝物(御守り)になった。

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