第218話 『半魚人の巣 その2』
メールは、攻撃魔法を少し使えるらしく援護すると言ってくれた。
でも私はメールに、逃げる事に集中して、私にしっかりとついてきて欲しいと言った。戦闘は、私だけで充分事足りる。それにサヒュアッグに狙われるなら、その攻撃は私に集中してくれた方が守りやすいからだ。私が暴れれば暴れる程、敵の注意は私に向く。その方が好都合。
サヒュアッグの巣の中をどんどん奥へと進む。途中、何匹ものサヒュアッグと遭遇したが、全て剣で斬り倒した。
「アテナさん。ユリリアは大丈夫でしょうか?」
「うん。きっと大丈夫。どちらにしても、ユリリアを見つけるまでは決して諦めるつもりはないから、頑張って探そうよ」
「はい。ありがとうございます」
「それに他にも二人、仲間がここに来ているから安心して。地底湖の傍でキャンプしていた仲間だから、メールも会っている二人だよ。二人とも凄く頼りになるし、強いから」
そう言って自信満々に笑って見せると、ようやくメールはにこりと微笑んだ。
ギャギャギャーー!!
更に先に進むと、ついさっきメールが閉じ込められていたよう牢をまた発見した。そこに6匹のサヒュアッグが群がっていた。すぐ近づいてみると、サヒュアッグ達の間から人間の腕が見えた。
「メールは、ちょっとここで待ってて! やあああああ!!」
「あっ……はい!」
ギャギャッ!!
もう片方の剣を抜き、二刀流でサヒュアッグを連続で斬りつける。銛のような武器で応戦してくるが、水中でなければ避けるのは簡単。あっという間に6匹全て倒すと、牢の中で倒れている人に駆け寄った。
「この人は……もう……」
メールが、動揺していると解る震えた声で言った。
「アテナさん! その人はユリリアですか?」
私にそう聞いたメールの声は、真実を知る事の恐れも感じ取れた。私は振り返って、首を左右に振った。それを見てメールは、胸を撫でおろした。
「……この人はもう死んでいる。見た感じ、臭いもきついしやせ細っているし、この人はここへ連れてこられて随分と日が経っていると思う。でも、ユリリアがここに連れてこられたのは、今日。わざわざ捕まえて牢に入れた日に、殺すとは思えない。きっと大丈夫だから、急いで探そうよ」
そう言ってメールの方にポンと手を置いた。メールが頷いたのを確認すると、再びサヒュアッグの巣の中をもっと奥へと歩き出した。
一番奥と思われる所までやってくると、大きな空洞に出た。そこに入ろうとした所でファムの声がした。
「おおーーい!! アテナ!!」
「ファム!!」
振り返ると、ファムのその隣には髪の長い可愛らしい水着の女の子がいた。その顔は私も知っている顔だった。メールが駆け寄って、その女の子に抱きついた。
「ユリリアーー!!」
「メール!! 無事だったのね!」
「良かった! 本当に良かったわ! ミリーも無事みたい。ミリーは、すでにこの洞窟から脱出しているそうよ。私達もこんな所、さっさと脱出しよう!」
どうやらユリリアの方は、ファムが見つけて助け出してくれたみたい。間に合って良かった。
しかし、この最奥にある空洞……なんとなく、サヒュアッグ達の親玉がいそうな感じもするんだけれど。そう思って中を覗き込んだ。
「え⁉」
「アテナ! 何をしている。用は済んだ。ファム達も、さっさとここを脱出しよう」
「待ってファム。ちょっとこれ、見てくれる」
サヒュアッグが自分達の住処にしている、地底湖内の洞窟。その最奥に広がっている空洞の中を、ファムにも呼んで見せた。
「な、なんだこれ⁉ いったい何があったんだ?」
空洞内にあった、驚くべき光景。そこには100匹を超えると思われるサヒュアッグの死体が積み重なって山になっていた。サヒュアッグ同士で折り重なっている。そして、いくつも剣か槍かで突き刺されたような痕跡のある屍もあった。
「きゃあああああ!!」
中の様子を覗き込んだメールとユリリアが、揃って悲鳴をあげた。あれ? なんとなく懐かしく感じる。そういえば、ルシエルにしてもルキアにしても、ミューリもここにいるファムも「きゃああああ!!」って悲鳴をあげるタイプではないから、こういうの聞くと女の子だなーーって思う。
最近ちょっと冒険者としても逞しくなっちゃってきているから、少しは女の子らしさを取り戻さないといけないかもね。エヘヘ……
ファムも空洞の中へ入り、サヒュアッグの屍をおもむろに調べた。すると、唐突に私の方を振り返って真顔で言った。
「サヒュアッグの屍を調べた。しかし、返事がない。ただの屍のようだ」
「え?」
「…………え?」
…………
メールとマリリア、うら若き女の子冒険者二人が悲鳴を上げたので、ファムは精一杯のジョークを放ったのだった。
地底湖で泳いで楽しんでいたら、いきなりサヒュアッグに襲われ捕らえられて閉じ込められて怖い思いをした。だから、ファムなりに笑いをとって場を和やかな感じにしようとしたのだろう。
でも、ファムってどう見てもジョークなんて言うタイプに見えないから、私は逆に面白いかもしれないと思った。
ファムは、少し頬を赤らめると何事も無かったかのようにサヒュアッグの屍を再び調べ、背中の部分の傷を見せてくれた。
「全部じゃないけど、やたらと背中を斬られたり刺されたりしている屍が多い。きっとここで死んでいるサヒュアッグ達は、何かから逃げまどって殺されたんじゃないかと推測できる」
「なえるほど。その何かが、このサヒュアッグの巣を襲撃したという訳ね」
「うん。辺りに無数の銛などの武器。サヒュアッグも応戦したようだけど……しかも、そこら中に滴るサヒュアッグの血からしても、ここで起きた惨劇はファム達が来る少し前にあった感じだ」
「それって、もしかしたらこのサヒュアッグの巣の中に、私達意外にもここを襲撃しに来た何かがいるかもしれないってこと?」
「そうなる。そしてその何かがここにいたのは、ついさっき。アテナがいうような確率は、極めて高い」
サヒュアッグ以外にも何か得体の知れない敵がいる。私はすぐに、ここを脱出する事にした。
しかし、少し決断が遅かったかもしれない。
空洞の出口へ向かおうとすると、何十匹もの魔物の声が外からした。大量のサヒュアッグを殺した奴らが、ここへやってくる。
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〚下記備考欄〛
〇サヒュアッグの銛 種別:武器
丈夫な棒の先端に尖った石を巻き付けている。石自体は、砕いて手頃なサイズにし、それを他の砥石の代わりになる石で、削ったり磨いたりして作り上げた物。原始的な武器だが銛である事を目的として作られている為、水中でも投げたり刃に返しがついていたりとサヒュアッグの工夫が練り込まれている。




