第216話 『闇が広がる水中洞窟』
行動に移る前に一つ、気になっていた事を確認した。
「一応、聞いておきたいんだけど……シャルロッテってさ、強いの?」
「オーーホッホッホ。愚問ですわね。…………強いに決まっていますわ。でなければ、このような大洞窟に平気でいつもでもいたりしませんわ」
高らかに笑い、自信満々の表情で答えるシャロッテ。
スタイルもいいし、顔も綺麗なのにもう少しこの典型的な貴族のお嬢様特有の気質がなければ、もっと可愛く見えるのにね。私はシャルロッテの事を惜しいなあと思いながらも、彼女の見事なまでの縦巻きロールに目をやった後、ファムの方に目を移した。
「ファム、探知魔法は使える?」
「うん、任せて。この場所に集う風よ! ファムに周囲の状況を教えて! 《風の探知魔法》!」
お願いするなりファムは、すぐさま探知魔法を使用してくれた。ファムの発動させた魔法に影響されて、風がふわりと舞い上がる。
「いるね。1、2、3、4、5……洞窟の中には沢山いる。サヒュアッグである事は間違いないと思うけれど」
「ありがとう。それじゃ、これからあの子達を助けに行くけれど、二人とも準備は大丈夫ね。武器は二人とも、あるよね?」
頷く二人。
「ファムには、この槍があるし……いざとなったら、魔法で風の剣を生成できる。攻撃魔法も使用できるし準備万端」
ファムの冒険者としての強さも経験も、実はもう信じている。でも心配なのは……シャルロッテの方を、振り向く。
「なんですの? 大丈夫だと言っているでしょ? わたくしには、これがありまの」
そういえばシャルロッテの服装というか、身にまとっているのはビキニなんだけど、上半身には水着の上からシャツを一枚羽織っており、腰にはベルトをしている。それが気にはなっていたけど、ベルト――お尻の方へ鋼鉄製の長い武器を身に着けているなと思っていた。
シャルロッテはその長い武器を掴むと、ベルトから抜いて私とファムに見せてくれた。それはよく切れるナイフのような刃が鱗のように、いくつも重なり連結しており、相手を拘束するというよりはスライスするのに特化しているような鋼鉄製の鞭だった。
「これは? 鉄製の鞭?」
「オーーホッホッホ。そうですわ。これは、鋼鉄鞭というわたくし愛用の武器。まあでも、サヒュアッグ程度の魔物であればこれでも十分ですわ」
シャルロッテは、そう言って鋼鉄鞭を再び腰の方へ吊るし、代わりに革製の鞭を見せてくれた。こんなに鞭ばかり装備しているお嬢様って……どちらかというと、女王様とお呼び!! っていうようなイメージのキャラの方がしっくりくる感じがした。
「解った。じゃあ、ここから湖の中へ潜って、奴らのいる洞窟へ侵入するわよ。中はどうなっているか解らないから、先頭を私とファム。シャルロッテは、後方からついてきて。それで何かあったら援護して。ミリー、必ず二人を連れてもどるから!」
「はい! メールとユリリアのこと、よろしくお願いします!」
「うん。任せて」
ザバーーンッ
大きく息を吸い込んで、潜水――――地底湖の中に洞窟がある。
ゴボゴボゴボ……
とりあえず、周囲に危険な魔物の気配はない。そのまま水中の洞窟に入って真っ直ぐ進む。
ゴボゴボゴボ……
…………あれ、中は真っ暗だ。
地底湖自体は、この大空洞の天井部にあるライティングストーンの光で辺りを月明かりのように照らし出していたけど、ここにはライティングストーンがない。
地底湖の中にある洞窟だから光が届かないのだ。まずい……暗闇の中だから、手探りで進んでいる方向も解らないし、息が……このまま出口を見失って彷徨っていたら、もたない。息が続かなくなったら私達、どうなっちゃうんだろう。
サヒュアッグに連れされてたあの冒険者の子達を、すぐにでも助けに行かなきゃって思って急いだけど、これはまずいかも。まさに、うっかりだ。
そんな事を考えていると、急に死への恐怖が頭の中を支配し始めていた。心臓の鼓動も早くなってきている気がする。
私は慌てて暗闇の中で、後方に手を伸ばした。……柔らかい感触。シャルロッテだ。私はシャルロッテの手を握って引っ張った。更に反対の手を伸ばすと、ファムらしき手が私を掴んだ。よし、空気のある場所がどちらかは解らないけど、迷っている暇はない。二人を連れてなんとか、水中から脱出しないと。
ミリーはどうやって、奥にあるだろうサヒュアッグの巣からこの暗闇の広がる洞窟を通り抜けてきたのだろうか。いや、きっと死に物狂いで脱出できたのだろう。私もなんとかしなければ、ならない。
呼吸ができず段々と苦しくなり、圧迫されるような感覚に陥る。ファム? シャルロッテ? 二人は無事? 苦しさのあまり、もがいて岩に頭をぶつける。うっ……苦しい。
――――このままじゃ、救出に行くどころか行く前に私達は全滅する?
ゴボゴボゴボ……
怖いという思いが脳裏を過ったその時だった。目の前にファムの姿が現れた。シャルロッテも。二人とも、緑色の光で照らされている。
……もしかして!
ファムの方を見ると、彼女は手から緑色の光を放つ球体を発生させていた。
これは、もしかして風属性のライティング魔法!? 周囲もある程度、見渡す事ができる位の光。これならこの光の届かない洞窟の中でも、どちらへ進めばいいか解る。
ファムが「あっちかも」って感じで指をさした。私はファムに抱き着いた。すると、ファムは何を思ったのか私の口へ自分の口を押し付けてきた。え? 嘘? いきなりのファムの口づけに頭の中が真っ白になった。
ゴボゴボゴボ……
とても柔らかい、ファムの唇……
口づけによってファムの口から、私の口の中へ大量の空気が流れ込んできた。これはいったいどういう事。ファムは、私にした事をシャルロッテにもして全員に酸素供給をした。
そして、自分の口元を指でさした。
あっ。ファムの口元に、何か空気の層のようなものがマスク上に覆っている。
それを見て、ファムが水中でも息をする事ができる魔法の使い手なのだと解った。ファムがいなかったら、私とシャルロッテはここで死んでいたかもしれないと思った。
いくら一刻を争う事態で急いでいるからって、ぜんぜん状況把握できていなかった。迂闊な行動をとってしまったと私は深く反省した。
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〚下記備考欄〛
〇鋼鉄鞭 種別;武器
シャルロッテの愛用の武器。鋼鉄製の鱗のようなものが、いくつも重なって鞭になっている。見るからに、触れるだけでそれを切断できそうな武器。かなり特殊な武器なので、価値もありそうだ。




