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第212話 『大地の香り』



 ――――洞窟内にある空洞で、吹き抜けた場所。ミューリとファムに教えてもらったこの場所は、空が見えるまで吹き抜けた天井から陽が差し込むだけでなく、洞窟内の湧き水が流れ込んでいる場所でもあり、岩だらけの洞窟世界ノクタームエルドでは、楽園ともいうべき場所だった。


 地面には土が積もっており、苔だけでなく草や木まで生えていた。そして、その草木が生い茂る辺りには薬草や食用の野草が自生している。もちろん、キノコも。



「アテナ! これ見てください!」



 そう言って嬉しそうにこっちへ駆けてくると、ピョンピョンと飛び跳ねる猫耳少女。今はもう、この子の事を実の妹のように思っている。まあ、それはルシエルも同じだろうけども。フフフ。


 ルキアの手を見ると、黒い粒粒した房を持っていた。



「なにそれ、葡萄?」


「はい! あっちの木の辺りを何かないかなって見ていたら、木に蔓が巻き付いていて。それでもしかしたらって、辿ってみたらその先に葡萄が実っていました。これ、食べられるんでしょうか?」


「食べられるよ」



 やり取りを後ろで聞いていたファムが即答した。



「わーー、やっぱり! じゃ、じゃあ私、ちょっと食べてみてもいいでしょうか?」



 葡萄を大事そうに持って、上目遣いにお願いしてくるルキアに癒されながら、笑って答えた。



「ルキアが見つけたんだもん。ファムが食べられるって言っているし、ルキアが食べたいなら、食べてみればいいと思うよ。だけど、美味しいなら私も食べたいなー」



 食べられると言ったファムは、当然この葡萄の味を知っているのだろう。だけど、ファムは軽く笑って葡萄の味の事を言わなかった。


 フフフフ。私には、そのファムの行為が温かいものに思えた。経験する前に言ってしまったら、面白くないもんね。私の師匠、ヘリオス・フリートの言葉を借りるのであれば、そんなの経験する前に言ってしまったら情緒がないっていうのかな。



「はい! じゃあ、ちょっと食べてみますね」



 モグモグモグ……



 葡萄を頬張るルキア。



「うおおおお!! だっしゃーーーー!!!!」



 ギギギャーーーーーー!!!!!



「てめえ!! やるな!! このパンチで倒れないなんて、なんて蟻なんだ!! もしかして、お前……蟻さんだけに、何処かのロッキーとかいうんじゃないだろうな?」



 ギギ!!



「え? ロッキーか? ロッキーなのか?」



 チラッと見ると、少し離れた所でのルシエルとジャイアントアントの殴り合いのバトルは、未だ続いていた。


 どうして二人? とも、武器だけでなく蹴りも使わず拳だけで戦っているのだろうか? そんな疑問もあったけど、とりあえずやりたいようにやらせておく事にして、私はルキアやファムと葡萄の話を続けた。

 


「味はどう? ルキア」


「美味しい! ちょっと酸っぱみがありますけど、美味しいです!!」



 !!



 ――――酸っぱみ?

 


「え? ルキア? 今、酸っぱみって言った?」


「はい。言いましたよ」


「酸っぱい味って事?」


「はい。そうですよ」



 ファムを見ると、両手で口を押えて、笑って吹き出しそうなのを我慢している。私も、笑ってしまいそう。



「え? え? お、おかしいですか? す、酸っぱみっていいません?」



 みるみると顔を赤くして慌てるルキアの事が、急に愛おしくなってぎゅっと抱きしめた。そして、葡萄を一粒もらって口の中へ放り込んだ。


 う、美味い!



「美味しい!! これ、この葡萄もいくらか採ってキャンプへ持って帰ろうよ」


「はい。じゃあ、まだ沢山あるので、あった場所へ案内します。こっちです」



 これだけ、色々なものがここにあるんじゃ、大蛇やジャイアントアントなどの魔物が沢山この場所へやってくるのも頷ける。


 ノクタームエルドに入る前は、こんな場所や大地底湖、それにロックブレイクみたいな拠点があるなんて知らなかった。そう思うと、やっぱり冒険は楽しいなと思う。


 ルキアの指し示す方へ、ファムと一緒に向かうと沢山の葡萄が実っていた。



「あるだけ採っちゃうと、後でここに来る冒険者や魔物達が困るだろうから、必要な分だけ頂いちゃおうか。私達の分と、キャンプで待っているミューリとカルビの分。あと、私達のキャンプの近くにいた女の子冒険者三人組と、あとーーしょうがないからシャルロッテ達の分かな」


「あははは。結構、採らないといけないですね」



 ファムが更に向こうの方を刺した。



「あっちにもあるから、沢山採っても大丈夫。赤い実の果実もあるから、それも美味しいから採っていくといい」


「そうなんだ! それじゃあ、その赤い実も採っていこう」


「赤い実はあの木に実っている」



 私達は夢中になって果実を採取した。


 十分に果実が採れたところで、そろそろミューリとカルビの待つ地底湖へ戻る事にした。その前にもう一度。ゴロン……



「うううううーーーーんん」



 土と草の上にゴロンと大の字に寝転がって空を見上げた。水着なので、草が肌に触れてちょっとくすぐったいけれど、久しぶりの土と草木のにおいに癒される。少し湿った土の感触も気持ちいい。油断すると、眠くなる。



「わ、私もいいですか!!」



 隣にルキアがゴロンと寝転がって、私と同じく大の字になって空を見上げた。更にそれを見ていたファムも、ルキアに続いて横になり、私達は仲良く川の字になって暫し黄昏た。



「あっ。鳥が飛んでますね。なんだか、ずっとこうしていると眠くなりますね」


「ミューリといつも行動している時には、こんな事はしないから新鮮だ。アテナは、とても不思議な子だね」


「それって、誉め言葉?」


「うん。素敵な子だっていいたかった」


「フフフー。ありがと、ファム」



 まったりとした所で、向こうの方から大きな打撃音とルシエルの雄叫びが聞こえて来た。



「どうやら、勝負がついたみたいだね」っとルキアにいうと、ルキアはにっこり笑って「そろそろキャンプへ戻りますよ」ってルシエルに声をかけてくると言った。



 私は洞窟の外の空気と、草木のにおいを惜しんでもう一度深呼吸した。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇洞窟葡萄 種別:食べ物

洞窟内ではなく、洞窟周辺に生えている事が多い葡萄。洞窟にはマナが濃い場所が多く、そのマナを取り込んでいる洞窟葡萄も多い。アテナやルキアが採取した葡萄で、本人たちは気づいてはいないが魔力補給にもなっている。


〇レッドベリー 種別:食べ物

大洞窟の空洞で見つけた、食べられる赤い実。クラインベルト王国の森でも採取できる場所があり、人間だけでなく獣や魔物、鶏などの食べ物にもなっている。街などのお洒落なカフェなどで出てくるタルトなんかのケーキの上に乗っていたりする場合もある。


〇ロッキー

ロッキーと言えば……蟻さん? ヨルメニア大陸には、ボクシングもあります。

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