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第211話 『大蟻』



 薬草と、食用にできる野草を採取した。ついでにキノコも採ったので、これで残っているブルーブレイドクライブの肉を使えば、蟹鍋が食べられる。


 フフフ……想像すると、口の中に唾液が――――ごくりと唾を呑み込んだ。



「てめーー、このやろーー!! なんだってんだ!! オレになんの恨みがあるんだ!!」


「ルシエル、危ないですよ!!」



 シャアアアアア!!



 ふと見ると、ルシエルとルキアが大蛇と格闘していた。あの蛇の魔物は、噛まれると凄く痛いけど毒は持っていない。以前、退治した事があるし、ルキアにプレゼントした色々な魔物の情報が記された本にも記されているから間違いない。だから、まあ二人に任せておいても大丈夫だろう。


 シャアアアア!!


 大蛇が動いた。


 頭が動いたので、そのまま噛みついてくると予想したルシエルとルキアは、攻撃をよけようと素早く大蛇の横へ動いた。


 しかし次の瞬間、頭ではなく尻尾の攻撃が二人を襲う。予想外の攻撃に、二人は固まってしまって、反応できない。蛇は己の尻尾で大きく横薙ぎに払い、それをまともに喰らったルシエルとルキアは勢いよく草葉の方へ飛ばされた。



「ごふうっ!! あーーれーー」


「きゃあああ!!」


「ええええーー!! 嘘でしょ!? ルシエル、ルキア大丈夫?」



 ファムが二人の元へ走っていく。二人の傍まで駆け寄ると、無事を確認するとルシエル達と一緒にこちらに手を振って見せた。



「もう! いっつも、変な所で油断するんだから。何事もなくて良かったけど、一瞬ヒヤッとしたよ。ほんとにルシエルはー」



 『ツインブレイド』は、持ってきていた。この二振りの剣は師匠からもらった大切な剣。だからいつも、肌身離さずに持ち歩いている。



「こうなったら、私が仕留める!」



 一振りだけ剣を抜いて、駆ける。目前の大蛇。


 シャアアア!!

 

 今度は、私めがけて頭の方が攻撃をしてきた。噛みつき。私は大蛇とすれ違う形で、サッとよけると同時に剣を払いあげて大蛇の首を斬り飛ばした。血飛沫。大蛇はその場にドスーーンという音と共に崩れ落ちた。



「ふう、倒した。ルシエルもルキアも油断しすぎだよ。怪我はしなかった?」



 声をかけながらルシエル達の方を見ると、今度は3人全員が何か黒いのと取っ組み合いをしていた。


 嘘でしょ⁉ まったくもー、次から次へと!!



「にゃろーー!! なんだ、こいつら!! 物凄い力だ!!」


「ひゃあああ!! 押し負けてしまいます!!」


「ここは、ファムに任せて!! この蟻どもめ、吹き飛べ!! 《強風撃(エアショット)》!!」



 ファムの風魔法、強風撃(エアショット)。翳した手から、ルシエルの突風魔法(ウインドショット)さながらのような風の衝撃波が放たれた。ファム達に襲い掛かってきた大きな黒い虫達は、次々と吹き飛ばされた。しかし、再び起き上がるとそれで懲りた様子もなく、こちらにずんずんと近づいてくる。



 ギギギギ……

 


「ファム。この魔物は? 蟻の魔物?」


「そう、蟻だよ。ジャイアントアントっていう蟻の魔物。ノクタームエルド全域で生息している、さほど珍しくもない魔物だよ。だけど凶暴で人を襲うから、たまに現れると冒険者やドワーフ達が討伐しているんだ」


「全部で6匹か。じゃあ、半分ファムに任せても大丈夫?」


「うん、いいよ。任せてくれ」



 ギギッギーー!!



「でも――6匹全てでも、ファムはかまわないよ! 吹き飛べ! 《強風撃(エアショット)》!!」



 ファムの風魔法。近くにいるジャイアントアントを再び、強風で吹き飛ばし岩壁に叩きつけた。その隙に私は別のジャイアントアントと距離を詰めて、剣で斬りつけ突き刺し、更に突き刺す。瞬時に、3匹倒した。



「ふっふーーん、どう? ファム? 半分任せてもって言ったけど、私だって6匹全部相手にしようと思えばできるんだよ」


「むっ! やっぱりやるな、アテナは。ならファムも!」



 ギギギギーー!!



 残りの3匹がファムに襲い掛かった。しかし、ファムはもうすでに次の魔法を詠唱していた。手を振りかざし、唱える。



「風の剣よ! 《風の剣(エアブレード)》!!」



 ファムの右手に風が集まり、魔力を帯びた風は凝縮されて、やがて剣になった。風の剣。ファムがこんな風魔法を使えるなんて。風魔法のスペシャリストだとは思っていたけど、これには驚いた。クラインベルトの王宮でも、こんな魔法を使えるのって爺くらいじゃないだろうか。



「やあああああ!!」



 ファムは、風の剣を巧みに扱って残り3匹のジャイアントアントを見事に斬り倒した。



「やるわね、ファム」


「アテナこそ、惚れ惚れする剣裁きだったよ」



 お互いに称えあって、拳をポンと合わせた。


 剣の腕もなかなかのものだし、この強力な風魔法の上に、レパートリーも豊富。ファムやミューリが私達のパーティーに入ったら、本当に心強い味方になるだろうなと思う。



「だっしゃーーー!!」



 ん? ルシエルの声。振り返ると、どうやらもう1匹ジャイアントアントがいたらしく、ルシエルはそれと戦っていた。しかも、素手で⁉



「アテナー! ルシエルが!」


「ルキアは大丈夫? 怪我はない?」


「はい。でも、ルシエルが!」



 ファムと一緒にルシエルの助太刀に入ろうとしたその時、ルシエルはこちらに向けて声を張り上げた。



「来るんじゃねーー!!」



 え? なんで?



「こいつはオレが倒す! オレに任せろい!」



 ギギギ!!



 ルシエルがファイティングポーズをとって構えると、ジャイアントアントも対抗するように構えた。信じられない事だが、このジャイアントアントは徒手格闘でルシエルと決着をつける気らしい。若干、他の個体より色が薄く大きさもあるのでもしかしたら、ジャイアントアントの亜種かもしれないけれど、それでもお互い素手で戦うってどういうつもりなんだろう。



「いくぜ!! オラアア!!」



 ギギギー!!



 ルシエルとジャイアントアントの拳が交差する。お互いに紙一重にパンチを避けると、再びパンチを放った。



「もう、ルシエルはーー」


「ルシエルは大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫みたい。ここで観戦してるのもなんだし、今のうちに私達は薬草とか採取しちゃおうか」



 助太刀してあげようと思ったけど、ルシエルの顔を見てやめた。


 あの顔は、カッサスの街でのクルックピーレースでも見せた顔。


 ルシエルが、楽しんでいる時の顔だった。折角楽しんでいるのに、邪魔しちゃ悪いよね。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ジャイアントスネーク 種別:魔物

蛇の魔物で、シンプルに大蛇とも呼ばれている。大きな蛇で、獲物に巻き付き絞め殺す。そして、丸呑みする。毒蛇ではないが、勢いをつけた尻尾攻撃は強烈。


〇ジャイアントアント

蟻の魔物。大きさは、犬位のものから、人間サイズまである。力持ちで、群れで行動をする。攻撃的だが、働き者。ノクタームエルドには物凄い数のジャイアントアントがおり、それだけ数がいると一味違った個体も生まれる事もあるのだ。


〇カッサスの街

ガンロック王国にある街。クルックピーという、馬のように騎乗して走る事のできる鳥のレース場がある。アテナとルシエルはそのレースに出走し、ルシエルはなんと優勝してしまった。


強風撃(エアショット) 種別:黒魔法

下位の風属性魔法。精霊魔法の突風魔法(ウインドショット)によく似た魔法。対象を吹き飛ばす位の強風を、手の平から放つ魔法。

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