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第210話 『吹き抜けで、癒されて』




 朝食を食べ終わった。


 今日は、この地底湖でもう一泊キャンプをする。少し、離れた所に別のテントが見えた。眺めてみると、中から昨日会った3人組の女の子冒険者が現れた。なるほど、あの子達も昨日はここでキャンプをしたんだ。


 挨拶がてらに、ルキアと一緒に余分に作った朝食を、その子達にもおすそ分けした。焼いた魚と蟹。彼女達は喜んでくれたので良かった。


 話をしてみると、彼女達も明日までここでキャンプをするらしい。だったらまた、今夜でも一緒にご飯でも食べようと声をかけておいた。


 キャンプに戻ると、ミューリが言っていた薬草など野草が生えている場所があるという所へ出発する準備を皆整えていた。だけど、やっぱり全員水着。まあ、私もだけど――――


 水着姿にザックを背負い、武器を装備する。あれ? ミューリは焚火の前に座ってこちらへ手を振っていた。ルシエルが言った。



「あれ? ミューリは行かないのか?」


「うん。不必要な荷物はここへ置いていくでしょ。それなら誰か、キャンプで留守番した方がいいから僕が残るよ。心配しなくても、例の場所にはファムが案内するから」


「いいの? ミューリも行きたかったんじゃない?」


「いやいや。僕とファムは、そこには何回も行ってるからね。僕には遠慮しないで行ってきてー」



 ミューリは無邪気に笑った。その表情は、本当にそう思って言っているという感じだった。だけど、ミューリ一人お留守番っていうのもねー。うーーん。



 ガルッ!



 カルビと目があう。そうだ! 君がいたね!



「えええ⁉ いいの? いいの?」


「うん、じゃあミューリ、カルビ! 留守番お願いね」



 カルビがミューリと共にキャンプに残ることになった。ミューリは喜んで、カルビを抱きしめた。暴れるカルビの背に幸せそうに顔を埋めるミューリ。



 スーーハーー、スーーーハーー



「ミューリが、カルビのニオイをすんごい嗅いでるぞ!! カルビ、逃げろおおお!!」


「あーーーん!! カルビ――!!」



 それを見て、笑い転げるルシエル。一応助ける素振りだけ見せるルキア。カルビはもう、ミューリにされるがままになっていた。



 ガルウウウ!!



「スー―ハーー、たまりません! これは、ものっそい癒されますなーあ」

 


 すんごい、カルビのにおいを嗅いで癒されているミューリ。でも解る。少なくとも、私とルキアはいつも嗅いでいるから解る。だってカルビってなんか、干し草みたいないい匂いがするんだよね。


 そんな光景を目に、笑って出発した。


 先頭をファム。それに私とルキア、ルシエルと続いた。



「ミューリが言っていた場所って、ここから近いんでしょ?」


「うん。それ程、遠くはない。徒歩で一時間しない位?」



 1時間もかかるんだ。いつもの旅している服装なら別に大した時間でもないんだけど、地底湖から離れて洞窟内を水着で歩き続けるというのは、なんとも落ち着かない。ルシエルは……まったく動じていないけど、ルキアは私と同じく落ち着かないのか、常に手をお腹に当てている。


 40分位、歩き続けた所で水の音がした。ルシエルが走る。



「水だ水だー! 水の音がするぞ! 湧き水かな?」


「うん。湧き水だね。ここで少し水分を取っていこう。どちらにしても、もう目的地に到着するしそこでも水を飲めるけどね」


「そうなんだ。じゃあ、ここでは少しだけ水分補給していこう」


「はい!」



 天井に近い場所、岩の割れ目から湧き水が大量に流れ出ていた。そこで、水を両手で掬って直に飲んだ。水は冷たくてとても美味しかった。


 それからまた暫く歩くと、大きな空洞に出る事ができた。空洞には、ひび割れた壁から湧き水が流れ出している場所があり、そこから流れた水が溜まって池のようになっていた。しかもその周りには草や木が生い茂っていたのだ。


 ――――光。


 空洞に入ると、足に伝わる感触。岩ではなく土。もう何年も土なんて踏んでいないような不思議な感覚に襲われる。ファムが言った。



「空を見上げてごらん」



 空? ここは、ノクタームエルドという洞窟世界の中。今も洞窟内部にいるのだから、空というのはおかしい。上を見るというのであれば、空ではなく天井というのが正しいのでは?


 私もルシエルもルキアも、そう思いながらその場で見上げた。すると、その先には確かに天井ではなくファムが言ったように、大空が広がっていた。



「うわあーーー!!」


「ここは天井部が吹き抜けている場所なんだ」


「す……凄い。こんな場所があるなんて」


「探せばこんな場所は、他にもいくつかある。ノクタームエルドじゃ、一度大洞窟に足を踏み入れると、次にいつ空を見る事ができるか解らないからね。ここは、陽の光を浴びる事のできる大切な場所だよ」



 私は久しぶりに感じる土や草木が嬉しくて、大きく深呼吸するとその場に座り込んだ。土と草は少し水気があって水着――お尻の部分が少し濡れてしまった。だけど、久しぶりの感覚が嬉しくてそれさえも心地良かった。

 

 立ち上がり、お尻についた土を払うと、周囲を見回す。確かに、これだけ広い場所にこれだけの草木が生えているのなら、薬草も自生していてもおかしくない。


 ファムが指をさした。



「あそこ。あの草が生い茂っているところで、いつも薬草が採取できるよ」


「じゃあ早速、薬草と食べられる野草を採取しましょうか!!」



 おおーーー!!


 ルシエルとルキアが、大きく手を挙げた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇カルビ 種別:癒しアイテム

カルビを鼻の下に張り付ける要領で、カルビに顔を押し付けて匂いを嗅ぐ。干し草みたいないい匂いがするようで、とても癒される。アテナはたまに、カルビと二人っきりになるとルシエルやルキアに隠れて、カルビのお腹に顔を埋めたり頭の匂いを嗅いでいるようだ。逃げろー、カルビ―!

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