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第21話 『クラインベルト王国 その1』 (▼セシルpart)






 ――――――クラインベルト王国。王宮、玉座の間。



 娘が帰ってきた。嬉しくない訳ではないが、それよりも先に突っ込みたい。いったいなんだ? その冒険者のような恰好は? 



「我が娘、アテナよ。その…………そなたは、この国の王女じゃ。久しぶりに父と会うのじゃから、ドレスとかそれなりの正装で……」



 言い終える前にアテナが口を開く。頬っぺたがプックリ膨らんでおるぞ。やはり、えらく怒っておるわ。



「これが私の正装なのです!! それに、無理やりと言っていい。囚人の拘束に近い形で、引きずって連れてきて、それはないんじゃないですか?」


「あ……まあ、その……そうでもせんと、嫌がって帰ってこんから…………」



 困った。困ったぞ。アテナには、本来、王女としてあるべき姿でいて欲しいものじゃが、あれ以来キャンプなどという物にハマりよってからに。挙句の果てには、王女の職務を放り出して城を抜け出し冒険者になってしもうた。手が付けられん。しかし、王として……父としての責任がある。


 消息不明になってからは、ずっと近衛兵長ゲラルドに銘じてその行方を捜索しておったが、その間にアテナは冒険者になっており、あちこちの野山で寝泊まりしておったようで、全く足取りが掴めんかった。それが、ある日、エスカルテの街のギルドマスターのバーン・グラッドから王女を見つけたと報が入ったんじゃ。余は、すぐにゲラルドに命じて、アテナを迎えに行かせた。



「父よ!!」


「な……なんじゃ?」



 我が息子、エドモンテ。アテナの弟でもある。



「姉上は、この国の王女という自覚が無さすぎます。このような事では、我がクラインベルト王国に汚点を残しますぞ。良いのですか? この誇り高きクラインベルト王家に汚点を残しても」


「エドモンテ!! 汚点って何よ! 汚点って! しかも、あなたまだ10歳でしょ! なんで、そんなに生意気で口が立つのよ!」


「フンっ! 姉上がしっかりしておらぬのだ! その分、弟がなんとかせねばならんでしょうが!」


「むっきーーーー!!」



 おい、やめんか。娘の頬が、今にも弾け飛びそうな位に膨らんでおるぞ。



「それに、汚点は汚点でしょう? はっきりと申し上げているまで。我がクラインベルト王国の王族ともあろうものが、城を抜け出し冒険者に落ちる。それだけでは、飽き足らずキャンプなどと下賤な行いまで……それが汚点で無くてなんて言うのです?」


「また汚点って言った!! 汚点ってゆーな! 私は、自身がキャンパーという事に誇りを持っているの。あなたにだってそこは、馬鹿にされたくないわ」


「ふう……やはり、姉上とは解り合えませんね。兄弟と言っても実際は……」



 アテナがエドモンテを睨みつけた。



「こ……これ!! 二人ともやめんか!!エドモンテもそれ以上、言うな! 斯様な兄弟の醜い争いなど、このような玉座の間で見たくはないぞ。二人とも、自身の事をもう子供ではないと思っているのであれば、自重した発言と責任を持った行動をせよ!!」



 …………



 ぬぬぬ。二人とも黙ってしまった。少し、言い過ぎたかもしれん。



「もうよい。夕食まで、二人とも自室に戻り休むがよい」


「お父様!」



 何か喋ろうとするアテナを手で制した。



「もうよい。続きは、夕食で話そう。あと……その時で良いのでエスメラルダにも謝るのだぞ」



 アテナは、エスメラルダの名を聞くとプイっと横を向いた。ふーーむ、困ったものだ。




 

 

 ――――夕方。



 アテナの事もあったのだが、あれから執務室でやらねばならない事があったので、籠っているとあっと言う間に夕食の時間になっていた。



「陛下! 夕食の時間にございます」



 執事が知らせにやってきた。首をグルっと回す。疲れた……あとで、マッサージでも手配させるか。



「では、参るとするか」



 食堂に入るとすでに妻や子供達が席に座っていた。息子エドモンテと妻のエスメラルダ、それに一番下の娘ルーニ。本来ならば、長女のモニカもいるが、モニカは、今はこの王都にはいない。


 王の席に座り見回す。…………む。アテナが来ておらぬではないか。まさか、まだ拗ねておるのか。全く……。



「これ。誰か、娘を呼びに行き、ここへ連れてまいれ」



 執事は、頭を下げ部屋を出て行った。エドモンテは、舌打ちするとエスメラルダが不機嫌そうに言った。



「あの子は勝手にやっているのでしょ? 呼びに行っても来るかも解らないですし……それなら、先に夕食を頂きましょう。それかもしくは…………私達は先に食べてよろしいでしょうか?」


「おいおい。エスメラルダ。折角、久しぶりに娘が帰ってきたのだぞ。もう少し……なあ?」



 エドモンテがため息をつく。それに気づいたエスメラルダが苦笑してみせた。



「あなたのでしょ?」


「なに? エスメラルダ。今、なんと申した?」


「あなたの子でしょ、あの娘は? 私の子供は、このエドモンテとルーニだけです。

 この国にやって来た時にもそれは、はっきりと申し上げたはず」


「それは言っておったが余も答えたはずじゃぞ。モニカとアテナも余の子供じゃ。おまえにも自分の子として接して欲しいと」


「はっ! 無理ですわ」



 エスメラルダは、鼻で笑った。



「初めて会った時から私は、あの子の事が気に食わないですし……何よりも、あの子が私の事を嫌っているようですから。一生、この距離は、縮まりませんわ。…………さあ、もういいですわ。エドモンテ、ルーニ。一緒に、私の部屋で食事にしましょう」



 エスメラルダがそういって立ち上げると、エドモンテもそれに続いた。しかし、ルーニの様子は違った。



「お姉さま、帰って来ているの?」


「そうだぞ、ルーニ。おまえも余と同じく、ここでアテナを待って一緒に食事をしよう」



 そう言うと、ルーニの顔がぱあっと明るくなった。しかしその途端、エスメラスダがルーニの手を強引に引っ張り、余を睨みつけた。その光景に、エドモンテがため息をつく。



「もういいでしょう。母上。私もいい加減、お腹が空いておりまして。致し方ありませんが今日の所は、親子三人で夕食にしましょう」



 エドモンテが呆れたように言うと3人とも食事もせず、食堂から出て行ってしまった。


 ………………


 モニカとアテナは、前の女王――――ティアナの娘なのだ。ティアナの死後間もなく、余は隣国ヴァレスティナ公国のエゾンド・ヴァレスティナ公爵の娘エスメラルダと再婚した。


 政略結婚だった。ティアナの死後間もない、強引な結婚だという事は解っていたが、どうしてもその時に我が国に軍事侵攻してきていたドルガンド帝国の攻撃を撥ね退ける為には、必要な結婚だったのだ。


 考えてみれば、国の存続と平和の為であったとはいえ、当時7歳のモニカと4歳のアテナには何の相談も無く結婚したのだ。悪かったと思っているし、アテナやモニカだけでなく、エドモンテやルーニにも辛い思いをさせたと思っている。エスメラルダもああいう性格だしのう。それは解っている。


 暫くして、アテナを呼びに行った執事が戻って来た。…………アテナの姿はない。



「アテナは? 自室におったのか?」」


「……い……いえ」



 な……なに? まさか!!



「見つからなかったのか? まさか、また逃げ出して……」


「いえ。アテナ様は、その……あの……」



 執事は、アテナの行方を知っている。そして、なぜか物凄く言いにくそうだ。



「かまわん。答えよ」



 執事は、唾をゴクリと呑み込むと困った顔をして、しどろもどろしている。額に汗。すると、その執事の後ろに控える王室メイドが代わりに、答えた。この綺麗な長い黒髪のメイドの名は、セシリア・ベルベット。優秀なメイドで、王室メイドの中でも、余が一番に信頼をおいている。



「アテナ様は、中庭におられます」


「中庭だとな?」


「はい。中庭にテントを張って、焚火で肉を焼いておられます」



 …………は?



 え? 理解できないんだけど⁉


 え? は? 肉? なんて言った?


 この王都クラインベルト城の城内……王宮の中庭で、テントを張って焚火に肉だと⁉



「陛下!!」



 腰を抜かしかけた所を執事とセシリアに支えられた。



「あ……案内せよ!」


「はっ!」



 モニカにもこういう気質はあったが、アテナの破天荒ぶりは、ずば抜けている。ティアナ……母親譲りだな。


 余は、執事とセシリアと共に、急いでアテナがいるという中庭へと向かった。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇セシル・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国の国王。そして、アテナの実の父親。娘の事をいつも心配して気にかけている。


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、冒険やキャンプ好き。ついでに食べる事も大好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。冒険者になる前は、クラインベルト王国で第二王女をやっていた。


〇バーングラッド 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王都を除いて二番目に大きな街エスカルテにある冒険者ギルドのギルドマスター。マンティコア討伐依頼をアテナに受注させ同行するが、その後アテナの正体に気づき王国へ報告した。


〇ゲラルド・イーニッヒ 種別:ヒューム

クラインベルト王国近衛兵隊長。ラスラ湖で湖畔キャンプを楽しむアテナを見つけ、王国へ連れ戻した。かつてはクラインベルトの名将と呼ばれ、その剣の腕は王国最強とも呼ばれている。


〇エスメラルダ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王妃。セシル王は、軍事侵攻をもくろむドルガンド帝国を脅威に感じ、大国ヴァレスティナ公国と親密な関係を築く為、エスメラルダと再婚した。アテナとモニカの義理の母で、エドモンテとルーニの実の母。ヴァレスティナ公国のエゾンド公爵の実の娘。アテナと仲が悪い。


〇エドモンテ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王子。エスメラルダの実の息子で、エスメラルダがセシル王と再婚した時に、彼女と共にクラインベルト王国へやってきた。母エスメラルダと共にアテナへ対して良く思っておらず仲が悪い。だが、彼の場合は王族としての使命を投げ出し好き勝手冒険者に身をおとしているアテナの行動そのものに嫌悪を抱いている。エドモンテの父は、誰だかはまだ明かされていない。10歳とは思えない程、しっかりした考えを持っていてゆくゆくは自分がクラインベルトの玉座につきたいと思っている。


〇ルーニ 種別:ヒューム

クラインベルト王国第三王女。モニカとアテナの妹で、セシル王とエスメラルダ王妃の間にできた子供。エドモンテと違い、父はモニカやアテナと同じくセシル王である。活発で好奇心旺盛な性格で兄のエドモンテや母エスメラルダと違い、モニカやアテナに懐いている。


〇ティアナ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の今は亡き、前王妃。モニカとアテナの実の母。


〇エゾンド・ヴァレスティナ

貴族が支配する大国、ヴァレスティナ公国の公爵。エスメラルダの実の父で、エドモンテの祖父にあたる。


〇モニカ・クラインベルト

クラインベルト王国の第一王女。アテナの実の姉で、セシル王とティアナ前王妃の娘。智謀に長け、剣の腕に優れる彼女は今もクラインベルト王国に攻め込もうとしているドルガンド帝国を牽制するべく、北方の城で防衛に力を注いでいる。かれこれ、王都には戻っていない。


〇セシリア・ベルベット 種別:ヒューム

クラインベルト王国の王宮メイド。セシル王直轄のメイドで、非常に優れている。何よりも自国と国王の為に尽くしている。長い黒髪と常時かけている眼鏡が特徴。


〇クラインベルト王国

現在アテナのいる国。アテナはこの国の第二王女だった。


〇ヴァレスティナ公国

力のある貴族が集合し支配する大国。国主は、エゾンド・ヴァレスティナ公爵。クラインベルト王国とは同盟関係にある。


〇ドルガンド帝国

クラインベルト王国よりも北方にある軍事大国。民族至上主義で、軍事侵攻による侵略を続けている。かつて、アテナのいるクラインベルト王国にも攻め込んできた歴史がある。





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