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第208話 『帝国と公国の陰謀』



 それぞれがそれぞれの焚火を囲んで、食後のお茶を楽しんでいた。


 お茶というのは、シャルロッテが持参してくれていた紅茶。それを皆で頂いた。ルシエルとミューリに関しては、蟹がよほど気に入ったらしくまだ食事を続けている。口の回りには、蟹の身がついている。


 私は紅茶の入ったコップを手に、シャルロッテの隣に座った。



「……紅茶、ご馳走様です。とても美味しいわ」


「こちらこそ、あなた達のキャンプに迎え入れてくれて、どうもありがとう。感謝していますわ」


「……それで、これはちょっと聞いておきたいんだけど……」



 質問を言い終える前に、返された。



「わたくし達がガンロック王国で、ミシェル王女とエレファ王女を誘拐した事でしょ? もちろん、あなたが十数年前に、あなたの実の母親であるティアナ王妃とともに誘拐された事と関係があるわ。理由は簡単、ドルガンド帝国が来るべき軍事侵攻を有利に進める為に、画策していた事ですわ」


「つまり、表で軍事侵攻、裏でクラインベルトやガンロックの王女を誘拐して、侵略を有利に進めるという計画だった訳ね。って事は、あなたの行動から見てヴァレスティナ公国は、帝国に協力していたんでしょ。それって、クラインベルト王国との同盟を反故にしたって事かしら?」


「その通りですわ。でも、少し違う。ヴァレスティナ公国とドルガンド帝国が裏で手を結んだのは、あなた……アテナとティアナ王妃を誘拐する計画を実行する以前からなのですわ。そもそも公国は、クラインベルトと組む気なんてなかったって事ですわ」


「…………」


「同盟は、単なる謀の一手にすぎない。クラインベルトとヴァレスティナ公国の同盟は、あなた方を欺いて誘拐する為……王都から誘い出すための計画だったのですわ。帝国は上手くいけば、セシル王の首も取るつもりだったみたいだけれど……計画の全てが失敗に終わったわ」



 クラインベルト最強の剣士、ゲラルド・イーニッヒがそうはさせなかった。そして、私の師匠ヘリオス・フリートがその計画を打ち払った。私とお母様を守ってくれた。



「それで、シャルロッテ。質問に答えてくれるのは嬉しいけど、あなたはヴァレスティナ側の人間でしょ? そんな事まで、私に喋ってしまっても良かったの?」



 シャルロッテは自分の金色の髪を片手で払うと、ニヤリと笑って見せた。



「王女誘拐の計画はことごとく、失敗していますわ。だからヴァレスティナ公国は、今回の件でドルガンド帝国が指示した王女誘拐計画から手を引くことにしましたの。ですから、キャンプをご一緒させていただいているお礼として、これ位の情報は差し上げてもかまわないと判断しただけですわ。それにわたくし自身の本音は、悪い事をしているという自覚はありますしね」


「じゃあ、この誘拐計画には今後ヴァレスティナは、協力しないしかかわらないって事ね。因みに今回の件っていうのは、ガンロック王国のミシェルとエレファの件の事かしら?」


「いいえ。クラインベルト王国第三者王女、ルーニ様の事よ」


「え? ルーニ? ルーニがどうかしたの? まさか、あなた達ルーニを誘拐したの!!」



 一瞬頭の中が真っ白になった。ルーニが誘拐された? 嘘? 


 私がまだ幼い頃にお母様と、ドルガンド帝国に誘拐された事があった。その時の事が、頭をかすめる。まさかルーニが私と同じような目にあっている⁉


 え? でも、お父様との約束で、王国に何かあって帰って来いという知らせがくれば王宮に帰るという約束があった。だから……あれから何もないから、てっきり皆……平和に過ごしていると思っていた。


 まさか、ルーニが誘拐されていたなんて。



「それで、ルーニは⁉ ルーニは大丈夫なの?」


「落ち着きなさい。ルーニ様は、心配ありませんわ。帝国領まで、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』という盗賊団に連れ去られた所で、セシル王から勅命を受けた二人のメイドが見事に助け出したそうよ。そして青い薔薇の騎士団という騎士団が、ルーニ様を保護して王都まで無事連れ帰ったそうですわ」



 青い薔薇の騎士団。ローザだ。ローザがルーニを助けてくれた。私はシャルロッテに更に詰め寄った。



「二人のメイドっていうのは、誰なのか名前は解る?」


「そうですわね。確か……、そう! セシリア・ベルベット。それにテトラ。テトラ・ナインテールという狐の獣人ですわ」

 


 セシリア!! セシリアがルーニを助けに行ってくれて、しかも助け出してくれたの!! 信じられない!! それにテトラの名前も憶えている。あの可愛い狐の女の子。


 私がまだ幼い頃に、一緒によく王都近くの森に薬草を採取しに行った。一緒にお手製のキャンプ道具を作った事、書庫で世界の事を調べたりした事もあった。他にも色々と、テトラとの思い出がある。あのテトラとセシリアが、ルーニを救ってくれていたなんて。


 ――――物凄く気持ちが熱くなった。



「ドルガンド帝国が、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』を使ってルーニ様を誘拐した事は、ルーニ様の祖父を怒らせたわ。それで我々公国と帝国の同盟は、破綻したのよ」



 ルーニの母親は、私の義母エスメラルダ王妃。そして、王妃の実父がヴァレスティナ公国のエゾンド・ヴァレスティナだった。ルーニやエドモンテが、エゾンド公爵の孫だという事を帝国は知らなかったんだろうか。


 何にしても、帝国の仕掛けた王族を誘拐するという計画は、エゾンド公爵の孫であるルーニを誘拐した時点で大きな過ちとなった。帝国と公国は、裏で手を取り合っていたようだけど、これで両国のこの関係は最悪なものになっただろう。



「わたくしが誘拐する計画を遂行していた事は事実ですもの。今更、弁明する気はないわ。だけれど、ルーニ様の件は我々の国も、望んでいなかった。だからルーニ様の義姉であるあなたには、一応話しておきたいというわたくしの考えでしたのよ」


「教えてくれてありがとう、シャルロッテ。ミシェルやエレファの時の事は、未然に防げたし今更別に何も言う気はないわ。あなたも、立場があっただろうしね」



 笑ってそういうと、シャルロッテは一瞬意外そうな顔をしてから笑った。


 戦争なんて愚かなものは、この世から無くなってしまえばいいのにと思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ヘリオス・フリート 種別:ヒューム

SSランクの伝説級冒険者。アテナの師匠で、アテナに剣術や体術、キャンプのやり方や魅力を教えた。ヘリオスの戦闘スタイルも二刀流で、アテナの愛刀ツインブレイドは、ヘリオスから譲り受けたものだと思われる。


〇ゲラルド・イーニッヒ 種別:ヒューム

クラインベルト王国最強と言われる剣士。近衛兵隊長でもある。斬鉄と言う、鉄をも切り裂くという剣を持っているが、その剣の腕も凄まじい。そして、剣だけではなく槍も巧みに使いこなすようで、大切にしていた一級品の槍『涯角槍』をテトラ・ナインテールに授けた。


〇ローザ・ディフェイン 種別:ヒューム

クラインベルト王国の国王陛下直轄の騎士団『青い薔薇の騎士団』の団長。アテナやルシエル、ミャオとは親友でいつかまた一緒にキャンプや冒険をする日を楽しみにして、日々の騎士の勤めに力を注いでいる。


〇ルーニ・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国第三王女。アテナやモニカ、エドモンテの妹。闇夜の群狼という巨大盗賊団と、ドルガンド帝国に誘拐されるが、テトラ一行が助け出して王国へ連れ戻した。現在は王宮で元気に勉強したり、暴れたり、王女の職務に励んだり、暴れたり、暴れたりしている。アテナに憧れている。


〇エドモンテ・クラインベルト 種別:ヒューム

アテナやモニカの腹違いの弟で、エスメラルダ王妃の息子。現在は、クラインベルトの王子ではあるがもともとはヴァレスティナ公国からエスメラルダと共にやってきた。父親は不明で、セシル王にすらそれは明かされていない。アテナの事が嫌いなようで、事あるごとに嫌味を言ってアテナを挑発する。普段は大人でおおらかなアテナもエドモンテに対しては、お猿さんのようにムキ――ってなる。

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