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第206話 『シャルロッテ・スヴァーリ その1』




 シャルロッテは、剣を構えて警戒する私とルキアをよそに、おつきのメイドにテキパキと指示を与えて私達のキャンプのすぐ横に、勝手にテントを張り始めた。



「え? いったい、どういうこと?」



 そしてシャルロッテはテントに入っていくと、着ていたドレスから水着に着替えて再登場した。大胆で、大人っぽいセクシーな水着。程よい胸の大きさに、気品のある綺麗な顔と佇まい。スタイル抜群のプロポーションに目を奪われてしまっていた。だけど、すぐにシャルロッテが敵だという事を思い出し、惑わされてはいけないと、気を引き締めた。この人は、ガンロック王国で王女のミシェルとエレファを誘拐しようとしたのだ。


 ……あれ、ポールとかいうちょび髭の男は、今日はいないのだろうか? なんか、でございますよ、でございますよって言っていたちょび髭。



「ちょっと! 私達のテントの横に、あなたのテントを設置するなんてどういうつもりなの!」


「あら? いけないのかしら?」


「いけないわ!」


「なぜ?」


「だって、あなた敵でしょ!! ガンロック王国での事を忘れた?」



 ルキアも横で首を縦に振っている。ミューリは状況の理解に追いついてなく、私とシャルロッテの様子を交互に忙しく見ていた。だけど、暫くして飽きたのか諦めたのか、どうでもいいかという感じで焚火を弄いながらお茶を飲み始めた。



「わたくしが、敵?」


「だって、そうでしょ。あたなやちょび髭が、ガンロック王国でミシェルやエレファを攫おうとした事、覚えているでしょ? そうでございますよ、そうでございますよってあのポールってちょび髭が言ってちょっかいかけてきたじゃない」


「ああ、確かにそういう事もあったわね。だけど、それはそれでこちらにも事情があったからよ。今日は、そんなつもりでもないし、あなた達に危害を加えるつもりもないわ。だから、気にしないで頂けるかしら。それに王女を誘拐しようという誰かの計画は、見事に頓挫したしたようですし」


「気にしないでって、よくそんな事を言えるわね……それに誰かの計画って、あなたはそれが誰か知っているんでしょ?」


「オーーーホッホッホ!! 知っていても言う訳がないでしょ。なかなかユーモアのセンスがあるわね、あなた」



 ムッキーー!! このお嬢様は、どういうつもりで私達に接近してきているのだろうか。とても、友好的には見えないのに、隣にテントを設置するし。いっそ、火球魔法(ファイアボール)をテントに打ち込めば、少しは私達の気持ちも伝わるのではと思った。まあ、そんな事はしないけど。



「じゃあ、あっちへ行ってよ。あっちで、テント立てればいいわ。私達に、特に用はないのでしょ?」


「オーーーッホッホッホ。クラインベルト王国の第二王女ともあろう方が、なんとも小心なのですわね。今日はわたくし、オフでこの地底湖に羽を伸ばしにきているのですわ」



 え? この人は、私がクラインベルト王国の王女という事を知っている⁉ 不敵に笑うシャルロッテ。私はその事に驚いていたが、横で私よりも驚いてお茶を吹き出すミューリがいた。そういえば、ミューリとファムには、私が王族だって事を言ってはいなかった。



「あら、ごめんなさい。そちらのお連れの方には、あなたが王女殿下だという事を言っていなかったようですわね。オーーーッホッホッホ」


「それで、なんなの? オフで来ているのは解ったけれど、何もこれ見よがしに私達のすぐ隣でキャンプする事もないでしょ?」


「ありますわよ。ガンロック王国での一件以来、計画も頓挫してしまったわ。だから、あなた達の事を調べさせてもらったわ。あなたの趣味は、キャンプなんですってね。でしたら、隣でテントを張った方が、わたくしも色々と都合が良いと思いませんこと?」


「まったく意味が解らない。それに、それはあなたの都合でしょ! 私は関係ないんだけれど!」

 


 暫くシャルロッテとそんな問答が続いた。その間、シャルロッテのつれていた4人のメイドはルキアやミューリと会話をはじめ、カルビに至ってはメイド達の間で大人気になっていた。


 それからルシエルとファムが、沢山の魚と大きな青い蟹を引きずってキャンプへ戻ってきた。「お客さん?」って顔のファムに、ミューリが説明する。ルシエルも、シャルロッテの顔を見て思い出したようだ。



「ああーーー!! お前、ガンロックフェスでミシェルとエレファを攫おうとしたーー!!」


「あの時のハイエルフですわね。お久しぶりね。シャルロッテ・スヴァーリですわ」


「なんだ!! 今度はオレ達のキャンプを強襲しにやってきたのか⁉」


「単に羽を伸ばしにやってきたのですわ。それより、美味しそうなお魚と蟹ですわね。あなたが、それをおとりになったのですか?」


「お、おうともさ!」



 ルシエルは、ドヤ顔でファムと一緒に獲ってきた蟹と魚を、シャルロッテに見せつけて自慢し始めた。まだ何かあると警戒している私よりも、この敵だったお嬢様に早く馴染みだしたルシエルに驚きを隠せなかったけれど、まあそれもルシエルっぽいと言えばルシエルっぽいかなと思って納得した。



「美味しそうですわね。丁度、わたくし達もお腹が減ってきたところでしたわ」



 勝手にもらう気になっている。私は頬をプーーっと膨らませてシャルロッテにアピールして見せたが、お嬢様笑いをされて終わりだった。ルシエルが私の肩を叩く。



「もういいだろ? 一時休戦って事でいいんじゃないか。戦いは戦い、食事は食事。キャンプで食事するのは楽しいってオレに教えてくれたのは、アテナだったよな」


「う、うん。そりゃあまあね……」

 


 目から鱗。確かに、ルシエルの言う通りだった。私も昔、ドルガンド帝国の軍人に誘拐されかけた事があった。その時、お母様は大変なひどい目にあった。ルキアもそうだった。村から攫われ、奴隷として売り飛ばされかけた。ルキアと一緒に攫われたレーニとモロっていう子達は、亡くなった。私はそれを一生忘れない。だから、心のどこかでミシェルやエレファを私と同じように、誘拐しようとしたシャルロッテの事を異常に警戒してしまうのだと思う。



「大丈夫。本来の、優しいアテナでいいんだよ。何かあっても大丈夫だ。オレがいるだろ? オレは、なんたってチャンピオンだぞ! それに、ルキアにカルビ。ミューリとファムだっているから、今は優しいアテナでいいと思うぞ」



 たまに……本当にたまにだけど……ルシエルは、私の核心を突いてくる。


 私は溜息をつくと手招きして、シャルロッテとメイド達を焚火の周りに座らせた。

 

 




――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ポール・パーメント 種別:ヒューム

ヴァレスティナ公国の、ちょび髭男爵。アテナ一行がガンロック王国を旅した時に、ガンロック王都でミシェルやエレファを誘拐しようとしていた。アテナ達に阻止され計画は失敗し、今でもアテナ達に恨みを持っている。「……でございますよ!」が口癖。


〇四人のメイド 種別:ヒューム

ヴァレスティナ公国のメイドで、シャルロッテに付き従い身の回りのお世話をしている。カルビに興味を示している事から、四人とも動物好きなようだ。因みに、家事をこなせるだけでなく戦闘用の魔法なども使用できる優秀なメイドでもある。


〇ドルガンド帝国 種別:ロケーション

クラインベルト王国やノクタームエルドよりも北にある国。世界征服を目論んでおり、侵略戦争を起こしている軍事国家。アテナは過去に、ドルガンド帝国に誘拐されかけた事がある。因みに、テトラの生まれ育ったフォクス村も侵略をされた事がある。


火球魔法(ファイアボール) 種別:黒魔法

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。

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