第205話 『ルキアは、ユタンポを手に入れた。』 (▼アテナpart)
――――ノクタームエルドにある大地底湖。
お茶を入れて焚火の前で身体を温めながら、ルシエルとファムの帰りを待っていた。
ルキアは結構な長い時間、水の中にいたせいか冷えてしまって、身体を温める為にテントに入ってカルビを抱いて丸くなっている。折角だから、また泳ぐかもしれないので皆、水着のままだった。
まあ、冷えたら焚火に当たればいいし、ルキアが今抱いているウルフ型ユタンポのカルビもいるから大丈夫かな。それに本心を言うと、少し寒くても普段水着を着る事なんてないから、もう少し着ていたいっていうのもあった。
「ミューリが、薪を持って来てくれてよかった。私達もロックブレイクでいくらか買って調達はしたけど、この先この大洞窟内でまた薪が手に入るか解らないしね。あの薪茸っていう燃料も面白くていいんだけど、やっぱり焚火をするなら燃料は、木が落ち着くな」
「確かにー。僕もアテナちゃんと、一緒。木の方がいいな。それに、知っていると思うけどファムが風属性の魔法を得意としているように、僕も火属性の魔法が得意なんだよ。だから、こういう事もできる」
ミューリは何かを受け取る様な感じで両手を合わせると、魔法を唱えた。
「灯よ! 《魔法の灯》!」
ミューリの掌から、メラメラと燃える火の玉が現れて浮かび上がった。火の玉は、そのまま宙に浮いたままメラメラと燃え続け辺りを照らす。
「凄いー! ライティング系の魔法みたいね」
「アハハ。当たりー! ダンジョンとか、こういった洞窟で辺りを照らす、火属性系魔法なんだ。通常のライティング魔法と異なる所は、見て解る通り燃えている所。触れれば触れた物を燃やすし、触れば火傷をする」
私はミューリが作り出した魔法の灯に、両手を翳してみた。――暖かい。
「でも、魔力で燃えていても、それって実際に燃えている訳だから、こうして身体を温める事もできるよね」
「そだねー。でも大きさがそれだから、焚火に比べたら気休めだけどねー」
暫く、そんな談笑をして楽しむ。すると、テントの中からルキアとカルビが顔をにゅっと出してきた。
「あれ、もう大丈夫?」
「はい。それよりルシエルとファムさん、大丈夫ですかね?」
「うん、きっと大丈夫。だってルシエルだもん」
「大丈夫、大丈夫。なんたってファムだからねー」
ミューリとハモって言った。それを聞いてルキアが笑った。
「心配しなくれももう少ししたら、食糧を調達して戻ってくるよ。そろそろルキアも、こっちへ来て一緒に温かいお茶を飲まない?」
「はい、いいですね! 私もいただきます」
ルキアがテントから出て来た。ルキアが着ている水着もビキニだからお腹が冷える。なので、しっかりお腹を守れるように、カルビを抱いて出て来た。カルビは目を細め、すっかりやられたい放題になっていた。でも、君はもう今はユタンポなんだ。しょうがないんだよ。フフフ。
ルキアが焚火の前に座ったので、私はルキアの分と一緒に、自分とミューリの分もお茶を入れた。丁度、お代わりを入れたかったから良かった。お茶をすする。
ずずずず……
「温まりますね。これはでも、普通のお茶ですね」
「うん。私の作っていた薬茶はもう無くなっちゃったからね。また作りたくても、洞窟世界のここでは薬草が採取できないからね」
「ああ、確かにそうですね」
ルキアと共に、残念な顔をするとミューリがニヤリと笑った。
「実はこのノクタームエルドでも、薬草の採取できる場所はあるんだよ。限られた場所だけどね」
「え、本当に? か、回復キノコとかじゃなくて?」
「うんー! そだよー。明日でも行って見る? ここからドワーフの王国に向かう途中でなら、1カ所だけどそういう場所があるよ」
「本当に? そんな場所があるなら、行ってみたいかも!」
「そう? じゃあーー、うーーん」
ミューリは腕を組んで考える素振りを見せた。
「それなら、やっぱりこの地底湖で二泊しない? その薬草のある場所は、魔物もいる可能性のある所なんだけど、ここからそれ程遠くない。だから、このキャンプを拠点にして、明日は薬草採取に行ってまたここへ戻ってくる。その方が楽かなって」
なるほど。二泊三日か。こんな幻想的な場所、またいつ来れるかも解らないし、いいかもしれない。ルシエルに言っても、まあ間違いなく首を縦に振るだろうし。
「ルキア、いいかな?」
「はい。この場所に、二泊するんですよね。楽しそうで、ドキドキします」
「じゃあ、それでいいかな、ミューリ。ファムにも、お願いしてもらえる?」
「アハハ。ファムも薬草採取したいってちょっと前に言っていたからね。まったく、問題ないと思うよ」
「じゃあ、そういう事でよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!!」
私がミューリに頭を下げると、ルキアも慌てて下げた。
そんな楽しい会話を続けていると、私達のキャンプに不意に誰かが近づいてきた。
それに気づいて私は立ち上がって剣を取った。ミューリとルキアも身構える。こんな所へいったい誰? 気配でなんとなく、ルシエル達でない事は解る。
「あら、こんな意外な所でこんな意外な人物に出会うとは……なんとも奇妙ですわね」
聞いた事のある声。そしてその声の主の姿を見るやいなや、私とルキアは驚いた。
「その金髪縦巻きロールは!!」
「なんなのですか、失礼な! 私の名は、シャルロッテ・スヴァーリですわ。金髪縦巻きとかやめてくださる?」
ルキアが、動揺しながらもナイフを構える。
「この人は、ガンロック王国でミシェルさんとエレファさんを誘拐しようとした人ですよね!!」
「そうね。ミューリは、ちょっと現状を把握できていないと思うけど……危険な相手だからちょっと下がってて」
「え? うん……」
戸惑っているミューリ。
偶然にしても、まさかの相手と遭遇した私は、シャルロッテとその後ろにいる4人のメイドへ向けて剣を向けた。
シャルロッテは、そんな私に冷たい視線を向けた。
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〚下記備考欄〛
〇シャルロッテ・スヴァーリ 種別:ヒューム
アテナ一行がガンロック王国を旅していた時に、戦った相手。金髪立て巻きロールの髪型と服装から何処かのご令嬢であると容易に推測できる。シャルロッテと一緒に行動していたポールという男爵は、ヴァレスティナ公国の印の入ったボタンを落としていったので、公国の貴族であると解った。ガンロックで現れた時、彼女達はミシェルとエレファを誘拐しようとして、アテナ一行に阻止された。
〇ミシェル・ガンロック 種別:ヒューム
ガンロック王国の第一王女。ヴァレスティナ公国のポール男爵の手の者に誘拐されそうになっていた所をアテナが助太刀し知り合う。その後、仲良くなって世界的に有名なガンロックフェスにて一緒にアイドルライブに出演する。アテナ、ルシエル、ルキアとも友人となった。
〇エレファ・ガンロック 種別:ヒューム
ガンロック王女の第二王女。活発な姉のミシェルと違い、おしとやか。しかし、姉と同じくガンロックフェスでアイドルライブを行い、歌って踊った。その後、アテナ達とは良き友人となる。
〇魔法の灯 種別:黒魔法
火属性の下位黒魔法。メラメラと燃える火の玉を掌に生成し浮かせる。辺りを照らすのに使用するのが主だが、着火にも使える。
〇ユタンポ 種別:アイテム?
お腹が冷えたり、寒い夜は抱いていると温かい。その実態は、カルビ。温かい上に、鼻を近づけると干し草のいい匂いがする。あと、あんまり強く抱きしめると鳴く。




