第204話 『ブルーブレイドクラブを狩れ!』
便利な魔法覚えたさに思わずファムの水着を、ギューーンと勢いよく引っ張って喰い込ませるという、実力行使をしてしまったが、それで得た風属性魔法風の水中呼吸魔法の効果は絶大だった。水中でも息ができるという事の重要さ。それは水の中での泳ぎや、動きにも大いに関係する。
ブルーブレイドクラブという蟹系の魔物。そいつを仕留める為、この水中で呼吸ができるようになる魔法が使用できるようになるのであれば、絶対必要だと思った。
早速蟹に近づくと、右手の剣の方を振ってきて攻撃された。意外と早い。だが、この程度であれば――それをさっとかわして、すかさず槍で反撃。ハサミで槍が弾かれる。
(やるなー、この蟹)
シャアアアア!
再び槍で突こうとするも、ハサミで上手に弾かる。そこから続けて剣の方で、攻撃も仕掛けてくる。あの蟹の右腕、剣の切れ味がどの程度なのかはわからないが、あの大きさと勢いならまともに喰らったら両断されるかもしれないと思った。
今度は単純に振る動作では無く、突いてきた。咄嗟にかわして蟹との距離を詰める。槍で突くが、ハサミだけでなく身体も固く、身体の表面に突きを入れても攻撃が弾かれる。
キシャアアア!!
(くっそー!! これなら、どうだ!!)
甲羅は駄目だ。一番攻撃が通りそうな蟹の身体、関節部を狙って槍を突き刺した。すると、槍がグサリと突き立った。すかさず、蟹の身体に突き立った槍を両手で握りしめ、魔法を詠唱する。
(オレは風属性魔法が得意だけど、別に風属性魔法しか使えないって訳じゃないからな! つまり何が言いたいのかというと、雷属性の魔法だって使用できるってことさ。《電撃魔法》!!)
水の中での電撃魔法! それは諸刃の剣だった。術者であるオレの身体も痺れる。だけど、それは想定済み。これはもうどちらが先に音を上げるかの我慢大会だ。
(もういっちょ!! 喰らえ、《電撃魔法》!!)
バリバリバリバリ!!
強烈な電撃がオレの手から直接槍を伝い、蟹の身体へ流れ込む。
シャアアアアア!!
暴れる蟹。ハサミで自分に突き刺さる槍を引っこ抜くと、その場へ投げ捨てた。どうやら、かなりダメージはあったようだ。
水底に落ちていった槍を拾うと、その隙に蟹は逃げ始めた。
「ゴボゴボ……ファム!! 奴は逃げる気だぞ! 追い詰めて陸上に出せば、オレ達の勝ちだ! 追うぞ!!」
しかし、ファムの姿は無かった。いや、水面の方に何か浮いている。もしかして、それはファムか? 急いで、浮上して何があったかを確かめた。
「きゅう……」
「ファムーー!! どうした? 誰にやられた!!」
「ル……ルシエルにやられた……」
「え? オレ?」
「ルシエルがブルーブレイドクラブと格闘して気を引いているうちに、ファムは背後に回って攻撃して仕留めようとした。そしたら、ルシエルが急に電撃を放って……それで感電した……」
「ちちち、ちっくしょーー!! なんてことだ!! ブルーブレイドクラブ、いやアテナ蟹めえええ!! おのれええええ!! 許さん! 許さんぞおおおお!!」
「いや……だから君の攻撃の巻き添えで、ファムは……」
「ちくしょーーーがああ!! よし!! 仇はとってやるぞ、ファム! オレに任せろ!! かならず、あの蟹を狩ってきてやる!! まったく、なんてふてえ野郎……っていうか、ふてえ蟹だ!!」
オレは「おーーい」っという、ファムの声を耳にしながらも、槍を握りしめ再び蟹の後を追った。
「《風の水中呼吸魔法》!!」
水中でも息ができる呼吸可能魔法を詠唱し、潜水して及ぶ。所々に泡が舞っているが、間違いなく蟹が通った後の道標だと解った。
蟹を負って泳ぎ続けていると、だんだん浅瀬になってきた。やがて、水の底に足がつく高さになり、そのまま進み続けていると陸にあがった。
「ここにいたのか! 蟹めええ!!」
シャアアアア!
水からあがったその先に、蟹の巣がありそこに蟹はいた。身体の関節部、槍をさした部分からは血のようなものが流れ出ていた。
――手負いだ。
以前、クラインベルト王国でアテナやローザと旅をしていた頃、ヘルツ・グッソーと狩り友になった時の話だ。あの時、手負いのグレイトディアーを相手にして油断した時に大惨事になりかけた。
あれで、学んだ。こういう今みたいな特に大型の魔物が手負いの場合、決して油断してはならないと教わった。だから、決して油断はしないぞ。
ハサミと剣を突き出して威圧してくる蟹に対して、オレも槍を構えた。
シャアアアア!!
先に動いたのは、蟹。剣のついた腕を大きく振ってくる。続けて、横に薙いできた。空を斬る音。上体を逸らして避ける。だが、水の抵抗がないからだろうか水中で戦ってきた時の攻撃よりも早くてキレがある。
「まあ、それはこちらも同じなんだけどな!! っと!!」
思い切り、槍を投げた。蟹の身体に突き刺さる。暴れる蟹。
「いくぞ! 《突風魔法》!!」
両手を地面について、その両手から風を地に向かって放つ。その勢いでオレの身体は宙を飛び、蟹の真上にまで飛んだ。だが驚くのはまだ早い。両腕をひらいて左右それぞれの手に、風の剣を生成する。
「《風の剣》!! っと、《風の剣》!!」
――二刀流。まるで、青い髪……ボブカットの誰かさんと一緒。そう思うと口元がニヤける。
「今日の晩飯は、ご馳走だな!! これで、決着だ! 蟹!!」
シャアアアアア!!
大きく飛んだ真上から、蟹に向けて風の剣を突き刺した。反撃してくる剣とハサミ。避けては、斬りつける。
「だあああああ!!」
タイミングを見計らって突っ込むと、そのまま体当たり気味に左右2本の風の剣を、蟹の身体に深々と突き立てた。ようやく蟹は、泡をふいてその場に倒れた。
やった。アテナ蟹を仕留めたぞ!! ファムが駆けてくる。
「やったのか。流石、ルシエルだな」
「おう、ファム。ファムが色々魔法を教えてくれたお陰で、こんな大物を狩る事ができたぞ。ありがとう、今夜はご馳走蟹料理だぞ」
「見事に仕留めてくれたからいいが、ファムはルシエルに水着を大事な所に喰い込まされたり、感電させられたり大変だった」
「ま、まあまあ。それは、謝っただろ? ごめん、ごめんよー。本当にすまなかったと思っているうぅぅぅーーう!!」
「っぷ! なんだそれは。あはは、もういいよ。さあ、ミューリ達が待っているキャンプへ戻ろう」
笑い合うと、ファムに槍を返した。やっぱり、気の合う者同士で狩りをするのは楽しい。
「じゃあ、この蟹、どうやって持って帰ろうか」
「その辺に生えている蔓をロープにして、身体を縛って引っ張ろうぜ。この大きさだから大変だろうけど、水の中だと、浮力があるから多少ましだろう。駄目だったら、なんかまた、そういう便利なファムのお助け風魔法で。…………あるんだろ?」
「まあ……あるけどね」
キャンプへの帰り道は、蟹を追って来たルートを辿って、再び泳いで帰った。キャンプまで、蟹を引っ張って運ばないといけないという事もあったが楽しかった。道中、蟹を引っ張って泳ぎながらもファムと風魔法の事や、冒険者の仕事の話などをしながら帰った。
また一人、自分に狩り友……マブダチが増えたと思った。
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〚下記備考欄〛
〇電撃魔法 種別:黒魔法
下位の雷属性魔法。手から電撃を放ち、敵を攻撃する。ダメージを与える以外にも相手によっては、痺れさす事も可能。
〇突風魔法 種別:精霊魔法
風の下位精霊魔法。衝撃波の如き風を、手の平から瞬発的に放つ魔法。本来は対象物や攻撃対象を吹き飛ばす魔法なのだが、ルシエルはそれを地面に向かって放ち宙へ飛んだりとユニークな使い方をする。ルシエルは、いくつか使える精霊魔法の中でも特に風魔法を得意としている。




