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第202話 『風の剣』 (▼ルシエルpart)



 良い釣り場を見つけた。


 そこで、ファムと釣竿を垂らしてから、交互に魚を釣りあげること数十分――――合計12匹も釣りあげる事ができた。これだけ聞くと、まずまずの釣果だ。だが、そこに至るまでにオレは大物を逃がしていた。


 一度は針にかかり、引き上げようとすると物凄い勢いで引っ張られた。ファムに助けを求め、二人で竿を引いた。ファムの用意した釣竿と糸は特殊なもので、水性系の魔物ですら対応した超丈夫なアイテムだった。


 だから、竿が破損するという事はなかったんだが、その大物との死闘は数分続き、その果てにオレとファムは逆にその大物に水の中へ引きずり込まれてしまったのである。


 そんな状況下なのに、オレは水着を着ていて良かったと気楽に思っていて、それが表情に出ていたのかファムに呆れたという顔をされた。


 大物が釣り針に喰いついて、オレ達ごと水中を30メートル程引っ張った所で針がプツンと外れた。オレとファムはひとまず先程まで釣りを楽しんでいた場所まで泳いで、陸にあがった。



「見たか? ファム」


「見たよ」


「大物だった。でも、あれ魚じゃなかったな」


「うん。魚じゃなかった」


「確かに魚では無かった。オレもそれは確認できた。それで、ファムはあれがなんだったと思う?」


「うーーん、蟹かな」



 そうだ。蟹だった。バカでかい蟹。凄い力で俺達を水中へ、引き込んだ。水と泡。引きずられながらもオレ達が目にしたのは、とても美味しそうな大きな青い蟹だった。



「青い蟹だったから……ぷぷぷ……アテナ蟹と名付けようか」


「違うよ。あれは、ブルーブレイドクラブっていう蟹系の魔物だよ」


「ブ、ブルーブレイドクラブ? ブルーってのは、色だろうけど、ブレイドっていうのはなんだ? 蟹ってハサミだろ?」


「ブルーブレイドクラブの右腕を見た? 剣のような形状だったと思うけど、実際あれは剣だ。ブルーブレイドクラブは、普段食事したり生活するのに、左腕のハサミを使用し、縄張り争いや戦う際において右腕の剣を使うんだよ」


「へえーー。流石、ファムだな。なんて物知りなんだ。そんな蟹なんだな、アテナ蟹は」


「だから、ブルーブレイドクラブだってば。本来はもう少し小さいはずなんだけど、この地底湖にいるさっきの奴は、大きい」


「それで、どうなんだ?」


「どう……とは?」


「美味いのか? さっきのアテナ蟹は美味いのかな?」


「ファムは食べた事ない。だけど、蟹だしね。美味しいんじゃないかな」



 …………なるほど。美味しいのか。


 じゃあ、何としてもあのアテナ蟹を食べたくなってしまった。しかし、あのサイズだといくらファムの用意した釣竿が、丈夫だといってもさっきのように引きずられるのがオチだ。とても釣り上げるなんてのも無理だろう。だとしたら、直接近づいて仕留めるしか奴を狩る方法はなさそうだ。


 ……そうだ、そうなるともはやこれは、釣りではなく狩りと言える。



「ファム。なんとしてもあのアテナ蟹を食べたいぞ。その為には、どうすればいいかな?」


「ルシエルは、本気?」


「おお! ルシエルは、本気だ!」


「……それなら、普段ファム達が冒険者として魔物と戦ったりしているように、普通に戦って倒すしかないね。でも、武器はある? キャンプまで武器を取りに一旦戻ってもいいけど、時間が経つ度に蟹は逃げてしまう確率が高まるよ」



 確かにそうだ。だから、狩りをするなら今所持しているもので、勝負しなくてはならない。


 一応護身用にナイフは、持って来た。弓矢はキャンプに置いている。



「ファムは?」


「ファムは、釣り竿と一緒槍を1本……あと、ナイフを持ってきている」



 槍か。それなら、なんとか……なるのだろうか? 槍を手にとろうとしたら、ファムが槍を掴んで言った。



「駄目だよ、これはファムのだよ。自分の武器が無くちゃ狩りができないのなら、危険も大きいし諦めた方がいい」



 うーーん。どうしよう。だけど、蟹は絶対食べたい。それにアテナ達も蟹をとって戻ったら踊って喜ぶはず。満面の笑みでヨダレを垂らして喜ぶ顔も、見える。プププ……


 キャンプに戻れば、アテナにツインブレイドを貸してもらうという方法もあるかもしれないが、どうせなら驚かせたい。仕方ない……ナイフでやるしかないか。


 ナイフを握りしめ、湖の方を見るとファムが言った。



「どうあってもやるようだね。……しょうがないな。これはファムの槍だけど、特別にこれを貸してあげるよ。ルシエルは、槍を使えるの?」


「サンキュー。弓やナイフなら、得意なんだけどね。まあ、獲物に向かって刺せばいいんだろ? なんとかなるさ。しんぱーーい、ないさああーー」



 ファムが一瞬、イラッとした顔をしたので、頭を撫でて誤魔化した。


 ファムから槍を受け取る。でも、そうするとファムはどうやって蟹と格闘するんだ? そう思った時だった。ファムが魔法を詠唱し始めた。



「風の剣よ、わが手に! 《風の剣(エアブレード)》!!」



 ファムの右手に風が集まり始め、十分に風を纏った状態になると、それが縦に伸び始める。やがて、右手に纏った風は、剣状になった。なんとファムは、魔法で風の剣を作り出したのだ。

 


「うひょーー、す、すげーな!! そんな風魔法があったなんてな!!」


「ルシエルも同じようにすれば、できるんじゃないかな。だって、風魔法が得意なんだし」



 確かにそうだ。オレの場合は、ファムの使用する黒魔法ではなく精霊魔法なのだが、風属性魔法である事は同じだ。しっかり、コントロールできればオレにだって風の剣を作り出す事は可能なはず。



「そうだな。使うなら、槍よりは剣の方がまだ慣れている。オレも風の剣を作り出してみる。ファム、オレに剣の作り方を教えてくれ」


 

 ファムに槍を返し、教えを乞うとファムは「いいよ」と言って、丁寧に教えてくれた。教える方も教わる方も、風属性が得意分野。オレはその場ですぐに風の剣を作り出す魔法を覚えた。



「よーし!! オレだって、使いこなしてやる。風の剣よ、我が手に宿れ!! 《風の剣(エアブレード)》!!」



 風が集まる。オレの腕にも、風の剣が出来上がった。しかもファムの作った剣より、ちょっぴり長め。フヘヘ。調子に乗ったのが伝わってしまったのか、ファムに睨まれた。



「ほんじゃ、準備もできたし、いざ蟹獲りに行こうか!」


「うん。行こう」



 ザッパーーーンッ


 オレとファムは、アテナ蟹を狩る為、再び地底湖に思い切り飛び込んだ。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ブルーブレイドクラブ 種別:魔物

蟹の魔物。大きな魔物で、標準的なものでも小屋位の大きさがある。左の爪がハサミで、右の爪が大きな剣になっている事と、身体が青い色の事からブルーブレイドクラブと名付けられた。アテナも同じく髪の色と瞳が青いので、ルシエルはこの魔物をアテナ蟹と名付けた。


〇ツインブレイド 種別:武器

アテナの持っている武器。特級品クラスと思われる武器で、二振りで1セット。アテナはこの剣を一刀もしくは二刀流で使っている。


〇ファムの槍 種別:武器

鉄と何かで作られた合金。もしくは、鉄に似た何かの金属で作られた槍。ミューリは、ナイフを所持していたがファムは槍を使う事ができるようだ。


風の剣(エアブレード) 種別:黒魔法

中位の風属性魔法。手に魔力を含んだ風を集めて、剣を生成する魔法。具現化するのに魔力と風が必要であり、使い続けるのは不可能。一時的な戦闘で使用するなどが基本。

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